先週、日経新聞のコラムで『「貯蓄から投資へ」は掛け声倒れに終わった』と断言しているのを見て、私は、少々違和感を覚えました。
確かに日銀の統計上、個人金融資産に占める株式・投信の比率(約11%)も現預金比率(50%強)も10年前と大きく変わらないのかもしれません。
でも本当に日本国民で投資をしている人は10年前と変わらずに増えていないのでしょうか?

まず単純に10年前と比べていますが、多くの投資家にとって厳しい結果をもたらした2008年のリーマンショック、および現在まで続く厳しい市場環境を時系列で考慮する必要があると思います。

その証拠に同統計上でも2007年3月末には現預金比率は50%を切り、株式・投信の比率は約17%まで上がっていました。残念ながら多くの個人投資家の金融資産がここ数年でダメージを受けて圧縮してしまったことは事実でしょう。またその後ユーロ不安等が続き、最近はリスク回避傾向が高まっていると言えるでしょう。

2000年代に入り台頭してきたネット証券は敷居の高い対面式証券会社と異なり、初心者にとっても気軽に気負いなく投資を始められるようになってきたはずです。
また、この10年、投資関連の手数料等コストは大幅に低下すると同時に個人投資家が取引できる金融商品は大きく増加してきています。
そしてFX投資のようなデリバティブ取引では、投資中の未決済ポジションは「資産」ではないため個人金融資産の統計には出てきません。

つまり、統計に見えてこない、従来式の「投資といえば株式」という枠には入らない「投資」が個人投資家に拡がってきていると言えるのではないでしょうか。
私自身、個人投資家を見続けていますが、その裾野の拡がり、知識の向上を非常に感じています。

現在日本ではまとまった金額の金融資産の保有は高齢者に集中しており、そうした方々は「減らさない」ことを心がける運用を好む傾向が強く、「金融資産」という数字上の大半はリスク回避傾向が強くて当然と言えば当然なのかもしれません。

ネット・リテラシーが高く、将来への危機感を持つ若年層は「将来は自分でなんとかしなければならない」という意識も強く、こうした投資環境においても投資・運用に関して前向きな方が多いように思います。
ただ、そうした方々はまだ資金力はあまり大きくないのも事実です。そのため統計上の数字としては大きく出てこないとも言えますよね。
少額の投資を勉強しながら繰り返す、そんな成長過程にいる個人投資家の数は10年前と比べて確実に増えていると言えるのではないでしょうか?

市場環境が悪い時も市場と向き合い続け、「投資力」を高めている個人投資家は環境が変わった時、資金力が増した時に大きく飛躍できると思います。
制度や政策ありきではなく、個人の意識変化こそが市場を変えて行くのではないでしょうか。
廣澤 知子

ファイナンシャル・プランナー