PIIGSに始まった欧州信用不安は、ついに格付けがAAA(最上格)のフランス国債の利回りまでも急上昇(=債券価格の下落)させるに至りました。またフランス国債の格下げも噂されている状態です。

現在のこの欧州問題は他人事ではありません。
自分自身はユーロ建て資産を持っていなくて良かったと思っている方、投資を全く行っていない方も含め、私たち日本人全員の老後の生活に深く関わる可能性があるのです。

日本の社会保障の一つとして、国民の義務として加入している公的年金があります。必要年数、年金保険料を納めた人は将来「老齢年金」を受け取る権利を得、自営業の方は「国民年金」、サラリーマンの方は「厚生年金」と「国民年金」の2階建てです。老後の生活の支えとなる所得ですよね。

この年金保険積立金は「年金積立金管理運用独立行政法人」(GPIF)という独立行政法人が管理運用しています。中期計画に基づいたポートフォリオ運用で、分散効果を計るため国内外の株式、債券(基本4資産)および短期的にはデリバティブも活用しています。

国民生活の基盤となる資金の運用だけに、投資ルールはかなり厳密かつ慎重なものです。ハイリスク・ハイリターンを狙うような運用は行わないのですが、現在のような市場環境においては、その手法では高い投資利回りを得ることは非常に困難ですよね。

2010年度の運用利回りは今年7月にマイナス0.25%と発表されました。国内株式の大幅下落や年間を通した円高、外国債券の収益率悪化などが背景とのことですが、今ますます深刻な事態に直面していることになります。(2011年度第1四半期はプラス0.21%に回復)

GPIFの運用資産の構成は、2011年6月末で国内債券(財投債含む)66.35%、国内株式11.55%、外国債券8.37%、外国株式11.26%、短期資産2.47%となっています。
外国債券の運用基準はBBB格以上の外貨建て債券としていますので、先進国AAA格の国債であれば、その中心的位置付けになるでしょう。(銘柄については公表していません。)運用資産の中でも、先進国の国債といえば本来「安全資産」のはず。
ところが欧州信用不安の広がりによって通貨安と債券安のダブルの打撃です。
GPIFは少しでも運用利回りを上げるため、今年度中には新興国株投資も開始する予定としています。世界経済全体が欧州問題の影響を受けている今、約11%の外国株式投資のうちの一部の新興国株投資で全体の利回りを劇的に向上させるのはなかなか難しそうです。

高齢者はどんどん増え、年金保険料を納める人口は減り、その上運用が芳しくなければ、抜本的な改革を行わなければ日本の年金制度は破たんの可能性があるというのも頷けます。
厳しい現実ですが、将来の年金を当てにするのは難しいものと割り切り、なるべく早目に「自分年金」の準備として個人の投資運用を始めたいですね。

廣澤 知子

ファイナンシャル・プランナー