先週、中国の3日連続の通貨元の切り下げは世界に大きなインパクトを与えました。言葉や介入によっての「通貨安誘導」はどの国も行うことがありますが、そもそも「切り下げ」という行為は固定相場制だからこそ。自由取引の変動相場制の通貨にはありませんよね。切り下げのみならず、突然の通貨取引停止といった措置が取られる可能性もこうした規制=マイナー通貨には考えられるのです。

過去において、例えばアルゼンチンは1990年代初め頃、アルゼンチンペソを米ドルと1:1の連動性(=ドルペッグ制)にしていたのですが、経済状況がその相場に相応しなくなり(当然のことながらアルゼンチンの経済力が米国と1:1であるはずもなく)、デフォルト、通貨規制の解除、ペソの大暴落、市場でのペソの信認の失墜へとつながりました。経済力が伴わないまま、強い通貨を導入、依存し、国の経済が危機に直面・・・最近頭を悩ませている国がユーロ圏にありますね。

今回の中国元の切り下げは3日合計しても約4.5%と、幅としては相場が荒れているときにはありがちな、驚くほどのものではありませんが、今や中国は世界第2位の経済大国であり、人、金、モノのどの動きも世界中に大きな影響力をもち、中国がくしゃみをすると世界のあちらこちらが風邪をひいてしまうという現実があります。そうした経済大国が自己都合だけでいとも簡単に市場操作を行うという大きなリスクに世界中の市場があらためて思い知らされたとも言えますね。
「中国は元を米国ドルに代わっての基軸通貨にしたいの?」
と聞かれたことがありますが、政府が管理し、好きに操作を行うような通貨は基軸通貨にはなりえません。

世界には経済基盤が弱く、自国通貨の信認が大きくないため、為替の固定相場制を採用している国は他にもあります。いくつか通貨制度をご紹介しましょう。

1.ドルペッグ制 :自国通貨の為替レートを米ドルに連動させる通貨制度。採用例:香港

2.通貨バスケット制 :自国通貨を複数の外貨の為替レートを一定の構成比率で計算したレートに連動させる通貨制度。採用例:シンガポール、ロシア

3.管理フロート制 :ある程度は市場に任せて変動させつつも、自国通貨の変動幅を設定、一定の範囲内で取引されるよう中央銀行が管理する通貨制度。採用例:中国
経済基盤が弱く・・・と前述しながらアジアを代表する経済国のシンガポールも固定相場制を採用していることに違和感を持たれた方もいるかもしれませんが、世界経済に占めるボリュームが中国とはケタ違いです。
日本もかつて固定相場制の時代がありましたが、1971年の米国、ニクソンショック(金ドル交換停止)で「ブレトンウッズ体制(金本位制)」が崩壊した後、変動相場制へ変更しました。(米ドルも金との固定相場制だったのです!)
中国の政治体制は変わらずとも、少なくとも自由経済の中では市場原理を尊重し、市場に混乱を起こさないような政策をとることを意識してくれることを祈るのみです。

廣澤 知子
ファイナンシャル・プランナー
CFP(R)、(社)日本証券アナリスト協会検定会員