11月下旬より政府が策定する資産所得倍増プランの案について報道されています。2023年の税制改正大綱が12月中旬には発表される見込みですが、有識者の方たちは現状の案についてどう考えるのか、意見をうかがいました。(掲載は五十音順)
※2022年6月23日掲載した「資産所得倍増プランへの提言」も合わせてご覧ください。
NISAの抜本的改革や恒久化、iDeCoの制度改革を
岩城 みずほ 氏 CFP®️、社会保険労務士、FIWA®️、MZ Benefit Consulting株式会社 代表取締役
人生が長く、多様化している中、誰にとっても自分のライフプランに合わせた資産運用が必要な時代です。NISAの抜本的改革や恒久化、iDeCoの制度改革を強く望みます。
国民の自助努力を支援するため、要になってくるのが、「第三の柱:消費者に対して中立的で信頼できるアドバイスの提供を促すための仕組みの創設」ですが、必要なのは、「中立的な」ではなく、顧客の立場に立ち、もっぱら顧客の利益のみを考えて必要なアドバイスをする「顧客本位のアドバイザー」であるべきです。
資本市場で、金融事業者は長期で安定した資金を調達し、また、家計は長期で資産形成をし
ます。マーケットでは両者のパワーバランスが均衡することが重要で、そのためには立場の弱い家計をサポートすることが必要です。
掲げられている「金融経済教育推進機構(仮称)」は、中立性をどう担保するのか、国民にわかりやすく公表することが必要です。合わせて、国が主体となり、各省庁の連携をもって、「もっぱら国民のために」、ライフプランに合わせたマネープラン実現のための自助努力への支援、金融リテラシー向上のための金融経済教育を目的にして欲しいと思います。
機構が認定・育成するという「顧客本位のアドバイザー」についても、何をもって「顧客本位」と定義するのか、認定基準をわかりやすく公表し、ゆくゆくは、認定者のリストや育成プログラムの公表も不可欠だと考えます。
資産活用世代への視座も不可欠
野尻 哲史 氏 フィンウェル研究所代表
導入時からかかわってきた者にとって、NISAの恒久化・無期限化は感慨深いことです。かなり英国ISAに近づくことになります。ただ、「貯蓄から投資へ」を進めるには、若年層の資産形成促進だけでは不十分です。年代別の投資保有額を推計した結果、60歳以上の保有額は39歳以下の20倍に達していました。
だからこそ若年層の資産形成を進める意味があるのですが、その一方で高齢層の有価証券を現金化する仕組みにメスを入れる必要もあります。退職時のDC引出に伴う現金化を抑制するために現物でロールオーバーできるようにするとか、認知・判断能力の低下時期に成年後見人が資産をポートフォリオで管理できる仕組みを作るとか、高齢者に必要な「顧客の側に立ったアドバイザー」を育成することなど、多々課題が残っていると考えます。
中立的なアドバイスとともに気持ちに寄り添い人生を豊かにするアドバイスができるような環境づくりを
山中 伸枝 氏 心とお財布を幸せにする専門家 ファイナンシャルプランナー(CFP®)
「消費者に対して中立的で信頼できるアドバイスの提供を促すための仕組みの創設」に特に注目しています。なぜならば「貯蓄から投資」の流れは、適切なアドバイザーの存在なくして進まないと考えるからです。確かにNISAの抜本的拡充や恒久化、あるいはiDeCoの加入可能年齢の引き上げ等は魅力的な内容ですが、投資そのものを始めていない方にとって、それらは自身の人生になんの変化ももたらさないからです。
FPのライフプラン相談では、資産形成の必要性は十分理解しているのに、いざというと一歩が踏み出せない、長期運用が大切だと頭では分かっているのに、どうしてもマーケットに一喜一憂してしまうという声をたくさん聞きます。そもそも投資なんか興味がない、人生設計そのものに考えが及んでいないという方も少なくありません。それらの気持ちに寄り添い、お金を増やすことだけにとどまらず、人生を豊かにするためのアドバイスで国民の貯蓄から投資を支える存在が求められます。
金融教育と共に家計の教育も不可欠、年代に関わらず適正な資産形成ができる環境を
横山 光昭 氏 家計再生コンサルタント、株式会社マイエフピー代表
投資をしている人は、未だ6人に1人程度。その理由をみても、投資は新奇なものという視点から抜け出せない現状が推測できる。まずはそこからの脱却を図りたい。
制度の拡充は、老後や将来の資産へのメリットが大きい。だからこそ、投資未経験者が「やらねばならない」と思えるほどの環境整備もされるべきだ。家計相談の現場では、赤字続きなのに投資額を増やす、生活防衛資金が十分ではないのに預貯金せず投資だけをする、すぐに成果を感じない投資手法ゆえに不安を感じ、高リスクな投資に走るという人を、よく見てきた。
そうならぬよう、投資の教育・指導ができる体制は重要になる。つまり金融教育と共に家計の教育も不可欠となっていく。どの年代も適正な資産形成ができる環境を期待したい。