先週の動き、ドル指数の騰勢止まず売られた金

先週9日以降のニューヨーク・コメックスの金先物価格(以下、NY金)は、大きく水準を切り下げた。週を通して連日20年ぶりの高値水準を更新して来たドル指数(DXY)が、週末には一時105ポイントを突破するところまで上昇した。

米ドル独歩高の様相に金市場ではファンドのアルゴリズム(投資判断プログラム)がヒットする状況が続き、NY金は下値を切り下げた。1,850ドルの心理的節目では抵抗が見られたものの、ドル指数の上昇に抗しきれずに下げ幅を拡大した。

ここに来て従来の想定以上にタカ派化している米連邦制度準備理事会(FRB)の金融引き締め方針もあり、不安定化している米債市場だが、先週は一時3.2%を超えるところまで上昇した。

株式市場では高PERのハイテク株が目立って売られたが、同時に金の売り手掛かりにもされた。5月13日のNY金の通常取引は1,808.20ドルで終了。この日はドル指数が105ポイントを超えた際に一時1,797.20ドルまで売られた。

終値ともに2月4日以来3ヶ月半ぶりの安値水準となる。週間ベースでは74.60ドル、3.96%安で4週連続の下落となった。週足の下げ幅は2021年6月18日の週以来の大きさとなった。

下値を切り下げた形のNY金の値動きを映す形で、国内JPX金価格も大きく水準を切り下げた。5月9日の終値7,861円に対し、米ドル/円相場が一時127円台を付けるなど米ドル安円高方向に進んだこともあり、週末13日は7,521円で終了。一時7,484円と3月23日以来の安値を付けた。

ロシアリスクを頭の隅に

なお地政学リスクの観点から注目されていた5月9日のロシアの対独戦勝記念日に合わせたプーチン大統領のスピーチは、無難に通過ということになった。一部で危惧された「特別軍事作戦」から「戦争宣言」への移行はみられなかった。

ただし、ウクライナに対する武器供与など西側のサポートの拡大は、ウクライナを押し立てた西側とりわけ米国の代理戦争との見方も強まっている点に注意が必要と思われる。

問題はロシア側の対応で、仮にロシア側の劣勢が明らかになった際に、不測の強硬手段に出る可能性は否めない。その際は株式市場などセンチメントを揺るがす可能性があり一定の認識が必要だと思う。NY金にとっては、ヘッジ買いが入る材料ではある。

リスクオフで売られる金の背景

先週は米国株も下げ幅を拡大した。ダウ30種平均は週末に反発したものの、前日5月12日の終値までで6日続落で2,330ドルの下げとなるなど、結局のところ、週足では7週連続の下げとなった。

7週連続の下落は2001年5~7月以来、21年ぶりのことである。同様にナスダック総合指数は週間で2.8%、S&P500は2.4%と各々下落し、両指数ともに6週連続の下げとなった。ナスダックは2012年10~11月以来、S&P500は2011年5~6月以来のことで、市場は比較的落ち着いているものの記録的な規模の下げにつながっている。

とはいえ、パニック的な売りにつながっていないのは、空売り(ショート)の買戻しで適度に反発が見られることによる。先週末5月13日の反発がそれでダウ30種平均は前日比466ドル高となったが、何か買い材料が出たわけではなく、短期的に下げ過ぎとみた売り方の買い戻しが背景とみられる。

ただし株式市場がパニック売りに転じるなど、さらなる市場の不安定化は安全資産としての金の特性に注目した買いが入ると思われる。この点で先週、バンク・オブ・アメリカ(BofA)のストラテジストグループがまとめたレポートが注目された。

「投資家は極端なリスクオフムードの中で株式、債券、マネー・マーケット・ファンド(MMF)、金などあらゆる資産クラスから資金を引き揚げた」という内容とされる。また、「暗号資産(仮想通貨)と投機的なテクノロジー株の下落は今やインターネットバブル崩壊や世界金融危機に匹敵する」と指摘している。

先週末まででドル指数の上昇は6週連続となった。ドル指数が上値をどこまで伸ばすのか、見極めにくくなっている裏にFRBによる積極的な引き締め観測に加え、不安定な金融環境がある。

リスクオフの米ドル(キャッシュ)需要の高まりが米ドルを押し上げ、結果的にファンドを中心にした金の売りにつながっている。ただし株式市場がパニック売りに転じるなど、さらなる市場の不安定化は安全資産としての金の特性に注目した買いが入ると思われる。

