昨今の「終活」ブームの影響もあるのでしょう。若い世代への教育費支援、相続税対策、はたまた断捨離のために、生前贈与を検討される方が増えています。

そこで、今回と次回の2回にわたって「意外と知らない生前贈与」についてお伝えしたいと思います。

そもそも「贈与」とは?

「贈与は、当事者の一方がある財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる。」

民法549条、贈与を規定した条文です。カタいですね…。

要は、あげる側の「あげますよ」、もらう側の「もらいますよ」という気持ちが一致したら贈与が成立します、ということです。住宅購入の援助のため、親が「子どもに1,000万円あげました」、子どもは「ありがたく受け取りました」、こんなイメージです。

実は、このあげる側の「あげますよ」という意思が非常に重要なのです。というのも、今日の高齢化社会において、あげる側である親が認知症などで判断能力を失っていることも少なくありません。この場合に、その子どもが親の預金を預かっていることもあると思います。このとき、親の預金口座から、ほかのご家族に資金を移動しても、認知症の親は「あげますよ」という意思表示をしていないため、贈与が成立したとはいえません。

つまり、あげる側が元気なうちでないと生前贈与は行えないのです。

預金口座の管理を任された子どもが親の預金残高をみて、以下で述べる相続税対策をしたいと思っても、すでに時遅し(!)となります。そして、このようなことが十分に起こり得るのです。

相続税対策としての生前贈与

相続税は、お亡くなりになられた方が、亡くなられたときにお持ちの財産に対して課される税金です。亡くなる前に子どもへ贈与してしまえば、亡くなるときに持っていないので相続税はかかりません。とはいえ、無制限に生前贈与を認めてしまうと相続税の回避が容易になるため、生前贈与には贈与税がかかることになっています。

贈与税の計算方法:
(1年間の贈与金額-非課税枠1,100,000円)×税率-控除額=贈与税額

この算式を見てこう思われるのではないでしょうか。「年間の非課税枠が110万円なのだから、110万円の範囲内で生前贈与すれば贈与税が課税されないのだな」と。

経験上、お子様に毎年110万円贈与される方を多くお見かけします。このような非課税枠での生前贈与は節税の観点で無駄ではありませんが、さらに有利な方法があるかどうか、もう少し検討が必要です。

1億5,000万円の財産をお持ちのAさんのケースで考えてみましょう。唯一の相続人である長男Bさんへの生前贈与を検討されています。

(1)生前贈与をしない場合
遺産総額 1億5,000万円    
相続税       2,860万円

(2)非課税枠110万円の贈与を10年間行った場合
遺産総額   1億3,900万円    
相続税          2,420万円
贈与税                   0円
            計    2,420万円

(3)500万円の贈与を10年間行った場合
遺産総額            1億円        
相続税         1,220万円
贈与税            485万円 
          計     1,705万円

(相続開始前3年以内に行った贈与は遺産総額に加算する必要がありますが、10年目の贈与から3年以上経過したのちAさんの相続が起きるものとして、この3年内贈与加算については考慮していません)

(3)は、500万円の贈与により毎年48.5万円、10年間で485万円の贈与税が課されます。一方、生前贈与で遺産総額が減少したことにより相続税の負担が減り、トータルの税負担が軽減されました。つまり贈与税を払ってでも110万円を超えて贈与したほうが有利になる場合があるのです。

(2)の非課税枠である110万円を贈与するより節税効果が大きくなるケースがあることをご理解いただけると思います。生前贈与に相続税の節税効果のあることをご理解いただいている方は多くいらっしゃいますが、ここまでご検討して生前贈与される方は少ないように思います。

では、「いくらを贈与するのが一番いいの?」という問いに対しては、相続人の数や、贈与する方の将来の必要資金等を考慮する必要があり、一概には言えません。税理士等の専門家に一度ご相談してみてはいかがでしょうか。