リーマンショック後にいち早く景気回復に向かい、世界経済を牽引する勢いがあったのはBRICsをはじめとする新興国諸国でした。

そうした諸国では利上げがインフレ率上昇に追い付かず、実質金利がマイナスになっていたところも多かったことは記憶に新しいことでしょう。豊富な資源や経済成長への期待から、世界中の投資マネーの流入による自国通貨高に悩み、各中央銀行はその抑制策と利上げとの間でかじ取りに大変苦労をしていました。

ところがここにきて、新興国諸国は全く逆の悩み、つまり自国通貨安防衛に躍起になってきています。先週はアジアをはじめとするいくつかの国で自国通貨買い介入が実施されました。

そもそも新興国に大量に流れ込んでいた投資マネーは先進国で景気刺激のために大量に市場に供給された「ジャブジャブ」のお金です。世界中を駆け巡るそうした投資マネーはリスクには非常に敏感です。リスクイベントがあったときにボラティリティの高い新興国市場は大きなダメージを受けやすいため、ほんの少しでも悪い、もしくは悪いことを連想させるようなニュースがあればいち早く資金を引き揚げるのです。

ギリシャのデフォルト懸念に始まった欧州不安、そして米国の景気減速は、世界経済全体の減速、ひいてはリーマンショック型のリスクイベントの再来まで連想され始めました。
そうなると前述通りリスクに敏感な資金は比較的安全な資産(結局は日本やスイスの通貨など)に瞬時に移動し、それはリスク資産からの資金引き揚げでもあるため世界中で一斉に株安となります。
当然、消費者心理も冷え込み、新興国の輸出先である先進国で買い控えということになれば、そのまま新興国の企業にとっては打撃になります。
つまり通貨安、株安に先導される形で実体経済も減速してしまうことになります。

新興国にとっては投資マネーの流入(通貨高)で自国市場が荒らされるのは困りますが、通貨安はドルや円などの通貨建てによる借金が実質膨れ上がることとなり、財政面で大きな困難につながります。ただし景気拡大していくためにはある程度の安定した資金流入は必要です。
新興国市場は規模が小さく未成熟なだけに、通貨の乱高下は経済の安定的成長を妨げる大きな要因となるということですね。

日本の個人投資家もこうした新興国への投資比率を高めています。規制が厳しい市場も多く、「プロ」にお任せの形(ファンドや仕組債など)で投資をすることが多いことでしょう。
でも少なくとも新興国に投資をするときには、こうした市場背景があることをよく理解しておくこと、自分が投資している商品は通貨なのか、株式なのか、債券なのか、為替はヘッジされているのか、どういう仕組で運用されているのか・・・など商品内容を十分に理解して、市場動向との関係を知っておくことは重要です。

将来のリターンに期待できるということは、それだけリスクの大きい商品ということですから、ぜひ確認してみてくださいね。

廣澤 知子
ファイナンシャル・プランナー