先週末、国内独立系の投資顧問会社が企業年金から受託した資金約2000億円を消失させたとして大きなニュースとなりました。
この投資顧問が受託した資金を英領ケイマン諸島籍の私募投資信託を通じて運用していたこと、その資金を香港など海外の金融機関を転々と移転させていたことなどがわかってきています。

個人的には、この事件の報道の仕方が一般の個人投資家に偏った考え方を植え付けはしないかと懸念を抱いています。

英領ケイマン諸島というのはタックスヘイブン(租税回避地=法人税などがなかったり極端に安かったりする国・地域)と呼ばれる所で、実は多くの金融商品がこうした外国籍にすることで、運用益に対する節税をして、投資家により多くの資金を還元しようとしています。

私募投資信託というのは50人未満の投資家に対しての販売、もしくは特定の適格機関投資家(銀行・証券などの機関投資家)に対してのみの販売という限定的な投信で、プロがプロに対して売るという前提であるため、リスクは比較的高めに取ることができます。また一般向けに義務づけられる報告書などの作成義務がない分、運用コストを安くできるというメリットもあります。

こうした形態を取っているファンドの多くがヘッジファンドです。
ヘッジファンドは金融派生商品(デリバティブ)を活用するなどして、「絶対収益(※)」を目指すものです。
今回の事件のファンドもリーマン・ショックの時ですら高収益を報告していたということで、ヘッジファンドであることを主張していたことが想像できます。

報道を見ていると、「ケイマン籍」「私募投資信託」「ヘッジファンド」といったタイプの金融商品全てが、何か悪者であるかのような印象を投資家に与えているように感じませんか?
確かにこのようなタイプのファンドは、非常に複雑で難解な仕組(金融工学のスペシャリストが練り上げたようなモノ)をもつものが多いのは事実ですが、まっとうな運用者が公正な手続きをとって運用、報告されていることが「通常」です。

今回の資金消失事件で問題なのは「顧客に虚偽の運用実績を報告」したこと、運用の虚偽・不正をしたこと(もしくは流用の可能性も?)、つまり件の投資顧問会社自体の問題であって、けっして外国籍であることやヘッジファンドがいけないのではありません。

米ウォール・ストリート・ジャーナル紙の報道では件の投資顧問会社について格付け会社「格付投資情報センター(R&I)」(日本)が2009年時点で「不自然な」会社であると警告、日本の金融当局とも議論していたとのことです。
これが事実であれば、被害が拡大する前に何らかの手が打てたのではないかという気もしますね。

こうした事件に巻き込まれないためにも、投資家は自身で投資の勉強をしておくことは必須です。
リーマン・ショックのように全世界の相場が荒れたときに安定的な高収益であるなど、説明を求めるべき点に気がつくようにしたいですよね。
あとは信頼できる「まっとうな」金融機関とつきあうことが大切だと思います。
廣澤 知子

ファイナンシャル・プランナー

(※)「絶対収益」とは、市場全体の変数とは無関係に投資元本に対する収益をあげることをいい、必ず収益を得ることができるということを意味するものではありません。