みなさん、こんにちは。株式市場は乱高下が続いています。日経平均株価は依然としてボックス圏での推移にありますが、ここもとは変動が激しくなってきました。そろそろボックス圏を突き抜ける勢いが増してきているように私は感じています。

また、為替も一段と円安が進行することとなりました。今後の事業環境は、従来とは一線を画すものへと変化するかもしれません。そのため、当面の予断は禁物であり、引続きトレンドフォロワー的な目線を意識しておきたいところです。

振り返る海運株、この1年は上昇から下落基調へ

さて、今回は「海運株」をテーマに採り上げてみましょう。このテーマは、ちょうど1年ほど前にこのコラムで採り上げています。

この時は海運株が2021年のベストパフォーマーになる可能性を解説し、海運株の投資判断をする上で重要な世界の海運市況の存在をご紹介しました。同時に海運業界はそういった市況産業であるが故に、その業績動向の不安定性からPERや配当利回りだけを見て「割安」と飛びつくのはリスクが大きいとも言及しています。

結果的に2021年の海運株は出色のパフォーマンスとなりましたが、秋に大幅な調整が入りました。なんとか2022年春までは一旦回復したものの、その後は値を崩す動きとなっています。

その理由は海運市況の停滞にあります。注目度の高い海運市況指標であるバルチック海運指数(BDI)は、2021年10月に史上最高値となる5,500にヒットした後、その4ヶ月後にはコロナ前の水準となる1,300まで、2022年夏には1,000以下までの急落を演じました。

コロナ後の急速な景気回復で発生していた目詰まりが緩和され、同時に金利上昇によって景気拡大ピッチのスローダウンが予想されるようになってきたためです。秋に株価が調整したのは、これが原因です。ただし、その後一旦回復へと転じたのは、配当利回りや世界景気拡大への根強い期待が株価を下支えしたからと言えるでしょう。

現在、BDIは2,000近くまで反発している一方で、海運株は年初来高値からおよそ4割下落した水準に沈んでいます。また、大手では配当利回りが15%を越えるものもあり、PERに至っては軒並み2倍以下という水準にあります。

これらを見る限り、既に株価は割安という状況にあると言ってもおかしくないでしょう。既に海運会社は、2022年度に減益を軒並み想定しており、減配の意向も明らかにしています。

上記のバリュエーションは、この厳しい見通しを基準としたものでもあり、株価はかなりの悪材料を織り込み済みと考えることもできます。特に、この配当利回りの高さは出色で、さらなる減配がない限り、投資対象としての魅力は相当に高いと言えるのかもしれません。

海運株、株価反発が軟調な理由

ただし、ここで1つの疑問が生じます。これほどに配当利回りが高く、PERも極めて低い状況にも関わらず、何故株価が反発してこないのかです。

これらのバリュエーションは、インターネットなどで調べれば誰でも知ることのできる情報です。本来であれば、それに気付いた人が我先に投資資金を投入し、程なく株価の割安感は解消されてしまうことでしょう。問題は、何故、こういった割安な状況が持続しているのかということです。

答えは2つあります。1つは本当に誰も気づいていないケースです。株式市場の懐の深さを考えれば、俄かに信じ難いことですが、そういった例は確かに過去にもありました。多くは時価総額の小さな銘柄がその対象でしたが、海運株でも同様の事態が発生する可能性はゼロではないでしょう。

もう1つの答えは、株式市場は業績見通しや配当想定に対して、まだまだ減額修正リスクがあると見ているケースです。確かに現在明らかにされている見通し基準では割安に見えるものの、当初見通しの業績達成が困難であると考え、そういった観測で修正した場合のバリュエーションでは割安感がないはずだということです。

今後の海運株の見通しとは

日を追って世界景気の先行きにはきな臭さが燻ってきており、円安という追い風はあるものの、業績下押し圧力が高まってきていると考えても不思議はありません。株式市場としては、本当に企業が当初見通しどおりの業績・配当を実現できるのかを見極めようとしているのだと言えるでしょう。

言い換えれば、これから四半期決算が明らかになるにしたがい、バリュエーション算出の基準となる業績の「確からしさ」を確認しながら、バリュエーションの割安感は徐々に解消していく展開になるのではないでしょうか。私としては、現状の海運株はこの後者のケースに相当する公算が大きいと考えています。

景気連動型市況産業ではPERなどのバリュエーションをどう捉えるのかは注意が必要です。一般的にPERが低いと「業績から見て割安なので買いサイン」と考えるものですが、景気連動型の市況産業においては全く逆の評価となる「低PERは売りサイン」であることも少なくありません。

この理由は簡単です。PERが低いということは業績が好調ということですが、景気や市況はいつか必ず下向きになる以上、好調な業績はそれだけピークに近いと受け止めることができるのです。

このことは逆にも当て嵌まり、業績が厳しい局面(=高PER局面)は、そこが底となる可能性がどんどん増している、つまり買いサインと考えることができます。景気循環型市況産業では、こういったバリュエーションの捉え方を忘れてはいけません。