先週(1月31日~2月4日)のニューヨーク市場の金価格(金先物相場、以下NY金)は週間ベースで21.2ドル高、1.2%の上昇となった。
1月の米連邦公開市場委員会(FOMC)後のパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長の記者会見が、引き締め加速観測を容認するタカ派的な内容と受け止められ、前週はファンドの売りが活発化。NY金は週間ベース値幅で45.20ドル、率にして2.5%の下げとなっていた。
NY金は、インフレ高進観測に不安定な株式市場、さらにウクライナ情勢の緊迫化を背景に1,850ドル超まで買われていたが、再び1,800ドル割れに押し戻されていた。ファンドの売りが下落の背景とみられている。
目先の上下動の背景に先物市場でのファンドの動き
米商品先物取引委員会(CFTC)が発表する週次のデータでは、1月25日までの1週間でNY金先物市場でのファンド(非商業筋=大口投機筋)のポジション(オプション取引除く、以下同じ)は重量換算で買い建て(ロング)がネットで80トン増加していたが、それらはFOMCの結果を受け、売り手じまいされたとみられた。
先週末2月4日に発表された同CFTCのデータでは、2月1日までの1週間でファンドのネットの買い建てポジションは同149トンの減少となっていた。データが示すのは前週に買い持ち(ロング)を増やした以上の手じまい売りと、新規の売り建て(ショート)の積み増しだった。
しかし、それでもNY金の下値は1,780ドル台までに限られることになった。むしろ先週の値動きは、売り一巡後に間をおかず再び心理的節目の1,800ドル超に復帰した点で堅調地合いを印象付けるものとなった。
弱気と強気 逆方向の材料が対峙している金市場
足元の金市場は2021年12月以降、引き締め方向に大きく舵を切ったFRBの政策方針が向い風となっている。金利のつかない金にとって、引き締め方針に基づくドル金利とりわけ基調的な米長期金利を表す10年債利回りの上昇は売り要因となっている。さらに金利上昇を反映するドル高も金の売り要因となる。
ちなみに金市場が見るドルとは、主要6通貨で構成される「ドル指数(DXY、ICE Futures U.S)」を指す。
一方、根強いインフレ懸念は実物資産である金にとって買い要因となる。また株式市場の乱高下など不安定な金融環境やウクライナ情勢など地政学リスクも、「安全資産」とされる金への関心を高め、買い要因とされる。
つまり足元の金市場では、この硬軟両サイドの材料が対峙する中で、NY金の値動きが続いている。
ここでのポイントは、ファンドに代表される大口の投機筋は、米長期金利の動向やドル指数(DXY)の指標の動きに沿った売買を繰り返す傾向が強いことである。事前に採用した運用方針に沿ってプログラムされた売買方針に従い売り買いが実行される(ロボット・トレーディング)。
先々週はFOMCに際してのパウエルFRB議長の発言内容、それに反応した米長期金利やドル指数の急伸に伴い広くファンドの売りが出され、NY金は1,800ドル割れに沈むことになった。
また、先週は発表された米経済指標がインフレの加速とともに減速を示すものが多かったことから、米長期金利は上昇が一服し、ドル指数も弱含みに推移し総じてNY金は反発地合いでとなり、再び1,800ドル台に復帰した。
ただし、2月4日に発表された注目の1月の米雇用統計の結果はサプライズとなり、NY金も値動きが大きくなった。
先週のNY金と値動きの材料
週前半はFOMC後に高まったFRBによる強めの引き締め観測に市場センチメントは支配される展開で、複数の地区連銀総裁の発言内容に左右される展開となった。その中でドルが対ユーロを中心に弱含みに推移し、ドル指数を押し下げたことを手掛かりに週明け1月31日のNY金は前週末比9.80ドル高の1796.40ドルで終了。
