為替の世界で長く活躍し、「プロ」と呼べるトレーダーである友人と食事をしているときに、「FXは世界を相手にポーカーをしているようなものだ。」と語っていたのが印象的でした。自分の手の内を見せずに、相手の手の内、出方を予想しながら勝負する・・・勝負師ならではの表現ですよね。

ところが、ご存じの通り日本のFXは市場に参加している個人投資家の手の内(ポジションやオーダー)がほぼ見える構造になっています。これは世界でも希なことだとのこと。今や「ミセス・ワタナベ」をはじめとする日本の個人投資家の存在感は為替市場でも大きく、機関投資家や海外の投資家もこうしたポジションのたまり具合やオーダー状況を参考に見ているそうです。

とはいっても、日本株で板の状況が見えるのと、FXで日本市場での個人投資家のポジション状況が見えるのは意味が異なるという認識を持ちましょう。日本株の市場規模であれば、「板の厚い方に動く」という格言があるように板を見れば相場全体の方向感が見えるとも言えます。ですが、外国為替の市場規模は比較にならないほど大きいのです。そのうち日本の個人投資家のポジション状況だけ見えたとしても、それで全体を把握できるわけではないのですよね。参考にすることは良いのですが、相場の方向を決めるものだと思いこまないように十分注意をする必要があります。

たとえば、日本の個人投資家はドル円では圧倒的に買い持ち(ロング)です。なのに、ドル円が上昇していく気配はありませんよね。日本の個人投資家のみがひたすら「買い下がり」「買い支え」をしているということです。日本人は「円がこれ以上高くなるわけがない」「すでに円相場は最高値圏にある」「きっと介入が入る」と円・日本を主語にして考えがちですが、世界の市場参加者は、今後米国経済はどうなるか、という視点でしか見ていません。ドル円では、米ドルだけ注視し、その見方は厳しいと言えます。現時点でドル円が上昇していっていないということは、すなわち、ドルに対して悲観的な見方の方が強いということなのでしょう。

現時点ではドル円が買い支えられ、なかなか思い切って下値を探りにいけない状況が続いていますが、相場は時として意志があるかのように、市場参加者の想像や予想を振り切ったところまで動き切って、初めて反転するということもあるものです。この可能性があるのであれば、日本の個人投資家のストップオーダーがかたまっているレベルというのは今後を占う上でも参考になりそうです。

自身の手の内を見せながらポーカーをしている・・・というと勝ち目がなさそうに聞こえますが、見えるのは自分以外の「(日本の)参加者のポジションとオーダー」ですから、うまくこのシステムを利用して、自身の戦略の参考にしたいですね。

廣澤 知子

ファイナンシャル・プランナー