先週、米国債に格下げの可能性があることを書きましたが、ついに最上位であるAAAからの一段階格下げとなりました。

債券市場において最も取引量の高い米国債が格下げになるというのは、金融市場において歴史的インパクトを持つ出来事と言えます。

証券分析等において、資産のリスク値を計算する際、米国債を代表とする先進国の国債(一般には短期のもの)は「リスクゼロ」の「無リスク資産」という扱いをします。実際はソブリン・シーリング格付けが示すように、先進国債だからといって必ずしもリスクがないわけではないことは衆知ですが、少なくとも米国債については、その豊富な流動性、基軸通貨、そして絶対的信用度という裏付けをもつものとされていました。

かつては「有事のドル」とも言われたように、米ドル、米国債の市場における信頼は非常に高いものなのです。

どこに投資をしていても、いざとなれば安全な資産がある、という安心感は大きく、教科書で言われる株式や債券の逆相関関係や、先進国と新興国の市場関係も、そうしたバランスがあって成り立っていたように思います。

たとえ先進国のどこかが不安定な経済状態になっても、これまでは必ずどこかに逃げ道がありました。米国が悪いときは日本、欧州が悪ければ米国・・・といったように。ところが、今や先進各国どこも不安状況に陥っていて、「安全性の高い」受け皿がない状態です。

新興諸国は高成長を続けていますし、将来性も高いですが、まだインフラが十分整っていないだけでなく、市場のパイも小さく、しかも規制だらけとあって、先進国の巨額なマネーを正常な状態で吸収できるほど成熟した市場にはなっていません。

このような金融界の歴史的転換ともいえる事態の中で、資産運用の方法についても見直さざるをえないでしょう。

これまで、運用の基本は「長期」「分散投資」であるとされてきました。FPの教科書にも、過去何十年のデータとともにそのように記載されています。ただ下記のような声を聞くことも多いのが事実です。

「失われた10年」で株価は下がる一方、円は超低金利のままで、外貨に投資すれば、円高による為替差損を被り、資産は増えるどころか減る一方です・・・

景気の良い投資の話は機動的売買を繰り返すFX投資で成功した例くらいです。(もちろんFX投資で「負けてばかり・・・」という声も多いのですが。)もちろん、これから市場が前向きな状況に変わる可能性はゼロとは言いませんが、先進諸国の抱えるリスクや低成長を考えるとこれまでとは明らかに異なってきていると言えるのではないでしょうか。

運用の知識や技術がない初心者に「デイ・トレーダーになれ」と勧めているわけでは決してないのですが、今後投資をする人は誰でも、

■時勢を見る目を養う

■どんな投資でも「損切り」の必要性を知る

■ある程度の機動性をもって取引を行う

という心構えが必要となってきていると言えるでしょう。

廣澤 知子
ファイナンシャル・プランナー