1月28日:米長期金利は1.8%手前で頭打ち、金の反発をサポート
1月28日に発表された12月の米個人消費支出が前月比0.6%減と、11月の0.4%増からマイナスに転じていたことが判明。アトランタ連銀が公表している国内総生産(GDP)見通し(GDP Now)は、2月1日時点で1~3月期前期比年率0.1%とゼロ成長の予想となった。
先行きの米経済の減速観測もあり、米長期金利は1.8%手前で頭打ち状態で、金の反発をサポートした。
2月1日:NY金は続伸
2月1日もNY金は続伸となった。前日比5.10ドル高の1801.50ドルで取引を終了。ドル指数は96.385と前日の96.540から低下した。
FRB当局者は3月に利上げをする構えを明確にしているものの、市場の過剰反応を避ける狙いもあってか慎重な言い回しに転じている。1日フィラデルフィア地区連銀のハーカー総裁は、ブルームバーグTVのインタビューで、今年4回の利上げを実施することが適切と表明。「インフレ率が現在の水準より上昇せず、継続的に低下すれば、50bp(0.5%)の利上げは必要ない」とした。
一方、セントルイス地区連銀のブラード総裁は、3月の利上げ開始から5月追加利上げ実施を支持しながらも、0.5%の利上げで引き締めサイクルを開始することには否定的な見解を示した。インフレや新型コロナウイルスのオミクロン株感染拡大など先行きが不透明な中で、総じて硬軟両サイドの選択肢を残しておく意向とみられる。
2月2日:米国債利回りが短期から長期債まで低下し、金価格を押し上げ
2月2日のNY金は、前日比8.80ドル高の1810.30ドルで終了し、3営業日続伸となった。
朝方に発表された企業向け給与計算サービスADP社の1月の全米雇用報告が予想外の結果となった。雇用者数が前月比で減り、増加を見込んでいた市場予想を下回ったことで、米ドルがユーロなど主要通貨に対し下落し、ドル指数(DXY)は95.936と6営業日ぶりに95ポイント台に低下。米国債利回りも短期から長期債まで低下し、金価格を押し上げた。
ADP全米雇用報告は市場予想20万7000人増(ロイター)に対し、30万1000人減と予想外の減少となった。減少は2020年12月以来1年1ヶ月ぶり。
オミクロン株の影響で企業活動の混乱が響いたものの、ADPのエコノミストも発表に際し、オミクロン株の影響は「一時的なものになる可能性が高い」としたことで市場への影響は限定的なものにとどまった。ただし、この結果を受けて、4日に発表予定の労働省発表の1月雇用統計の予想を、下方修正する動きが広がった。
2月3日:NY金は一時的に急落したものの1,800ドル台は維持
2月3日のNY金は4営業日ぶりの反落となった。英中銀(イングランド銀行)がこの日の金融政策決定会合で2会合連続となる利上げを実施。また欧州中銀(ECB)もインフレリスクが増大していることを認め、年内利上げの可能性を排除しなかったことを受け、欧州債の利回りが急伸。
それが米債市場に伝播する形で米長期金利が1.8%半ばまで急上昇すると、NY時間の午前中頃に金市場では売り圧力が高まり1,800ドル割れへと急落した。
一方で、対ユーロを中心に米ドルが売られたことから、ドル指数(DXY)が一時95.237まで低下。1日の下げでは2021年5月以来の大きさとなったことが、金の下支え要因となった。
また、長期金利の急伸が株式市場でハイテク株の下げ幅拡大につながり、ナスダックが前日比3.7%の大幅下落となったことから、リスク回避時に買われやすい金のサポート要因となった。
NY金は、売買交錯の中で前日比6.20ドル安の1804.10ドルで終了。米長期金利が1.837%と前日の1.779%から上昇する中で1,800ドル台は維持して終了した。
2月4日:原油価格の上昇、米雇用統計のサプライズの結果、長期金利の上昇により1,800ドル台を維持
