投資について勉強を始めると、相場の動く要因について学びます。要因は数多く、しかもそれらが複合的に組み合わさり、また、その時々の市場参加者が何に注目をしているのか、トレンドは何なのかによって変わりますので、一言では言い切れないことも多いものです。勉強したから相場がわかるとは言えないのは、そうした理由からです。
今回の一連の流れにおいても、教科書的に見れば、為替相場では以下のような動きが考えられます。為替の動きは通常株価にも反映します。
1)地政学的リスクの高まり ・・・ 一般には「有事の金・ドル」。金は現実に安全資産として買いが膨らんでいる。米ドルについてはシリア爆撃の当事者で、米ロ関係の悪化の予想から売られて然るべき。
2)雇用統計の予想より弱い内容 ・・・ 景気が停滞、もしくは弱いサインとして利上げが遠のくことが予想され、米ドルは売られる。
ところが実際には以下のようになっています。
1)米ドルは爆撃の報道時に一時的には売られたが、意外にも持ち直し、「上値が重い」程度でこれまでのところ推移。2)の影響もあり。
2)数字は弱くともインフレ期待を後退させるほどのものではないという認識。NY連銀総裁の発言により、利上げ継続への期待が強まり、米ドルは買い戻し。
これらの背景には、根拠のない確信のようなものが市場参加者に共有されていることがあります。理屈で考えると首をかしげたくなりますが、トランプ相場が続くという期待感。もちろん、様々なところで、既にこうした期待相場のほつれは指摘されてはいますが、人の性なのでしょう。「信じたい」という人が多ければ相場は堅調になります。多少雇用統計の数字が弱くても、それは「たまたま」で、実際に景気はもっと強く、利上げは続くものだと期待するのです。
トランプ大統領が誕生したとき、多くの投資家が相場急落を懸念したにもかかわらず、上昇相場に転じました。相場には理論的経済的解釈はたくさんされますが、結局のところ、参加者の共有感「気」が一番強く出るというわけですね。
相場と対峙するとき、特に短期投資タイプの投資家であれば、その「気」を的確につかむことがポイントです。何が理論的に正しいのかではなく、市場参加者が何を期待しているのかを知ることです。長期投資家タイプは本来の経済の姿を捉える方を優先する方が良いでしょう。投資スタンスによって注意すべき点が異なりますから、自身のスタイルを認識することが重要ですね。
廣澤 知子
ファイナンシャル・プランナー
CFP(R)、(社)日本証券アナリスト協会検定会員