新型コロナウイルスの変異型「オミクロン型」感染拡大への警戒感が強まり国内の新規感染者数にも底入れの兆しが出ていますが、2021年11月下旬以降の日本の1日あたりの新規感染者数は200人を下回る低水準での推移が続いています。岸田文雄内閣は2021年11月19日に決めた過去最大の財政支出となる55.7兆円の経済対策で、2020年12月に停止した「GoToトラベル事業」の再開や飲食店の支援策である「GoToイート事業」の延長を決めました。コロナ禍で「巣ごもり需要」の恩恵を受けるとして買われていたドラッグストア関連株には逆風が強まっています。

今回は「GoTo」事業関連銘柄と同様、コロナ禍の状況に左右されているドラッグストア関連銘柄を解説します。

食品販売の拡大でドラッグストアは成長続く、「巣ごもり需要」の反動減も目立たず

日本で新型コロナの感染拡大への警戒感が強まりだした2020年2月以降、トイレットペーパーや消毒液を求めてドラッグストアで行列に並ぶ消費者の姿がたびたび報道されました。「中国から原材料を輸入できなくなる」などの真偽不明な情報が原因でしたが、実際に品薄になる店舗が相次ぎドラッグストアの業績拡大への期待も広がりました。経済産業省の商業動態統計によると全国のドラッグストアの2020年2月の売上高は前年同月比19%増と、消費税率引き上げ前の駆け込み需要で急増した2019年9月の22%以来の伸びになりました。2021年に入ると2020年の急激な伸びの反動で減少する月もみられましたが、その後はプラス圏を回復するなど反動減は目立っていません。

【図表1】全国ドラッグストアの前年同月比の売上高増減率の推移
出所:経済産業省の商業動態統計より株式会社QUICK作成

日本チェーンドラッグストア協会によると、2020年度のドラッグストア業界の市場規模は約8兆363億円と2019年度から5%弱増えました。2016年度以降は5%以上の伸びが続き、初めて8兆円台に乗せました。品目別の推移をみると食品の比率が30%と最も高く、年間でも平均して10%超の成長を続けて全体をけん引しています。大型店舗を展開し医薬品・化粧品や家庭用雑貨のほか、日用品や食品を取りそろえて低価格で販売することで消費者がワンストップで買い物を済ませられるようにする戦略が奏功しました。調剤薬局事業が好調に推移しているのも業界全体の成長を支えています。

【図表2】全国ドラッグストアの品目別売上高の年間推移
出所:経済産業省の商業動態統計より株式会社QUICK作成

感染者急減で「ドラッグストア」関連銘柄は軟調、14社中13社が感染ピークを下回る

全国で確認された新型コロナの感染拡大「第5波」は2021年8月20日に新規感染者数が2万5,992人のピークに達しました。8月下旬からは一転して急速な感染者数の減少が始まり、2021年11月22日には50人まで急減しました。帰国者を中心に「オミクロン型」の感染は拡大の兆候がみられるものの、依然として「第6波」と呼べるほどの感染増加には至っていません。営業時間の短縮などを迫られていた飲食店も通常営業に戻り、消費者の行動も日常生活を取り戻しつつあります。巣ごもり需要の恩恵で業績が拡大するとの期待から2021年8月までは相場全体を上回る好調な推移を続けていたドラッグストア関連株は、感染が天井を打ってから一転して苦戦しています。

「巣ごもり需要」関連として感染急増時に上昇が目立っていた「ドラッグストア」関連の14銘柄で2019年末を起点とする合成指数を作ったところ、2020年7月から8月にかけて東証株価指数(TOPIX)に対する累積リターンが30%を超えるなど好調な推移が続きました。一方、感染ピークから12月20日までの単純平均の騰落率は12.4%安と東証株価指数(TOPIX)の3.2%高に対してマイナスになるなど軟調です。14銘柄中、感染ピークを上回っているのは1社のみでドラッグストア関連株に対する成長期待が剥落したのを示唆しています。

3~8月期の売上高が会社計画割れのスギHD、感染ピークから2割強下落

【図表3】ドラッグストア関連14銘柄の感染ピークからの株価下落率上位5社
出所:株式会社QUICK作成

下落率首位のスギホールディングス(7649)は巣ごもり消費の反動で新型コロナ関連商品の需要減や顧客の来店頻度の減少、買い上げ点数の減少に直面しています。2021年3~8月期の既存店売上高は前年同期比で0.7%減少しました。客数、客単価ともに前年同期から減少し、売上高は3149億円と、従来予想の3201億円を下回りました。調剤薬局事業は計画通りに成長し、ドラッグストアでも販売価格の見直しなどによる利益率の改善を進めていますが、巣ごもり需要の反動減の影響が予想以上に大きいうえ経済再開に伴う化粧品などの販売も想定ほど回復していません。アナリストからは「2022年2月期の業績予想の下方修正もありそう」との指摘が出ています。

調剤薬局が好調なアインHD、化粧品中心のドラッグストア事業が苦戦

2位のアインホールディングス(9627)は2022年5~10月期決算は売上高が前年同期比5%増、営業利益が47%増の57億円と会社側の計画を上回る増収増益でした。もっとも、業績のけん引役は連結売上高全体の9割弱を占める調剤薬局事業で、「アインズ&トルペ」ブランドで運営しているドラッグストア事業の売上高は前年同期比5%増の98億円と、会社計画の106億円を8%近く下回りました。本業のもうけを示すドラッグストア事業の営業損益は11億円の赤字と9億円の会社予想よりも大きく、前年同期からも小幅に拡大しました。「アインズ&トルペ」の売上高構成比は化粧品関連が87%(2021年4月期実績)と大きく化粧品需要の戻りの遅れが重荷になっています。

総合スーパーやコンビニエンスストアが市場の成熟化などで成長が頭打ちとなるなか、ドラッグストアは食品など取扱商品を増やすことで成長を続けてきました。2016年に病院の敷地内薬局が解禁されたのも、調剤薬局事業も手掛ける企業が多いドラッグストア業界の成長を後押しし小売業の中では長らく成長性が評価されてきました。コロナ禍による巣ごもり需要への期待は成長に対する市場の期待値を引き上げ、増収増益基調を維持していても株価の反応は厳しくなっています。インバウンド需要が消失し、経済活動の再開後も戻りの鈍い化粧品などの販売に回復の兆しがみられるまで市場の成長期待は戻りにくいかもしれません。

コロナ禍は株式市場の参加者が銘柄を選ぶ決断にも多大な影響を与えました。株式市場では感染症や災害など「一過性」とみられる材料での下落局面では買い向かうのが常道とされてきましたが、コロナ禍はリモートワークの定着に伴う鉄道利用の減少やゲームのプレイ時間の長時間化といった構造変化ももたらしています。変異型「オミクロン型」の感染拡大への警戒感から「Go Toトラベル再開」の材料が出た現在も飲食関連株や航空株の戻りは鈍く、感染者数の急減による巣ごもり需要の反動でドラッグストア関連株はさえず検査数の減少で検査キット関連株も下落基調です。大きなテーマに対して様々な関連銘柄どう反応したのか、今後の投資に備えるために参考にしてはいかがでしょうか。