米4月のCPI、意見が分かれるピークアウト観測

先週5月11日発表の4月の米消費者物価指数(CPI)は前年同月比8.3%上昇と、3月の8.5%を下回り、伸びは8ヶ月ぶりに鈍化した。

しかし、市場予想(8.1%上昇)を上回った。前年比では引き続き40年ぶりの高水準を維持した状態にある。CPIの項目のうち3分の1を占める家賃は、1991年以降で最大の伸びを示している。

2021年の4月は4.2%上昇とインフレの加速が始まっていたタイミングで、その数値との比較となることから、今月以降の前年比の伸び率は抑えられるというのが、一般的な見方となっていた。

一方、FRBがインフレ指標として注目しているエネルギーや食品を除いたコア指数(コアCPI)は前月比0.6%上昇と、伸びは3月の0.3%から予想以上に拡大。前年比では6.2%上昇と、3月6.5%から鈍化したものの予想を上回った。

市場では、CPIの内容から物価上昇はピークに達したとの見方が一部で浮上。一方で、インフレ高止まりが長期化するとの懸念も根強く、見方は分かれている。

結果に対するこの日の市場の反応は、市場予想を上回ったことに反応し、発表直後に米ドルが対ユーロで急伸。それに沿ってドル指数(DXY)が104ポイントを超え、前日に付けた20年ぶりの水準に接近するところまで上昇した。

ただし終盤に軟化したこともあり、NY金は上昇(12.70ドル高)となり1,853.70ドルで終了。先週の取引で唯一の上昇となったが、やはりインフレ指標の高止まりが材料だった。

ピークアウトしたとの見方が生まれている米国のインフレだが、タカ派で知られるクリーブランド地区連銀のメスター総裁は、CPIの結果を受け「9月のFOMC会合までに、インフレに関する月次の数字でインフレが鈍化しつつあるとの説得力ある証拠が示されれば、利上げのペースを減速させることが可能になるが、インフレが鈍化しない場合は、より速いペースの利上げが必要になる可能性がある」と述べている。

また、物価がピークに達したとの結論に至る前に、「数ヶ月」は持続的に低下するのを確認したいとの見解も示した。

金市場で注目される消費者信頼感指数

インフレに関連して注目されたのが、週末5月13日に発表された5月のミシガン大学消費者信頼感指数(MSCI)の速報値だった。2011年8月以来の低水準となる59.1に低下した。4月確報値は65.2で、市場予想は64だったが、大きく下回ることになった。

同指数は、もともと調査項目がインフレに関連するものが多いことから、インフレに対する警戒感が消費者センチメントの低下につながっているとみられる。現況指数も63.6と、前月の69.4から低下し、2009年3月以来の低水準を付けた。予想は70.5だった。

この指標をあえて取り上げるのには理由がある。それはMSCIの低下が継続する際にNY金の上昇トレンドが続いたという経験則による。この指標の低下はそのままインフレの高止まりを映す傾向があることに基づくが、あまり知られていないポイントでもある。

【図表】ゴールド 縦軸:円建てゴールド/グラム(単位:円)
出所:マネックス証券

今週の展望: NY金は1,790~1,840ドル、国内金価格は7,300~7,700円を想定

今週も引き続きドル指数の動向が金を見る上でのポイントになりそうだ。リスクオフの米ドル買いの側面から、合わせて先週末に急反発した米株の動向にも注目したい。さらに先週はまとまった押し目買いに水準をやや切り下げる局面が見られた米長期金利も注目事項となる。

5月17日に発表の4月の米小売売上高も注目点である。予想は前月比1%の伸びとなっているが、下振れれば金の押し上げ要因となりそうだ。合わせて4月の住宅着工さらに中古住宅販売も注目指標となる。住宅ローン金利の上昇の影響を見る。金市場の関心の範囲は広い。

先週NY金が一時1,800ドル割れを見たのと同じく国内金価格も7,500円の節目割れを見ることになった。3月に騰勢を強めた際に注目を集めた金市場だが、足元のような静かなときが逆に買い場となると思われる。

ここまでの上昇相場の中で調整局面の踊り場に差し掛かっていると思われ、エントリーレベル、押し目買いのタイミングと思われる。今週のレンジはNY金で1,790~1,840ドル、国内金価格は7,300~7,700円を見込んでいる。