モトリーフール米国本社、 2022年7月5日 投稿記事より

主なポイント

・ハイテク企業や消費者が支出を控えているため、エヌビディアをはじめとする半導体株が大幅に下落
・エヌビディアのゲーム用チップは供給過剰であり、同社は先般、ファウンドリーパートナーに新型チップの減産を要請
・一方で、エヌビディアのデータセンター部門はメタ・プラットフォームズから朗報

ハイテク不況の影響で、エヌビディアは主力のゲーム部門が成長鈍化

景気後退懸念が高まる中、半導体業界は重苦しい雰囲気に包まれています。先週には、グラフィックスチップで好調のエヌビディアで、主力のゲーム部門の成長が止まるかもしれないとのニュースが飛び込んできました。

経済活動は活発ですが、インフレが消費者の購買力に水を差し、パソコン、携帯電話、ビデオゲームなどの需要が落ち込んでいます。一方で、最近の暗号資産の暴落に伴い、マイニング企業が、暗号資産のマイニングに使用されるグラフィックスチップの投げ売りを行っており、流通市場にはエヌビディア製の中古品があふれています。

先週、エヌビディアがファウンドリー(半導体の受託製造)パートナーである台湾積体電路製造(TSMC)に対し、新たな「RTX GeForce 40」シリーズ用チップの年内の減産を要請したと報じられたのも無理はありません。TSMC側が要請を拒否したため、エヌビディアは2022年に大量の在庫を抱えることになると思われます。

ところが、ゲーム用GPUの短期的見通しが暗い中、エヌビディアのデータセンター部門には、意外なところから朗報がもたらされました。

メタ・プラットフォームズは採用を減らすが、GPU投資は5倍に拡大

別のハイテク大手であるメタ・プラットフォームズ(旧フェイスブック)も、景気後退の兆しを感じ始めているようです。

最高プロダクト責任者のクリス・コックス氏は先週、従業員宛のメモで、同社が「断固とした優先順位付けを行う」構えであり、「深刻な時代に突入し、逆風は厳しい。低成長の環境下においてはミスのない経営が必要であり、新たなエンジニアが次々と採用され、予算が潤沢にあると期待してはいけない」と語りました。その後の質疑応答でマーク・ザッカーバーグCEOは、「あえて言うなら、今回は最近の歴史の中で最悪レベルの低迷となるかもしれない」と述べました。

ザッカーバーグ氏がメタ・プラットフォームズの株価のことを言ったのか、あるいは売上の伸びや経済全般について語ったのかは分かりませんが、1つだけはっきりしていることは、メタ・プラットフォームズがコスト削減を進めているということです。

ザッカーバーグ氏は上記のミーティングの中で、2022年の技術者採用数を、年初時点で目標としていた1万人から6,000~7,000人に減らす計画を明らかにしました。同氏はさらに、「従業員への要求をこれまで以上に高める」と述べ、業績の振るわない従業員の自発的退職を促すような発言をしました。

大手ハイテク企業がコストを削減するというのはサプライヤーにとって悪材料であり、エヌビディアのような半導体企業も例外ではありません。しかし、同じミーティングでザッカーバーグ氏とコックス氏は、自社のデータセンターのGPUを年内に5倍に増やす計画も明らかにしました。この大規模投資は、データセンター用GPUの最大手であるエヌビディアにとって好材料となるはずです。

なぜGPUなのか?

メタ・プラットフォームズは広告収入の落ち込みでコスト削減を図る一方で、TikTokとの熾烈な競争にも直面しています。今回のGPU投資は、新サービスであるリールや他のコンテンツのためのディスカバリー・エンジンを構築することを目的としたもので、ショート動画分野におけるTikTokの牙城に食い込むことが狙いです。

メタ・プラットフォームズが構築するディスカバリー・エンジンは、ユーザーの視聴傾向や友達の興味に合わせて投稿や動画を薦める上で、極めて高度な人工知能(AI)に依存します。ザッカーバーグ氏は第1四半期決算のアナリスト向けコンファレンスコールの際に、次のようにビジョンを述べました。

「今後、人々はますますAIをベースとしたディスカバリー・エンジンを利用して、エンターテインメントを楽しんだり、物事を学んだり、同じ興味を持つ人とつながったりするようになるでしょう。AIやさまざまなタイプのコンテンツへの投資、そしてクリエイターが生計を立てるための最高のプラットフォームの構築への取り組みにより、当社のサービスは同業他社との差別化が一段と進み、当社を成功へ導くと確信しています。また、世界一のディスカバリー・エンジンを構築するという意欲的なビジョンを持つことで、多くの優秀なAI技術者が当社に引き寄せられています」

データセンター市場が好調を維持できる理由

米連邦準備制度理事会(FRB)が利上げを行い、景気の引き締めを図る中、経済成長率は少なくとも減速し、最悪の場合はリセッション入りする可能性もあります。注目すべきは、PC市場やスマートフォン市場で、既にその兆候が見られることです。新型コロナウイルスのパンデミック以降の高インフレで、消費者は2020年や2021年の初めに買ったPCやスマートフォンをまだ使っており、需要のエアポケットが生じています。

とはいえ、メタ・プラットフォームズのGPU投資は、大手企業が戦略的な競争上の理由からAIやクラウドコンピューティングに投資していることを示しています。一般的に、AIやオートメーションは生産性や効率を向上させ、トータルコストを引き下げます。従って、こうした支出は、消費者向け市場と比べると、景気低迷の影響を受けにくいものです。

エヌビディアのジェンスン・フアンCEOが5月下旬の時点で、データセンター部門の見通しに自信を示していたのもそのためでしょう。ちなみに、エヌビディアと、ライバルのアドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)はTSMCに、ノートPC用やゲーム用チップの減産を要請しましたが、サーバー用の最先端チップについては減産を依頼していません。

昨今の株価下落で半導体銘柄への投資を検討しているなら、クラウドデータセンターやAIへのエクスポージャーが大きい企業に注目すると良いでしょう。2022年は、データセンターやAIへの戦略的投資は、民生機器向け支出よりもはるかに好調が予想されます。

免責事項と開示事項  記事は一般的な情報提供のみを目的としたものであり、投資家に対する投資アドバイスではありません。フェイスブックの元市場開発担当ディレクター兼スポークスマンであり、メタ・プラットフォームズのMark Zuckerberg CEOの姉であるRandi Zuckerbergは、モトリーフール米国本社の取締役会メンバーです。元記事の筆者Billy Dubersteinは、メタ・プラットフォームズと台湾積体電路製造(TSMC)の株式を保有しています。同氏の顧客は、記載されている銘柄の株式を保有している可能性があります。モトリーフール米国本社はアドバンスト・マイクロ・デバイセズ、メタ・プラットフォームズ、エヌビディア、TSMCの株式を保有し、推奨しています。モトリーフールは情報開示方針を定めています。