「レートチェック」をきっかけに起こった米ドルの「下放れ」

市場の予想に反して行われた米当局による「レートチェック」を受けて、米ドル/円はその日のうちに155円台まで米ドル安・円高に動いた。この日、もう1つ興味深かったのは円安けん制の「レートチェック」だったものの、それをきっかけに円以外の通貨に対しても米ドル安が大きく進んだことだろう。

ユーロ/米ドルはこれまで上限となっていた1.18米ドルの水準を超えるユーロ高・米ドル安となった。さらに翌営業日以降は、トランプ米大統領の米ドル安容認ともとれる発言が材料視されて1.2米ドル以上に一段とユーロ高・米ドル安が進むところとなった(図表1参照)。

【図表1】ユーロ/米ドルの日足チャート(2025年11月~)
出所:マネックストレーダーFX

ユーロ/米ドルは、約半年もの長い間1.18米ドルを大きく超えられない展開が続いていた。それがこの「レートチェック」をきっかけとしたユーロ高・米ドル安によって、上方向にブレークしたようになった(図表2参照)。チャート的には、ユーロの「上放れ」、米ドルから見ると「下放れ」のようになったわけだ。

【図表2】ユーロ/米ドルの週足チャート(2025年1月~)
出所:マネックストレーダーFX

これはユーロ/米ドルに限ったことではない。むしろ豪ドル/米ドルは、この間のトレンドからの豪ドル高・米ドル安方向へのブレークがより明確な様相となった(図表3参照)。要するに、「レートチェック」をきっかけに、円以外の多くの通貨に対する米ドル「下放れ」が広がるところとなった。

【図表3】豪ドル/米ドルの週足チャート(2025年1月~)
出所:マネックストレーダーFX

米ドル安拡大の確認により、円安阻止への協力に慎重になる可能性

こうした中で、チャート的にはほかにも気になる動きが見られた。ユーロ/米ドルの5年MA(移動平均線)かい離率は、上値が切り下がる一方で下値が切り上がる状況が続いてきた(図表4参照)。これは、ユーロ/米ドルの長期的な変化として、ボラティリティの縮小が起こっていた可能性を感じさせた。

複数国の統一通貨であるユーロ誕生により、経済規模が米国と拮抗したことの影響などが考えられた。ところが、最近のユーロ高・米ドル安により、切り下がってきた上値のトレンドラインのブレークが明確になった可能性が出てきたのである。

【図表4】ユーロ/米ドルの5年MA(移動平均線)かい離率 (1980年~)
出所:LSEG社データよりマネックス証券が作成

第2次トランプ政権の誕生以降、これまでの国際秩序を無視するかのような米国の言動を受けて「米ドル離れ」が広がってきたと見られている。今回の「レートチェック」を受けた米ドル「下放れ」はそれをさらに加速させ、米ドル安の流れを決定的にした可能性がある。

1月28日、米国の通貨政策の責任者であるベッセント米財務長官は、円買い介入について「断じてしていない」と強く否定したと報道された。このベッセント発言と前後して、米ドルは反発に転じた。通常の見方では、「レートチェック」以降に拡大した米ドル安の動きを鎮める意図があったということだろう。

日本に対する円安阻止への協力、選挙後に変わる?

今回の米当局による「レートチェック」は、自らが米ドル高への阻止や是正を目指したものではなく、あくまで日本の円安阻止に協力したと考えられる。特に円安リスクがくすぶる中で衆院選挙前の円暴落回避という高市政権の目的を支援する政治的意味合いが強かったのではないか。

ただし、それが米政権にとってのデメリットとなり、具体的には米ドル安を拡大させる可能性もあることが確認されたなら、この先円安再燃となってもそれを阻止するための協力に米政権は慎重になるのではないか。衆院選挙中の円暴落による高市政権へのダメージ回避との政治的目的が一段落した後はなおさらだろう。

「行き過ぎた動きに対しては、あらゆる手段を排除せず、繰り返しますが、あらゆる手段を排除せず、適切な対応を取りたいと考えている」。これは、1月14日に米ドル高・円安が160円に迫る中での三村財務官の発言だ。この発言は、2024年6月26日、為替介入再開を決めたと見られる際の、当時の神田財務官の発言、「あらゆるオプションがアベイラブル(利用可能)だ。何かを排除していることはない」とほぼ同じだ。

以上から考えられるのは、1月中旬、円安が160円に迫る局面で、日本の通貨当局では円買い介入再開を決めていた可能性が高かったということだろう。ただ当時から160円近辺での日本単独の介入で円安を止めるのは、今回は難しいとの見方が少なくなかった。考え過ぎかもしれないが、「あらゆる手段を排除せず」という言葉をあえて繰り返したことにも意味があり、それはこの時点ですでに日本の選挙中の円暴落回避で必要なら、日米協調の米ドル売り介入までの「密約」の示唆ではなかったか。

そうだとしても、それは「レートチェック」後の米ドル安拡大という反応を見ながら修正される可能性が出てきたのではないか。