先日、一昨年公開のジブリ作品『風立ちぬ』をテレビで初めて見ました。舞台の中心は関東大震災以降の日本なのですが、主人公の年齢と年代を見ていて一瞬「?」と感じた場面がありました。名古屋での銀行取り付け騒ぎが、1929年の世界大恐慌より何年か前のこととして出てきたのです。
私の不勉強と認識不足だったのですが、日本で昭和金融恐慌と呼ばれる金融不安は世界恐慌の2年前(1927年)に生じ、中小銀行のいくつかでは取り付け騒ぎが起きていました。関東大震災が1923年、その影響による昭和金融恐慌、その2年後には世界恐慌の打撃と考えると当時の日本経済は極めて不安定な状況だったわけですね。株の暴落、デフレ、失業率上昇、合言葉のように交わされる「景気悪い」の言葉・・・90年前の話とは思えません。世界恐慌以降の日本は積極的な財政支出で景気回復し、1935年には赤字国債増発の影響でインフレ傾向となっていきました。その後は戦争へとひた走るわけですが、最近の日本経済と微妙に符合する点も多く、「歴史は繰り返す」のか、なんだか恐ろしい気分になります。
さて、前述した「取り付け騒ぎ」。これは金融機関や制度に対する信用不安が広まり、預金者が自らの預金等を取り戻そうと金融機関の店頭に殺到、混乱する現象です。決して過去の話ではなく、最近でもギリシャや中国で起きていますし、日本でも2009年に、破たんというデマ情報がチェーンメール化して、佐賀銀行で起こりました。
取り付け騒ぎのきっかけとなるキーワードには「金融機関の破たん」の他、「預金封鎖」があります。この「預金封鎖」が最近NHKのニュースで取り上げられ、ネット上では今話題になっているようです。
預金封鎖は、国が財政破たんしそうになった時、国民の銀行預金などに対し税金をかけ、政府の税収を増やし財政の立て直しを目指す策です。実は日本でも第二次世界大戦後(1946年)に実際に取られた措置です。一斉に預金が引き出されるのを防ぐため、1日あたりに引き出せる金額に制限をかけ(完全な封鎖ではありません。)預金額に応じ、莫大な税率で国民の財産が吸い上げられたのが事実です。最近でも、キプロスで預金封鎖を実施しています。(ただし取り付け騒ぎが起きないように、金融機関窓口は営業停止にしてしまいました。)
ピケティ氏が提唱する資産課税が注目されるなど、国民の財産を国が税金として徴収する話題が多いですね。それだけ日本の財政悪化が顕著だということですが、日本経済の基礎体力は、戦後のそれともキプロスとも違いますので、必要以上に不安に思うことはないと信じています。
が、絶対安心とも言い切れません。対策としては自身の資産を日本円の現金や預貯金に集中させるのではなく、各種資産へ分散して保有することを心がけたいですね。

廣澤 知子
ファイナンシャル・プランナー
CFP(R)、(社)日本証券アナリスト協会検定会員