世界的な韓国の美容整形産業

美容整形クリニックの看板広告が多く並ぶエリア(カンナムエリアの地下鉄構内) 出所:スパークス撮影

韓国の美容整形産業は世界の美容整形市場の約4分の1のシェアを占めるとも言われています。そして美容整形産業は、大きく分けると2つの市場に分けられます。

1つは、手術的治療の“美容外科”です。そして、もう1つが、外科手術を伴わない保存的治療の“美容医療”と言われる分野です(美容医療という名称に明確な定義はなく、一部形成外科領域の治療も含めて、美容医療と呼ぶこともあります)。

現在、世界の美容医療の市場規模は約1.5兆円、年間成長率は約10%と言われています(各種データよりスパークス推計)。利用者が多い美容医療の主な施術内容としては、ボトックスやフィラーをはじめとした注射によるシワの改善、クリームなどの医薬品によるシミの改善、また、レーザーや高周波を利用した医療機器によるシワやたるみの改善などがあります。

美容外科と美容医療は、上記に挙げたような施術効果で一部オーバーラップしているため、お互いに市場を取り合っています。多くの利用者にとって、美容医療の方が手術を伴う美容外科に比べて心理的ハードルが低く感じることから、今後、美容医療が美容外科の市場を徐々に侵食していくのではないか、との見方があります(もちろん、美容医療も副作用などのリスクが伴いますので、安全というわけではありません)。

 

高い利益率で今後の成長が期待できる韓国の美容医療機器メーカー

韓国の株式市場には、美容医療に関わる企業が数多く上場しています。特に、ボツリヌス毒素製品やヒアルロン酸フィラー製品を開発するMedytox(メディトックス)社は有名ですが、今回はシワやたるみの改善、脂肪減少のための高周波を利用した美容医療機器を開発するClassys(クラシーズ)社について解説します。

同社は、2007年に創業し、2017年にKOSDAQに上場した、韓国大手美容医療機器メーカーです。高周波を利用した美容医療機器をメインに事業展開しており、同分野で韓国の国内首位に立っている会社です。既に海外にも積極展開しており、海外売上高は約70%を占めています。過去3年間(2019~2021年)の平均営業利益率は約50%、ROEも約30%と高い利益率を誇ります。

【図表】Classys社の売上(2017~2022年)
出所:同社発表データよりスパークス作成

Youtubeによるブランド戦略と安定収益が見込めるビジネスモデル

同市場には、複数の競合他社が存在しますが、なぜ、同社は高い収益性のビジネスを行うことができているのでしょうか。

同社の製品が一般消費者に注目されたのは、2018年に起こったある出来事がきっかけです。韓国のある有名人が、YouTube上で同社の製品を使った前と後の効果を比べた、いわゆるビフォー&アフター動画を配信し、その動画が拡散されたことで注目されました。

美容効果は個人差があり、また、個人の感覚による影響もあり、明確に計測することができません。そこで、最も重要になるのが、一般消費者に企業価値をより良く伝えるブランド戦略です。このYouTube動画をきっかけに、同社は一般消費者に対して効果的なブランドイメージを浸透させることに成功しました。以降、新製品を出せばヒットするという好循環のビジネスサイクルに入り、成長を遂げています。

また、同社の美容医療機器は、1台数百万円もする高価なものですので、景気が悪くなれば、病院やクリニックは買い控えます。すぐに新製品に買い替えなくても、数年間は、問題なく使用できるためです。もしそうなれば、同社の収益の安定性は、低下してしまいます。

しかし、美容医療機器のカートリッジ(肌や体に当てる部分)は、定期的に交換しなければならない消耗品のため、機器本体が売れなくても安定的に収益を上げることができるビジネスモデルになっています。

コピー機で例えると、機器本体は頻繁に売れなくても、インクトナーは毎日消耗され、替えが必要であるため、安定的に売れるということです。結果として、同社は、成長企業でありながら、安定的な収益を生み出すことに成功しています。

そして、このようなビジネスモデルの優位性を見て、2022年1月、米国のプライベートエクイティファンドのベインキャピタルが、同社の株式を約61%買収しました。彼らは、同社の製品を中長期的に米国やアジアなどへ展開し、成長を加速させるのが狙いのようです。

インターネットが普及して以降、マーケティングのルールが大きく変わりました。特に消費財を扱う企業では、何気ないネット動画やSNS上での拡散が、その企業のブランド価値を高め、短期間に急成長させる、ということが起こりえるのです。

企業の決算数字を見ることや財務分析をすることは、株式投資の基本です。ただ、どの企業に着目するか、どの業界を調べてみるか、という点については、意外に私たちの身近なところにヒントがあるのかもしれません。


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