終活の相談のなかで「財産整理」についての質問をよく受けます。実際に取り掛かろうと思っても、何から手をつければよいか分からない方が多いようです。財産を整理する目的が分からないという方もいらっしゃるかもしれません。しかし財産整理は相続、すなわち誰に何を遺すかという整理にもなります。そこで今回は大切な財産整理の方法や老後資金の作り方など「お金の終活」の手順について解説したいと思います。
ステップ1:自分の財産・持ち物を書き出して把握
「お金はいくらありますか?」と聞かれると、万単位までは分からなくても、ある程度の金額は言えると思います。では「金目のものは?」と聞かれたらいかがでしょうか。一瞬戸惑ったりしませんか。何が金目のものなのか判断が難しいところでしょう。
「現金以外の財産」といえば、有価証券やゴルフ会員権、不動産、貴金属が頭に浮かぶでしょう。それ以外にも、親から引き継いだ絵画や骨董品、趣味でコレクションしているもの、旅行で貯めた航空会社のマイル、ネットショッピングで貯めたポイントなども要チェックです。
私は数年前に財産だけでなく、自分の持ち物をすべて書き出しました。すると「要らないものを持ちすぎている…」と気づいたのです。年に数回しか使わないクレジットカード、少額を入れたままの預貯金、似たような洋服など、頭では要らないとわかっていても、放置してしまっていました。それが、「書く」ことで明確になり、結果として今は、数年間使っていないモノや洋服はない、貯金口座は3つ、クレジットカードは2枚になりました。すっきりとまとめることで管理がしやすくなります。貯めたマイルやポイントなども効率よく使ったり、移行してまとめることを検討すると良いでしょう。
このように最初のステップとして、自分の財産・持ち物(金目のものを全て含む)を書き出し、把握してください。
ステップ2:財産整理―「人生に必要なものを選ぶ」
上記で財産・持ち物を書き出すと、将来的に誰かに引継ぎたいものが見えてくるでしょう。その際、「引き継ぐのは後で良いのか」それとも「今、何かしらの手立てをしたほうが良いのか」と考えることが重要です。
例えばそれが不動産ですと、「空き家」になりかねないものや、放置されそうな土地については、今のうちに対策を施した方が良い場合もあります。なぜなら将来的には値がつかない可能性があるからです。
気になる不動産がある場合は不動産売却査定などをしてみると良いでしょう。今では無料で査定できるところもあります。また、ご自身である程度調べることもできます。
以下、路線価、固定資産税評価額、公示価格について簡単にご説明します。
路線価とは
道路などに面した宅地1㎡あたりの土地評価額で、相続税や贈与税の課税額を決めるための指標です。国税庁で毎年7月に、1月1日時点の価格が公表されおり、国税庁のホームページ上でも確認できます。この路線価に土地の面積をかけて相続税の課税額を割り出すことができます。
固定資産税評価額とは
固定資産税評価額は、固定資産税を決める際の基準となる評価額のことです。土地や家屋など固定資産を所有していると、毎年固定資産税を納付することになります。固定資産税評価額は、所有権を登記している人に送られてくる固定資産税納付通知書の課税明細に記載されています。
公示価格とは
相続税路線価と固定資産税路線価の算出根拠となっているのが公示価格です。国土交通省が毎年1月1日における全国の標準値を選定して正常な価格を公示するものです。国土交通省のホームページ上「国土交通省地価公示・都道府県地価調査」から検索することも可能です。
2021年4月に相続登記の申請を義務化する法律が改正されました。施行は3年以内の政令で定める日とされています。つまり2024年以降、相続した土地および建物などすべての不動産登記が義務付けられることになります。理由なく申請しなかった場合は過料10万円以下の罰則があります。
今、日本には所有者不明の土地が720ヘクタールあるそうです。それはなんと東京ドーム約154個分に相当するとのこと。大きすぎてなかなかイメージが湧きませんね。このような現状が今回の法改正の背景にあるようです。自分が誰かに引き継ぎたいと思っていても、残念ながら「所有者不明の土地」になってしまうケースもあるのではないでしょうか。今のうちに試算して手立てを考えることは財産の大事な整理になると思います。
他にも、宝石、貴金属も流行り廃りがあるため買った当時の値段より価値が相当下がることが多々あります。自分が使う予定のないものは早めに売り、終活資金に充てると良いでしょう。その際、「不要なものを処分する」というのではなく、「これからの人生に必要なものを選ぶ」という観点から整理することが大切です。
ステップ3:将来必要な老後資金を確認-公的年金だけで大丈夫?
財産整理の次には、老後資金についても考えなくてはいけません。20代後半の女性からの相談で「どのくらいお金があれば足りますか?」と聞かれたことがあります。人それぞれ生き方が異なり、支出の金額も違いますので、一概にいくらとは言えません。しかし、一般的な目安として、生命保険文化センターの調査(※)によると夫婦2人で老後生活を送るのに必要と考える最低日常生活費は月額で平均22.1万円とのことです。ゆとりある生活には36.1万円が必要だそうです。
65歳以上の収入源は、ほぼ公的年金です。しかし、公的年金は受け取りを開始する時期によっても支給額が異なります。ご自身のライフプランと照らし合わせ、支給額で生活がまかなえるか早めに検討しておくことが重要です。
関連記事:年金の基本-中級編(2)公的年金はいつから受け取るべきか
試算してみたものの、「公的年金だけでは足りないかも…」と不安に思われる方もいらっしゃるのではないでしょうか。そこで公的年金で足りない部分を補うための自分年金作りについてご紹介したいと思います。
ステップ4:自分年金作りで足りない老後資金を準備
50代以降の方でも始めやすいのが「NISA」です。この制度を利用した場合運用益に対して税金が一切かかりません。初心者にとっても始めやすく、足りない老後資金を補う上でも便利な制度と言えるでしょう。
また、税制面で有利なのが自分年金づくりとして注目されているiDeCo(個人型確定拠出年金)です。iDeCoは、自分が拠出した掛金を、自分で運用し、資産を形成する私的年金制度の1つです。掛金を60歳になるまで拠出し、60歳以降に給付金を受け取ることができます。
iDeCoには以下の3つの税制メリットがあります。
(1)掛け金が所得控除の対象となる
(2)運用による利益が非課税となる(通常は20.315%の課税)
(3)受け取る年金が公的年金等控除や退職所得控除の対象となる
終活において、自分の財産の把握・整理は非常に重要なポイントです。元気なうちに整理をしておくことは遺される家族のためにもなるでしょう。また、財産整理と合わせて将来必要な老後資金を早いうちから準備しておくことも大事です。ぜひ上記を皆さんの「お金の終活」のヒントとして役立てていただけると幸いです。
(※)生命保険文化センター「生活保障に関する調査」(令和元年・2019年度)