為替介入後の相場膠着化の理由

米ドル/円は、9月22日に約24年ぶりの米ドル売り・円買い介入が行われて以降、膠着化が目立っています。為替介入が行われた翌週からの週間値幅は2週連続で2円未満にとどまりました。それまでの週間値幅は3~5円程度が基本だったことを考えると、値動きが極端に乏しくなったと言えそうです(図表1参照)。

【図表1】米ドル/円の日足チャート (2022年8月~)
出所:マネックストレーダーFX

このような為替介入後の相場の膠着化は、今回の為替介入が行われる以前の最後の介入となる2010~2011年の米ドル買い・円売り介入局面でも見られた現象でした。この局面における最初の介入は2010年9月15日に行われましたが、その後米ドル/円は約半年間にも渡って80~85円といった5円程度のレンジで方向感の乏しい展開が続きました。ではなぜ、為替介入の後に相場の膠着化が続いたのでしょうか。

2010年9月15日の介入、そして今回の2022年9月の介入とも、介入額は2兆円以上の大規模なものとなりました。ちなみに、2022年9月の米ドル売り・円買い介入額は2兆8千億円と発表されていますが、これは8月の日本の貿易赤字とほぼ同規模です。単純に数字だけで言えば、9月の米ドル売り介入により、8月の貿易赤字が帳消しになったようなものです。

このように、一気に数兆円規模の為替介入が行われると、輸出入など実需ベースの為替需給を当面均衡化させる可能性はありそうです。日々の為替取引は膨大な規模になっていますが、その大半は投機的な取引であり、介入によってそのような投機的取引へのけん制効果が働くと、このように相場の膠着化が続くということではないでしょうか。

CPI発表で大相場となるか?

ただ、そんな介入後の膠着相場は今週分岐点を迎えそうです。今週は、市場関係者の注目度の高い米国の物価統計の発表があります。中でも、10月13日にはCPI(消費者物価指数)発表が予定されていますが、CPI発表後は過去2ヶ月連続で一気に約3円も米ドル/円が一方向に動くところとなりました。その意味では、膠着相場に終止符を打つ可能性は十分あるでしょう。

過去2回のCPI相場について、少し詳しく振り返ってみましょう。まず8月10日に発表された7月CPIが予想を下回ると135円程度から132円へ米ドル急落となりました。そして9月13日に発表された8月CPIが予想を上回ると、今度は142円程度から145円突破寸前まで米ドル急騰となりました。

このように、CPIの前年比上昇率が事前予想を下回ると米ドル売り、逆に事前予想を上回ると米ドル買いで反応し、一気に3円程度も一方向に相場が動くというのは、全盛期の米雇用統計発表後の相場展開を彷彿とさせるものでした。

ちなみに、今回の予想は、10月12日のPPI(生産者物価指数)の前年比上昇率が8.4%(前回実績8.7%)、そして13日のCPIは同8.1%(同8.3%)といった具合に、ともに前回より上昇率が縮小し、インフレの是正が緩やかに進むといった見方が基本になっているようです。

その上で、過去2回のCPI相場を参考にすると、あくまで事前予想コンセンサスを基準として結果がそれを上回った場合、瞬間的には米ドル買い、逆に下回ったら米ドル売りといった初期反応になる可能性はあるでしょう。

ただ9月FOMC(米連邦公開市場委員会)などを通じ、米金融当局のインフレ是正への強い決意が確認されてきたことから、米ドル売りに反応するのは、事前予想コンセサンスを結果が大きく下回るといった「ネガティブ・サプライズ」の場合に限られることも考えられます。

一方で、インフレ是正が鈍いことを示す結果となった場合は米ドル買いで反応しそうですが、前回のCPI相場までと異なるのは、日本の通貨当局による米ドル売り・円買い介入の実施も考えられることです。

相関性の高い米2年債利回りとの関係を参考にすると、既に米ドル/円は1998年8月の米ドル高値である147.6円程度前後まで上昇する可能性があります(図表2参照)。10月12日、10月13日の米PPI、CPI発表を受けて、米ドルがそんな1998年の高値を一気に更新するような場合は、改めて米ドル売り・円買い介入との攻防劇が展開し得るかもしれません。

【図表2】米ドル/円と米2年債利回り(2022年3月~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

それにしても、最近の政府及び通貨当局関係者の発言を参考にすると、今回の為替介入は急すぎる相場の動きをけん制することを目的としたもので、特定の水準への誘導を目指すものではなさそうです。そもそもインバウンド拡大においては、円安を活用するとの考え方もあるようですから、為替介入により米ドル安・円高方向へ大きく戻す動きになる可能性は低いでしょう。以上を踏まえると、今週の米ドル/円は143~148円中心での展開を想定したいと思います。