6月7日に経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)と「新しい資本主義」の実行計画について閣議決定されました。その中で「資産所得倍増プラン」としてNISAやiDeCoの拡充などが検討されています。有識者の方たちはこの動きをどう考えるのか、意見をうかがいました。(掲載は五十音順)

「NISA・iDeCoの制度の見直し」「フィデューシャリーデューティの強化」「法整備」の三位一体で推進を

岩城 みずほ 氏 CFP®️、FIWA®️、MZ Benefit Consulting株式会社代表取締役

岩城 みずほ 氏

6月上旬に閣議決定された「骨太の方針」において、「貯蓄から投資へ」のための「資産所得倍増プラン」は、国民が総株主になることで企業成長の果実を国民が享受することを期待しているようです。

「資産所得倍増プラン」には、個人の金融リテラシーの向上に取り組むこと、適切な情報提供の充実や金融商品取引業者等による適切な助言や勧誘・説明を促すための制度整備を図る等が示されています。少額投資非課税制度(NISA)や個人型確定拠出年金(iDeCo)の見直しと共に、アドバイザーの「フィデューシャリーデューティ(顧客本位の業務運営)」の強化、法整備の三位一体として進めて頂きたいものです。

なぜなら、英国と米国では、個人退職勘定(IRA)や確定拠出年金(401k)などが普及しましたが、制度面の充実とともに金融機関が儲けるためではなくお客様の資産を増やすために「フィデューシャリーデューティ(顧客本位の業務運営)」が強化され、法整備されてきました。

英国と米国では金融商品を売る販売員と、お客様ファーストのアドバイザーは明確に区別されています。アドバイザーは、相談者の現状や将来のライフプランなどをしっかり聞いて、その人に合う資産形成の方法を適切にアドバイスします。アドバイザーは金融商品を販売してコミッションを得ることは禁止されています。

制度面の充実、低コストの商品の提供、独立系の忠実義務を負ったアドバイザーの増加などの複数の要因もあり、英国と米国の個人の家計におけるリスク資産は増えてきました。日本も海外の事例を参考にし、改革をすすめていただきたいと思います。

「65歳以上の加入」より、60代前半の働き方による加入格差撤廃こそが課題

大江 加代 氏 確定拠出年金アナリスト

大江 加代 氏

現預金の過半を保有している高齢者の資産を少しでも投資へということ、で65歳以上のiDeCo加入が検討項目に挙げられています。しかし、60代前半のiDeCo加入は自営業やフリーランス等は原則加入できない状態となっており、働き方によって差があります。

iDeCoは国の年金を補完する老後資金を準備していくための制度です。その目的の趣旨に照らせば、国の年金が国民年金に限られる自営業やフリーランスにこそ60歳以降も可能な限り加入ができるしくみにして、老後資金として少しでも多く準備できるようにすべきです。

国民年金の加入を65歳までに延長すれば、iDeCoに誰でも65歳まで加入可能となる上に、加入期間が延びることで全国民の公的年金を手厚くすることにつながります。限られた65歳以上よりも、その手前の加入格差撤廃こそが喫緊の課題だと考えます。

必要なのは、若年層が資産形成を図るための「つみたてNISA」の恒久化

大江 英樹 氏 経済コラムニスト、オフィス・リベルタス代表

大江 英樹 氏

「資産所得倍増」のための方法は「個人が保有する金融資産を預金等から投資へ向かわせること」と「金融資産そのものを増大させること」しかない。金融資産を多く保有するのは高齢者層だが、彼らの資金を投資へ向かわせるのは容易ではない。なぜなら投資によるリターンの源泉はリスクを取ることだから、高齢者層が積極的にリスクを取るとは考えにくいからだ。

そこで重要になってくるのは、若年層が投資を通じて資産形成を図る施策だろう。これはとても時間のかかることと思われるかもしれないが、高齢者層の資産はいずれ子や孫へと移転されることになる。投資で重要なのは「自ら体験すること」であることを考えると、若年層が長期にわたって活用できる制度を拡充することは欠かせない。したがって「つみたてNISA」では、利用枠の拡大よりむしろ「恒久化」を実現することの方が優先課題ではないだろうか。

つみたてNISAの恒久化やiDeCoのデジタル化推進を

竹川 美奈子 氏 LIFE MAP合同会社代表/ファイナンシャル・ジャーナリスト

竹川 美奈子 氏

現役世代が無理なく資産形成を行えるプラン(収入の一部を貯蓄と投資に回していける)を望みます。リタイアまでに金融資産を倍増する、といった長い時間軸で見ることも大事です。そのうえで、NISA、iDeCoについて期待することをまとめます。

