新型コロナウイルスの変異型「オミクロン型」感染拡大への警戒感がくすぶり国内の新規感染者数にも下げ止まり感が出ていますが、2021年11月下旬以降の日本の1日あたりの新規感染者数は200人を下回る低水準での推移が続いています。岸田文雄内閣は2021年11月19日に過去最大の財政支出となる55.7兆円の経済対策で、2020年12月に停止した「GoToトラベル事業」の再開や飲食店の支援策である「GoToイート」事業の延長を決めました。それでもこれまで見たように鉄道や航空会社、飲食店の株価がさえないのは私たちの日常がコロナ以前に戻っていないのを示唆しています。一方で人々の行動の変化が追い風になっている業種の1つが家庭用ゲーム関連です。

コロナ禍で変わる消費行動、「娯楽」でも二極化進む

新型コロナの感染拡大で激変したのが余暇市場です。日本生産性本部が2021年10月に発行した「レジャー白書2021」によると、わずかに増加傾向にあった余暇市場の市場規模は2020年に55兆2040億円と2019年に比べ23.7%減りました。市場規模が突出して大きいパチンコ・パチスロを除いても22.4%減で、7年続いたプラス成長からマイナスに転じました。部門別では移動の自粛で休業を余儀なくされた「観光・行楽部門」の43.7%減を筆頭に、4部門すべてがマイナスとなりました。パチンコ・パチスロを含む「娯楽部門」も21.8%減りましたが、「巣ごもり需要」の恩恵を受けたテレビゲームとソーシャルゲームは増加するなど二極化が進みました。

アンケート調査などを手掛けるクロス・マーケティングが2021年8月に全国15~69歳の男女2195人を対象に実施した調査によると、家庭用ゲームとパソコンゲーム(コンシューマーゲーム)を過去一年間に1回以上プレイした人は31%を占めました。コロナ禍前に比べたプレイ時間の変化に関する調査ではこのうちプレイ時間が「コロナ禍前より長くなった」との回答は全体で36%に達し、特に15~25歳の「Z世代」で42%、41~55歳の「X世代」で37%とゲームに触れる時間が長くなったのが鮮明です。一方、「コロナ禍以前の方が長かった」との回答は一桁にとどまりました。動画配信などコンテンツ配信とともにゲームが巣ごもり需要を引き付けたのは間違いなさそうです。

【図表1】世代別のコロナ前後のゲームプレー時間に関するアンケート
出所:クロス・マーケティングのホームページより株式会社QUICK作成

感染者急減でも「家庭用ゲーム」関連銘柄は好調、3分の2が感染ピークを上回る

全国で確認された新型コロナの感染拡大「第5波」は2021年8月20日の2万5992人が新規感染者数のピークでした。8月下旬から急速な感染者数の減少が始まり、2021年11月22日には50人まで急減しました。岸田政権による水際対策の強化が奏功したのか「オミクロン型」は空港検疫や濃厚接触者の感染が判明しているものの、市中感染は確認されていません(2021年12月13日時点)。感染者数の急速な減少に歯止めがかかって以降も感染者数は低水準で推移しており、営業時間の短縮などを迫られていた飲食店も通常営業に戻りました。巣ごもり需要は一巡したのでしょうか。

「巣ごもり需要」関連として感染急増時に上昇が目立っていた「家庭用ゲーム」関連の15銘柄の感染ピークから12月13日までの単純平均の騰落率は7.5%高と東証株価指数(TOPIX)の5.4%高を上回っています。3分の2にあたる10銘柄が感染ピークを上回って推移しており、上昇率が10%を超えているのは6銘柄にのぼるなど堅調さが目立ちます。感染減少にもかかわらず巣ごもり関連としての物色が続いているのでしょうか。

新作ゲーム好調のセガサミーHD、総額300億円の自社株買いも評価

【図表2】家庭用ゲーム関連15銘柄の感染ピークからの株価上昇率上位5社
出所:株式会社QUICK作成

上昇率首位のセガサミーホールディングス(6460)は巣ごもり消費の継続でインターネット配信ゲームや家庭用ゲーム機向けソフトが好調だったうえ、2021年11月8日に発行済み株式数の1割強にあたる2400万株を上限に自社株買いを実施すると発表したのを好感した買いが優勢になっています。ネット配信ゲームの収益の拡大に加え、「ソニック」や「真・女神転生」といった知的財産(IP)事業の好調を受け家庭用ゲームを含む「エンタテインメントコンテンツ事業」の2022年3月期の売上高見通しを前期比2%減の2130億円から6%増の2300億円に上方修正したのも好感されました。

遊戯機事業は新型コロナのワクチン接種に伴う経済再開に伴って生じた世界的なサプライチェーン(供給網)の混乱や半導体不足の影響で2022年3月期の売上高見通しを下方修正しましたが、感染拡大後に構造改革を進め人件費などの固定費を14%削減したのが支えになります。同事業の本業のもうけを示す営業損益は20億円の黒字と前期の106億円の赤字から急回復する見通しです。半導体不足といった構造的な問題に直面しているものの、好調な業績と積極的な株主への利益還元策の両方が好感されています。

成長株の地位回復したソニー、株価は21年ぶりの高値水準に

2位のソニーグループ(6758)の2022年3月期の「ゲーム&ネットワークサービス事業」の営業利益は3250億円と全事業の3割を占め、株価もエンターテインメント部門の収益と連動する傾向が強いとされています。とりわけゲーム事業への関心が高く、ネットワークサービスの「プレイステーションネットワーク」の月間利用者数(MAU)はゲーム事業の収益の先行きを見極めるうえで注目されています。主力ゲーム機「プレイステーション(PS)5」は店頭で品薄状態が続いており、半導体不足の影響で上積みできるはずの販売台数を逃しているとの声もありますが、株価は2021年11月17日に2000年4月4日以来ほぼ21年7ヶ月ぶりの高値を回復しました。

2003年に決算が会社予想に届かなかったのをきっかけに日本株全体が売られた際は「ソニーショック」などと呼ばれましたが、今や成長株の地位を取り戻しています。背景にあるのは複数事業の相乗効果に対する理解の市場参加者への浸透です。かつてヘッジファンドから事業分割を要求されたエンターテインメント事業では所属アーティストを主題歌に起用した映画「鬼滅の刃」が大ヒットし、2021年10月からPS版のゲーム、12月からアニメの新編が始まりました。音楽と映画、ゲーム、アニメが有機的に収益を生み出す循環への評価が高まっています。半導体不足という逆風にもかかわらず高値圏で推移する株価はさらなる成長への期待を映していると言えそうです。

ゲーム関連株の中には新型コロナの感染拡大により巣ごもり需要の恩恵を受けるとして買われた銘柄も目立ちますが、新規感染者数が急減し政府が「GoToトラベル事業」の2022年以降の再開を決めても大きく下げるような銘柄は目立ちません。上昇率上位銘柄のように好業績と株主への利益還元への組み合わせや成長性が評価されている面もありますが、「巣ごもり」をきっかけにゲーム人口が増えるといった構造的な変化を感じている投資家が多いという面があるのかもしれません。

次回は新型コロナの感染拡大に伴う「巣ごもり消費」や衛生製品への需要で盛り上がったドラッグストア関連株を取り上げます。新規感染者の急減による巣ごもり消費の減速観測や世界的な供給網(サプライチェーン)の混乱といった逆風のなかで、投資家はドラッグストア株をどのようにみているのか探っていきます。