みなさん、こんにちは。自民党総裁選を前に、これまでの停滞感を吹き飛ばす勢いで日経平均は急騰を演じています。バブル崩壊後の高値も一気に更新し、株式市場は俄かに熱気を帯びてきました。

これまで私は「総裁選は買い」と繰り返し述べてきましたが、総選挙を左右する自民党総裁選の段階で早くも加速がついたという格好です。11月が有力と言われる衆議院議員総選挙までまだあと2ヶ月弱あります。

この間、株式市場には基本的に追い風が吹く可能性が大きいのではないでしょうか。コロナ禍で傷んだ経済、国民生活を如何に修復していくのか。選挙における熱い論戦に期待をしたいところです。

勢い続く海運業の株価指数

さて、今回は「海運株」をテーマに採り上げてみましょう。ご存知の方も多いと思いますが、2021年上半期は海運株の独壇場でした。日経平均が2020年12月末から2021年6月末まで5%の上昇にとどまったのに対し、海運業の株価指数は95%もの急騰を演じました。

これは業種別で見ると同期間で最も大きな上げ幅となっています。この勢いは現在も継続しており、日経平均が年初来で(直近の急騰を織り込んでも)やっと10%を越えたところなのに対し、海運業の株価指数は実に3.3倍にまで上昇しています。もちろんこの先の展開次第ではありますが、海運株は2021年のベストパフォーマーになる可能性が高まっているのです。

海運株が上昇する背景とは

では、なぜこれほど海運株が上昇しているのでしょうか。これはひとえに業績面での急拡大があったためと言えるでしょう。海運の主要企業では2021年3月期、13年ぶりに軒並み史上最高益を更新し、2022年3月期も一層の業績拡大を想定しています。

これに併せて大幅な増配にも踏み切っており、投資魅力度の引上げに取り組む姿勢を明確にしています。ファンダメンタルズの改善が株価の上昇に繋がるという流れは、とてもオーソドックスな展開と位置付けて良いかもしれません。

そして、海運業界におけるこのような業績の変化は決算発表を待つまでもなく、リアルタイムである程度予想がつくものでもあるのです。そのため、その都度、期待値が株価に織り込まれているという構造にあるのです。

リアルタイムで業績観測が可能なのは、日々の海運運賃市況が明らかにされているためです。海運業というのはまさにグローバルなビジネスでもあることから、貿易において非常に重要なコストとなる運賃市況、つまり輸送料に対し世界中の利用者が関心を持っていることがその背景にあります。

かくいう私もこの海運市況を毎日チェックしています。海運市況は貿易量が増加して船の手配がタイトになってくると当然上昇します(その逆のパターンも然りです)。いわば、海運市況は世界の景気動向を示す1つの指標でもあるのです。

主な海運市況にはバルチック海運指数(BDI)、中国コンテナ指数(CCFI)などがあるのですが、BDI、CCFIともに直近12ヶ月でおよそ4-5倍にほぼ一本調子に上昇しています。

海運大手は2021年5月の本決算発表時には慎重な業績見通しを発表しましたが、株価は企業見通しよりもこのような市況を注視し、特に株価にネガティブな反応は起こりませんでした(実際、時を置かずして業績見通しの上方修正に各社踏み切っています)。

このことからも海運会社に投資をする上で、海運市況を観測することが如何に重要なのかがわかっていただけるかと思います。

そしてそもそも海運市況が上昇している背景には、コロナ禍からの経済活動回復や商品市況の上昇、港湾混雑による洋上在庫の増加、さらにそれに伴う傭船不足の発生などがあります。春先にあったスエズ運河での座礁事故による輸送の遅れもそれに拍車をかけたと言えるでしょう。

現時点においてもこの構造に大きな変化は見られないため、海運市況は今後も高い水準で推移するとの見方もあるようです。

海運市況における留意点

ただし、留意しておかなければならないのは、市況というものは株価と同じく突然潮目が変わることもあり得るということです。実際、ここまで海運株は急騰していますが、PERというバリュエーションで見ればまだ一桁の水準にあります。

東証1部平均が16倍程度であることを考えれば、まだまだ割安、あるいは過小評価にあると言えるでしょう。それでもPERが一気に東証平均程度まで上昇してこないのは、やはり市況産業の不安定性を懸念しているからに他なりません。

このことは配当利回りからもよくわかります。いくつかの海運大手において配当利回りは軒並み6%を越えています。株式というリスク商品にも関わらず、この利回りは驚異的でさえあるでしょう。これもまた市況産業であるためにどこかで業績動向が急転換し減配するリスクがあるということを株式市場が嫌気しているということを示唆しています。

市況産業に属する企業に対しては、PERや配当利回りだけを見て「割安だ」と飛びつくことはあまりにリスクが大きいと受け止められているのです。投資に際しては、そのようなバリュエーションよりも、業績動向をリアルタイムで確認できる市況への注視こそ怠らないようにすることが重要なのです。

このような教えはバリュエーション投資を進める「教本」にはまず出てきません。投資手法というものは業種別に異なるということを是非、肝に銘じていただきたいと思います。