昨今、終活の相談で一番多い事柄は「お墓」です。なぜなら、自分だけの問題ではなく先祖代々続いてきたもの、そして子孫へと継承するものなので、当事者にとっては“自分で決めて良いのか”という不安があるからです。

結論から先に言うと、お墓選びのポイントは「継承者と決めること」です。その理由は、残念ながら自分がお墓に入る時にはすでにこの世にいないからです。では、日本のお墓事情の背景から見てみましょう。

なぜお墓問題は多いのか?変わりゆく日本社会から俯瞰するその背景

よくテレビや雑誌で、お墓に関する寺院の問題点が多く挙げられているかと思います。もちろん、寺院との関係性が希薄になったために問題が起こることもありますが、それよりも、現在は社会変化に起因することのほうが多いように感じます。

先祖代々続いてきた土地や生まれた場所で一生を過ごすことが減少

日本の産業を振り返ってみても、第1次産業革命から第3次産業革命、また近年では第4産業革命という言葉があるように、産業構造の変化によって社会や生活も大きく変化しました。このような背景が大きく影響してか、先祖代々続いてきた土地や生まれた場所で一生を過ごすということが減りました。このようなことから田舎にあるお墓はどうすれば良いのか、という問題が起こります。

 核家族化と少子高齢化が進む

現在日本では、核家族化と少子高齢化が進んでいます。例えば、皆さんご存知のサザエさん。福岡の地方新聞『夕刊フクニチ』誌上で1946年から連載が始まりました。その頃は3世帯同居が当たり前。1953年の世帯人数は平均5人を超えていました。現在、2020年の国勢調査によると1世帯の人数は平均2.27人と核家族化が顕著になっています。これは別の視点で見ると、少子高齢社会となった日本において、お墓を守る人が減少していることを示唆しているとも言えるでしょう。

お墓の法律である墓地埋葬法は1948年に制定されました。とはいえ、その当時はあまり法整備がされておらず、お墓は家の近所にあるもの(みなし墓地と言います)という概念が主流でした。そこから公営や民間の墓地ができて現在に至るのですが、いまだに日本にはこのみなし墓地、個人のお墓が多くあります。そのため、核家族化、少子高齢社会の現在ではお墓を守りきれずに「墓じまい」ということが起こったりしているのです。

それでは、このような背景を踏まえ、今後お墓選びについて知っておくべきポイント、事前に確認したほうが良いことを解説します。

お墓選びの前に知っておきたい基礎知識・心構え

永代供養のルールは寺院や霊園によって違う

永代供養という言葉を聞いたことがあるかと思います。これは「永代」であって「永久」ではありません。その違いは、期限があるかどうか、ということです。また供養の形式ではなく契約内容を意味します。

よく、樹木葬は永代供養だ、などと聞きますが、樹木葬=永代供養ではなく、どのような形式であれ「永代供養」が付いているかいないかの違いです。

例えば、納骨檀に永代供養が付いている場合、その供養は最後の家族が入って33年を経たら終了など、各々の寺院や霊園ごとに契約、ルールがあるのです。この観点から大事なことは1つ1つの契約内容を丁寧に確認することが大事です。

自分の希望を伝えるだけでは不十分

先ほど述べた通り、お墓は自分が亡くなった後に入る終の住処です。とはいえ、自分の希望や思いだけを主張しては、かえって後々トラブルになる可能性があります。

これは生前に相続の相談で来られた方のお話です。どのように相続を分けるか、これはある程度決めたので、そのことを家族に伝えようということで、次回の打合せには長男の方に入ってもらうことになりました。

土地や財産に関する話は目途がつき、そこまでは皆が納得してうまくいっていました。しかし、父親がお墓の話を始めたところから雲行きが怪しくなりました。「子どもに迷惑がかかると悪いので、いつも行く墓はやめて管理料などが掛からない、親の代で終わる墓を選びたい」と切り出したのです。つまり、その方は子どもの負担にならないお墓選びをした、と言うのです。

すると、息子からの一言は「私は別にあのお墓の管理にお金がかかっても迷惑とは思わない」でした。

「子どもに迷惑をかけたくない(親) ≠ 子どもにとって迷惑なこと(子)」 

つまり、残る子どもにとって何が負担なのか、それは聞いてみないとわからないということです。お墓選びは、子どもに限らず、守ってくれる人と決めることが大切です。

墓地の権利は、所有権ではなく使用権と認識する

寺院や霊園にお墓のある方が、お墓の引っ越しをするケースが増えました。その場合、墓地は使用権を持っているだけなので、賃貸マンションなどと同じく「現状復帰」をしなければなりません。石を撤去し更地に戻す必要があります。また、墓地自体が広いと費用が高くなりますし、狭いと安くなります。

また、他に(閉眼)供養をしてもらう機会があれば、お布施をすることになります。寺院だと今までお世話になったお礼として離檀料を包む場合もあります。しかし、これは特に義務ではありません。この離檀料はお布施のため決めらた値段はありませんが、どれくらいが良いのかわからなければ住職に目安を尋ねるのも良いでしょう。その際、あまりに桁外れな金額を提示されたら専門家に相談するという選択肢もあります。

墓地の価格や散骨業者など、お墓選びの契約前に注意したいポイント

墓地の価格は、家を購入するのと同様、千差万別で場所、大きさ、使う資材、利便性など様々な要素・条件で全く変わります。そのため墓地を決める際は数ヶ所をウェブサイトで調べるだけでなく、実際に見学に行くことが大事です。

価格1:墓の引っ越し(撤去費用だけの場合)

単純に撤去作業だけの場合、墓の形状と敷地の大きさで値段差はあるものの、10〜50万円程度の費用がかかります。お布施や引っ越し先の購入費用は含んでいません。

価格2:散骨(山・海含む)

海洋散骨は委託の場合、費用は3万円程度~になります。具体的な費用について、契約の際にしっかり内容を確認してください。この費用に何が含まれていて、他にどのような費用が必要になるのか、事前に確認し、業者と認識合わせをすることが大事です。

また山などでの散骨の場合、第3者が所有している土地であればもちろん使用できません。山だから大丈夫と思われがちですが、所有者は必ずいるのでこちらも事前に確認しましょう。

散骨業者は、自分が所有する土地、あるいは寺院所有の土地で契約していて散骨しています。また業者選びにおいては、あまりにも見積もりが安く、所在のはっきりしないネットだけの業者は避けた方が良いでしょう。信頼性の高い業者は、必ずどこに散骨したかピンポイントの場所を示します。島根県のカズラ島は散骨を認めている唯一の場所です。ホームページなどを参考にしてください。

お墓の価格は先ほど述べた通り、条件によって異なります。また同じような形式の納骨堂でも寺院や霊園ごとに値段も購入ルールも異なります。購入から次に納骨するまでの期間中の管理料が不要なところもあれば、納骨までの管理料は必要だが入ったら不要なところもあります。そのため、事前にきちんとした確認が必要です。

一番良い方法はお墓の見学後、検討する際に、まだ契約前でも「契約書を見せてください」と申し出ることです。例えば送迎バス付きのところでも契約書に記載がなければ、それは「サービス」で行っていることなのでいずれ無くなる可能性もあります。

また、万が一子孫が途絶えた時にはどうなるのか、この辺りも心配です。そのような不安材料も踏まえ、あらゆる懸念事項をしっかり確認の上、お墓を購入することが大切です。

お墓は目に見えるものですが、墓参りにいくという行為は墓を見たいのではなく、先祖に会いにいくことが目的だと思います。自分の大事なルーツである先祖をどのように子孫に繋げていくか。案外大事なものは目に見えないものばかりなのです。