2月4日のNY金価格は反発。乱高下を交えながらも前日比4.70ドル高の1808.80ドルで終了した。
1月の米雇用統計では、景気動向を敏感に反映する非農業部門の雇用者数(NFP)が予想を大きく上振れる増加(46万7,000人増)を示したことで、FRBが引き締め策を活発化するとの見方から、長期金利が急伸。
前日までの主要通貨に対するドル安を受け、プラス圏の取引を続け1,810ドル台半ばまで水準を切り上げていた金は、10年債利回りの急騰に反応したファンドのまとまった売りに、いったんは1,800ドルを割り、20ドルほど急落することになった。
ただし、同じ雇用統計で賃金上昇率(平均時給、前年同月比5.7%増)の高さがインフレ高進を強く意識させたことから、売りが一巡すると反発し、短時間で1,810ドル近辺まで値を回復する荒れた展開となった。
このところ高値追いが続く原油価格(WTI)が、一時93.17ドルと2014年9月以来の高値まで上昇したこともインフレを意識させ金価格をサポートした。終盤は1,810ドル台半ばの落ち着いた値動きとなった。
1月の米雇用統計は、先行して発表されたADP全米雇用報告の結果が大きく下振れたことから、複数の米金融機関がNFPの減少を予想していたほどで、結果はサプライズとなった。
賃金上昇はインフレをさらに長引かせる可能性があることから、長期金利は一時1.939%まで上昇し、2019年12月以来の高水準となる1.913%で終了。この中でNY金は1,800ドル台を維持して終了となった。
こうした中で大阪取引所の金先物価格は、連日6,600円台の狭いレンジ内での取引に終始した。NY金が終値ベースで1,800ドルをやや上回る水準を連日維持する一方、ドル円相場も115円を挟んで落ち着いた値動きとなったことから、目立った動きは見られなかった。週足は3円高の6,667円で終了した。
今週の展望:欧米における金の現物需要、四半期ベースで過去最高に。米インフレ動向の結果次第で、NY金は1,850ドル接近か
向い風が吹く環境の中で、金が底堅く推移する現状は、インフレの高止まり観測とともに、対応するFRBの引き締め強化を懸念して不安定化した金融環境に対するヘッジ目的の買いを反映したものとなっている。
先週末の米長期金利が1.9%台と約2年ぶりの水準に急伸する中で1,800ドル台を維持したNY金。米ドルの金利上昇に対する耐性を示した背景には、インフレ加速を見据えた底堅い現物需要の増加もあるとみられる。先物市場の動向と異なり、日々の動きの把握は難しいが、需給データでは需要の高まりが示されている。
金の国際的な調査機関ワールド・ゴールド・カウンシル(略称WGC、本部ロンドン)が1月28日に発表した需要動向では、2021年第4四半期の欧米の現物需要の高まりが注目された。金地金・金貨の需要で、米国が117トン、ドイツが162トンと、それぞれ年間ベースで過去最高を記録したことが判明した。
金の現物需要というと、インドや中国の需要が注目されるが、欧米での需要の高まりは、その背景に生活実感としてのインフレの高まりがある。金先物取引や金ETF(上場投信)の増減に表れない、底辺の広い需要の底上げが見られる中で、1,800ドル近辺でのドル建て金価格の均衡が見られている。
こうした点からは、当面は米国を中心にインフレ動向が金市場の関心事としてクローズアップされることになりそうだ。今週は10日(木)に1月の米消費者物価指数(CPI)の発表が予定されている。市場予想は前年比7.3%の伸びと前月の7.0%から加速が予想されている。
ここにきて賃金など基調的なインフレ上昇を示す項目の上昇が目立っていることから、高めの数字は金価格を刺激することになるとみられる。NY金は1,830ドルが節目となっており、それを越えて1,850ドルにどこまで接近できるか。1,850ドル接近となると円建て価格は1月26日以来の6,700円台半ばとなりそうだ。