全人口に占める高齢者(65歳以上)が3割に達する「2025年問題」では医療や介護の需要と供給のバランスの崩壊が懸念されていますが、中小企業・小規模事業者の事業承継も喫緊の課題となっています。2025年には平均引退年齢とされる70歳を超える中小企業・小規模事業者の経営者は約245万人となり、そのうち約半数の127万社(日本企業全体の約3割)で後継者が不在とされます。
経済産業省と中小企業庁によれば、事業承継問題に何の対策も講じられず127万社が廃業となれば、約650万人の雇用が失われて約22兆円もの国内総生産(GDP)が消失するとの試算もあります。政府は事業承継問題の対策として相続税や贈与税で優遇が受けられる事業承継税制や、後継者がいない企業向けに第三者承継を支援する政策などを展開しています。事業承継問題は中長期的なテーマになりそうです。
東京商工リサーチによると、2021年度上半期(4~9月)の「後継者難」による倒産は前年同期比4.6%増の181件と2年連続で増加しました。コロナ禍の資金繰り支援策により倒産件数は低水準でしたが、「後継者難」が倒産全体に占める構成比は6.1%と前年同期(4.4%)を上回り上半期として最高となりました。中小企業では代表者が経営全般を担っているため不測の事態に直面すると、事業の存続が困難となります。業績回復が遅れた企業ほど後継者育成も先送りされ、代表者の高齢化が深刻な問題となっています。
事業承継は後継者が誰であるかによって、3種類に分類されます。経営者の配偶者・兄弟・子どもなどの親族が後継者となり会社を引継ぐ「親族内事業承継」、会社の役員や従業員、外部の関係者などに事業を承継する「親族外事業承継」、会社の株式や事業を他社に売却して会社や事業を存続させる「M&Aによる事業承継」があります。政府は後継者のいない中小企業のM&Aによる事業承継を支援しており、M&Aによる事業承継の重要度が増しそうです。
M&A関連銘柄
日本M&Aセンター(2127)
中堅・中小企業を対象としたM&A仲介最大手で、地銀や信用金庫、会計事務所と提携して国内最大級の情報ネットワークを構築しています。2021年7月に発表した新中期経営目標では、最終年度となる2024年3月期に連結売上高511億円、経常利益230億円(21年3月期実績は売上高361億円、経常利益165億円)と一段の成長を目標に掲げています。
M&Aキャピタルパートナー(6080)
主に中堅・中小企業をターゲットとして、事業承継ニーズや自社の企業価値向上を目的とした譲渡ニーズに対してM&Aの仲介サービスを提供しています。2016年に子会社化したレコフは創業30年以上の業歴のなかで培われたノウハウに基づき、中小企業から業界大手同士の経営統合、上場企業の組織再編からTOB(株式公開買付)、MBO(経営陣による株式譲受)といった高度な支援を要するアドバイザリー業務まで、幅広く手掛けています。2021年9月期は成約件数が前の期に比べ24%増の172件(大型案件は36件)と過去最高を記録しており、連結売上高と経常利益も最高となりました。
ストライク(6196)
全国の中堅・中小企業のM&Aを仲介事業の対象とし、事業承継目的、事業整理目的、事業再生目的、スタートアップ企業のエグジット(投資資金の回収)目的など様々なM&Aを手掛けています。他社に先駆けてインターネット上でのマッチングサイト「SMART」を構築し、不特定多数の中から希望条件に適う相手先を効率的に探索しています。スタートアップ企業のM&A開拓を強化するため、2021年10月にイノベーション支援室を新設しました。
オリックス(8591)
中堅から大企業を対象とした事業投資を手掛け、2018年に中小企業の事業承継ニーズに対応する専門部門を立ち上げました。21年11月には事業承継課題に対する解決手段の選択肢をより充実させるため、M&Aの仲介サービスへの本格参入を果たしました。オリックスグループとして多様な事業承継ソリューションサービスが展開できるのが強みで、M&A成約件数は5年後に年80件程度を目標としています。