55.7兆円と過去最大の財政支出を盛り込んだ岸田文雄内閣の経済対策が2021年11月19日に閣議決定されました。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な感染拡大)による外出自粛やインバウンド(訪日外国人)客の激減で苦境に立たされた旅行やホテル、運輸、飲食などへの支援を目指したものの、感染拡大を受け2020年12月に一斉停止された「GoToトラベル事業」も最速で2022年1月中旬にも再開する見通しです。2021年4月に国土交通省が「航空・空港関連企業は極めて厳しい経営状況」と指摘した航空大手の飛躍につながるか、株式市場でも注目されています。

国交省「GoToトラベル事業の延長と適切な運用」に言及

日本の航空業界は近年でも2008年のリーマン・ショックや2011年の東日本大震災といった危機に直面しましたが、コロナ禍の苦境は比較にならないほど深刻です。国内線の輸送人員は2021年3月の実績で2019年の同月に比べ52%の大幅減と、減少率としてはリーマン・ショック後の2009年2月(前年同月比15%減)、東日本大震災のあった2011年3月(同24%減)を大幅に上回りました。国交省は航空各社の収益性を向上する努力を支援するための施策の1つに「GoToトラベル事業の延長と適切な運用」を挙げており、早期再開が航空大手の収益下支えにつながるとみています。

【図表1】世界の有償旅客キロ(RPK)の推移
出所:IATA「航空旅客市場分析(9月)」

2021年9月30日に全国19都道府県を対象とした新型コロナ対応の緊急事態宣言などが解除され、国内の新規感染者数の急速な減少もあって国内線需要には回復の兆しが出ています。日本航空(JAL)は2021年12月24日~2022年1月4日の国内線を2021年度の計画比97%の水準で運行します。9割台の運航率は21ヶ月ぶりです。全日本空輸(ANA)は正月の運航率がコロナ禍前の水準になる見通しです。一方、国際航空運送協会(IATA)は2022年の世界の航空需要が2019年に比べ39%減になる見通しを示しています。国際線の早期回復が見込みにくいなかでは国内線の需要喚起策が不可欠と言えそうです。

感染者急減で「GoToキャンペーン」銘柄は好調も、航空2社は感染ピーク後の戻り限定

新型コロナ「第5波」の渦中、全国で確認された新規感染者数のピークは2021年8月20日の2万5992人でした。新規感染者数は8月下旬を天井に急減し、2021年11月22日には50人とピークの500分の1程度の低水準を記録するなど感染が落ち着いた状況が続いています。QUICKが選定した「GoToキャンペーン」関連の25銘柄の11月24日までの過去75営業日の平均上昇率は10.8%と東証株価指数(TOPIX)の5.1%を上回りました。航空券予約サイトなど旅行関連銘柄の力強い上昇が、平均値を押し上げています。

2022年3月期はJAL、ANAともに最終赤字の見通し 国内線の回復がカギに

【図表2】11月24日までの感染ピークからの上昇率(航空大手2社とTOPIX)
出所:株式会社QUICK

しかし、このQUICKが選定した関連銘柄にも含まれる日本航空(9201)とANAホールディングス(9202)に株式市場の期待は高まっていません。感染ピークからの上昇率はJALが5.2%、ANAが4.9%と、いずれも同期間の相場全体の動向を示す東証株価指数(TOPIX)の7.4%を下回っています。ANAは2021年10月29日に2022年3月期の最終的なもうけを示す連結最終損益が従来予想の35億円の黒字から1000億円の赤字に転落すると発表し、JALも2021年11月2日に未定としていた2022年3月期の連結最終損益が1460億円になる見通しだと明らかにしました。

両社とも国内線の旅客数は新型コロナ流行前の約5割まで回復しつつあり、世界的なコンテナ不足の長期化による空輸への切り替えで好調な貨物収入が下支えしています。機動的な減便や人員削減といったコスト削減も進めていますが、日本の入国制限の緩和の遅れなどに伴う国際線需要の回復が見通せない状況が続いています。年末年始に見込まれる国内線需要の回復を2022年1月中旬以降の再開が見込まれるGoToトラベル事業で継続的なものにし、国際線需要の回復の遅れをどこまで埋められるか見極めたいとのムードが航空大手への投資をためらわせているようです。

ライバル2社が環境対応で連携CO2削減への取り組みも株価を左右

環境改善と経済性を両立させた「グリーン経済」への対応も喫緊の課題となりつつあります。ANAとJALは2021年11月8日、「持続可能な航空燃料(Sustainable Aviation Fuel=SAF)の活用促進に向けた市場調査と考察をまとめたレポート「2050年航空輸送におけるCO2排出実質ゼロに向けて」を策定したと発表しました。廃油や植物などを原料とするSAFの導入で航空機運航による二酸化炭素(CO2)を大幅に削減できますが、世界でもごくわずかしか生産されておらず各国の航空会社が奪い合う状況です。各国・地域が定めるSAFの利用比率を守れない航空会社は将来、乗り入れが拒否される可能性があります。今後はライバルが異例の連携をするほど危機感を募らせるSAFの調達動向も株価を左右することになるかもしれません。

次回はQUICKが選定した「GoToキャンペーン」関連の25銘柄にも含まれている飲食関連の銘柄を取り上げます。GoToトラベル再開に加えGoToイート食事券事業の延長で飲食業の収益回復期待は高まっているのか、最新の月次売上高などとともに探っていきます。