全国19都道府県を対象とした新型コロナウイルス対応の緊急事態宣言などが期限の2021年9月30日に解除されました。新規感染者数も急速に減少しており、株式市場では低迷していた個人消費の戻りへの期待感が高まっています。岸田文雄政権が今週11月19日にも策定するとされる新たな経済対策では、新型コロナ対策強化やクリーンエネルギー自動車の導入促進などとともに「GoToトラベル」の再開を盛り込む方針だと伝わっています。感染者の急増で2020年12月28日に全国で一斉に停止された需要喚起策の再開で、苦境にあえぐ旅行業界に光明が差すとの期待が広がっています。

宿泊施設の客室稼働率、依然3割前後で推移

「GoToトラベル」は新型コロナのパンデミック(世界的な感染拡大)による外出自粛やインバウンド(訪日外国人)客の激減で大打撃を受けた旅行やホテル、運輸、飲食などの需要喚起を目指し2020年7月に始まりました。自治体ごとに発出された営業時間の短縮要請に応じた飲食店は売上高の激減などにみまわれましたが、旅行業界も例外ではありません。県境をまたいだ観光の自粛やビジネスマンの出張抑制、入国制限によるインバウンド客の低迷が続き国内で初のコロナ陽性者がみつかった2020年1月以前は5割を上回っていた宿泊施設の客室稼働率は30%前後で推移しています。

【図表1】宿泊施設の客室稼働率(%)
出所:官公庁の観光統計より株式会社QUICK作成

20年は半年弱で8781万泊分が「GoToトラベル」利用、支援額は5400億円に

逆風が収まらないなかで「GoToトラベル」再開に期待が高まっているのは、2020年7月22日~12月28日までの利用が活況だったからです。旅先で使えるクーポン券を合わせて1泊1人2万円を上限に旅行代金の半額を補助する「GoToトラベル」を利用した宿泊数は、観光庁によるとわずか半年弱で8781万泊分に達しました。最大の人口を抱える東京発着の利用が10月以降になったにも関わらず好調で、支援額は5399億円にのぼりました。再開により観光需要が盛り上がれば直接恩恵を受ける業種の収益回復につながるとの期待感から、株式市場では早くも関連銘柄の物色が鮮明になっています。

エアトリなど旅行予約サイト運営に買い、コロナ禍の収益回復を評価も

新型コロナ「第5波」の渦中、全国で確認された新型コロナの新規感染者数のピークは2021年8月20日の2万5992人でした。新規感染者数は8月下旬を天井に急角度で減り始め、足元では200人前後とピークの100分の1程度の低水準での推移が続いています。QUICKが選定した「GoToキャンペーン」関連の25銘柄の11月12日までの過去75営業日の平均上昇率は11.7%と東証株価指数(TOPIX)の6.0%を上回る好調ぶりでした。関連銘柄のうち旅行代理店や旅行予約サイトを運営する銘柄の感染ピークからの上位5社は以下のようになります。

【図表2】旅行代理店や旅行予約サイトを運営する銘柄の感染ピークからの上位5社
株式会社QUICK作成

上昇率首位のアドベンチャー(6030)は国内外の格安航空券の比較・購入や国内ツアーの予約ができる「skiticket」を運営しています。新型コロナとの共存を迫られるなか、サイトでは最短で翌日に自宅に届くPCR検査キットも販売しています。GoToトラベルの再開に向け、既に予約した旅行やこれから予約を申し込む旅行についてあとから割引を適用する準備を進めています。11月12日に発表した2021年7~9月期決算は売上高が24%増、営業利益が2.4倍とコロナ禍にも関わらず急回復しました。

2位のエアトリ(6191)は航空券のインターネット取扱額首位の「エアトリ」を運営しているほか、東南アジアを中心としたインバウンド向けに多言語化を進めWi-Fiルーターやキャンピングカーのレンタルサービスなども手掛けています。11月12日に発表した2021年4~9月期決算は売上高が17%減の176億円と2ケタの減収が続きましたが、本業のもうけを示す営業損益が30億円の黒字と89億円の赤字から急速に回復しました。コロナ禍の営業体制としてオンライン事業を一段と強化するなど事業の再構築を進め原価や販管費の急速な圧縮で収益が改善しました。事業構造の転換を進めやすい身軽さが、予約サイト運営大手の株価を押し上げているのかもしれません。

「GoToトラベル」再開、開始時期が株価に影響

再開後の「GoToトラベル」を巡っては開始時期や継続期間は政府の決定まで見通せない状況です。旅行業界を中心に経済界では年内再開を望む声が多い一方、「第6波」への警戒感や経口薬の普及を待ちたいとの思惑が政府側にあります。開始時期や継続期間によって旅行代理店や予約サイト運営企業の収益は左右されそうです。平日利用を促す割引率の適用なども議論されており、再開後の制度設計が目先の関連銘柄の値動きに影響します。11月19日に決まるとされる経済対策の詳細をしっかり見極める必要がありそうです。

次回はQUICKが選定した「GoToキャンペーン」関連の25銘柄にも含まれている鉄道関連の銘柄を取り上げます。株式市場で鉄道の旅復活への期待が高まっているかどうか確認します。