NISAについては、①「つみたてNISA」の非課税期間・制度の恒久化を行う。②口座内のスイッチングを可能にする(口座内の預け替えを認めることでより良い商品への変更、加齢に伴う商品変更等が可能になる)。③12で割り切れる金額に増額(ただし非課税枠の増額より恒久化が優先)。④ジュニアNISAの廃止に伴い未成年者も利用可能に。⑤対象商品の再検討等を行った上でつみたてNISAに1本化を検討(※1)。

iDeCoについては、自営業・フリーランスや企業年金のない中小・ベンチャー企業で働く人を取り残さない改正を望みます。具体的には①国民年金の加入年齢を65歳まで延長(誰もが65歳までiDeCoに加入可能に)、厚生年金の適用拡大を速やかに進める。②企業年金のない会社員の掛金の上限枠を拡大(※2)。③デジタル化を推進(マイナポータルで国民年金の加入手続等が電子申請できるようになりましたが、iDeCoもデータ連携を行い、利便性の向上を)。

※1 同じ指数に連動するインデックス投信の届け出は各運用会社1本に限定等
※2 2024年12月に企業年金のある会社員と公務員の月額上限額は「5万5000円-各月の企業型DCの事業主掛金-DB等の他制度掛金相当額(2万円が上限)」に統一される。企業年金のない会社員の枠は5万5000円に拡大を。

資産所得より金融資産重視を

野尻 哲史 氏 フィンウェル研究所代表

野尻 哲史 氏

金融課税強化からの切り替えは高く評価できるが、資産所得は扱いにくい概念だ。何が対象となる所得か、規模はどれくらいか、ほとんど知られていない。資産所得の倍増よりも、2000兆円の個人金融資産の倍増の方が分かり易い。

その際に留意点が2つある。第1は格差拡大を助長しないこと。保有資産額上位10%が利子・配当所得の約60%を占めるといわれ、資産の少ない現役層が、有価証券による資産形成を助ける仕組みを優先させるべき。NISAの非課税期間恒久化、商品の入れ替え可能化などが求められる。

第2は、近視眼的な解決策を求めないこと。個人金融資産2000兆円の2/3を保有する高齢者に有価証券を買わせるだけのアイデアは賛成できない。それよりも、後見人がポートフォリオで資産を管理するルールの導入、有価証券の相続時評価額の是正、相続NISAの導入など高齢者が有価証券を長く保有できる施策が重要。

NISAやiDeCoに法人インセンティブを導入し、福利厚生拡充や賃上げ同等の仕組みに

山中 伸枝 氏 心とお財布を幸せにする専門家 ファイナンシャルプランナー(CFP®)

山中 伸枝 氏

すでにNISAの恒久化やiDeCoの拡大に期待が集まっていますが、これらに法人が関与するインセンティブを検討していただきたいと考えます。具体的には企業からの奨励金の推奨です。

現行の職場NISAには、会社が関与する経済的なメリットはありませんが、これをNISA利用者へ会社が奨励金を出し、さらにそれを損金計上可能とします。また会社がiDeCo加入者に対し掛金を上乗せ拠出する(掛金は損金)iDeCo+をさらに普及させるために、もっと制度を簡素化かつ会社にとっての利便性を高めます。

企業年金などの導入が難しい中小企業に、運用がシンプルで福利厚生の拡充と求人に効果のある仕組みとして認識してもらえると、従業員にとっては賃上げ同等の効果となり、貯蓄から資産形成の加速にもつながると考えます。

現状の生活不安の軽減と投資への正しい理解、税制優遇制度の強化を

横山 光昭 氏 家計再生コンサルタント、株式会社マイエフピー代表

横山 光昭 氏

「資産所得倍増」。聞こえは良いが、まだどのような政策なのか中身は見えていない。政策内容ももちろん重要だが、国民はその前に現状生活の不安や、実際にどうすべきなのかを理解できていない、というのが私の実感だ。そのような状況下で良い政策にするには、投資への正しい理解が不可欠であり、その点も推し進めるべきではないか。

使われていない現預金のポテンシャルも確かに高いが、これからの若い世代が豊かになっていかなければ意味は薄い。若い世代は総じて、まだ十分な預貯金がないが、まとまったお金はなくとも、毎月賢くやりくりすることで、資産形成が十分にできる世界を願いたい。

そのために、現状の不安感を軽減させること、つみたてNISAの年間投資額上限の増額を。安心して投資と長く付き合っていけるリテラシーと税制優遇制度の強化を望みます。

企業年金などの導入が難しい中小企業に、運用がシンプルで福利厚生の拡充と求人に効果のある仕組みとして認識してもらえると、従業員にとっては賃上げ同等の効果となり、貯蓄から資産形成の加速にもつながると考えます。