「人は、1人暮らしはできますが、1人では生きていけない」
よく講演会の際にこんな話をします。たとえ1年間誰とも会っていないという方がいても、ご飯を食べる際には誰かが作ってくれた材料を調理に使っていますし、住んでいる家にしても、エネルギーにしても、1人で作り出せるものはありません。つまり、人との関係、ご縁は大事なものなのです。まず人間関係を考えるにあたり知っておいてほしいことです。

飲酒や喫煙よりも「社会とのつながり」が健康に影響する

健康は多くの方の関心事です。人生100年時代と言われ長く生きるようになった今、当たり前ですが元気に長生きしたいと思うのが普通でしょう。皆さんもそのような中「健康には気を遣っている」という方が多くいらっしゃるのではないでしょうか。例えば、1日の歩数を○○歩以上にするとか、この食べ物は良いので摂取するようにしているなど、生活に取り入れている習慣があるかと思います。

集団を対象として病気原因や予防などを研究する学問を「疫学」と言います。これまで多くの研究者が疫学研究にて長生きをするための生活様式とは何なのか、という疑問について取り組んできました。そして、その研究結果が論文として2010年に発表されました。

タバコを吸わない、お酒を飲み過ぎない、運動する、太り過ぎないといった点が健康や長生きに良いのは多くの方が知っていますし、皆さんも納得できると思います。しかし、それら以上に長寿に影響するライフスタイルがあったのです。それが「社会とつながりを持つこと」でした。すなわち「人とのつながり」です。

人が幸せを感じることとは

幸福度という言葉はご存知でしょうか。日本人はこの幸福度が他国に比べて低いという話も聞いたことがあると思います。世界幸福度ランキング2021年版で、日本は世界56位でした。その「人の幸福度」について75年以上にわたり研究したハーバード大学の研究者たちによる「ハーバード成人発達研究では、人の幸福度に最も影響を与えるのは「温かな人間関係である」と結論づけています。

「健康寿命を延ばす」。これは体の健康のことに聞こえますが、お金にも大きく関わります。つまり、治療費などの費用を抑えるだけではなく、働くこともできるということです。老後を楽しく幸せに生きるためには、自助努力で健康寿命を伸ばすことを忘れずにいたいものです。

そしてこの2点のことから「人間関係」を考えるときに最も重要なのはどう整理するかよりもどのような付き合いをすれば良いのか、ということが重要になります。その観点で人間関係を築くポイントを掘り下げます。

後悔しない人間関係を築くための2つのポイント

(1)立つ鳥跡を濁さず

近年、年末になると話題になるのが「終活年賀状」。これは数年前に出た言葉で、今後年賀状のやりとりを辞退することを伝える最後の年賀状のことのようです。

私はこのことに対して、年齢を重ね、年賀状を書くのも大変になってきたということであれば、その旨を書き「今後は直接会ったり、電話したり、普段からのお付き合いを引き続きよろしくお願いします」と伝える終活年賀状は良いものの、あえて「あなたとは付き合いません」といったような内容をわざわざ送る必要はないと思っています。

長い人生、気が合わない、もう会いたくない、といった人は多かれ少なかれいるものです。しかし、その気持ちを露骨に伝えることで、自分の気持ちはすっきりしても、はたして相手はどんな気持ちになるのか?という優しさを持つのが本来の終活です。

ご自身の財産や人生を総括し、次世代に継承して行きたいと考えているもの書き残しておける「エンディングノート」等には、お葬式に呼びたくない人リスト、がある場合があります。立つ鳥跡を濁さず、引き際は美しくあるべきだという先人からの教えです。

とはいえ、万が一お葬式に呼びたくない人がそれを目にすることがあったら、きっと一生その人は心に曇りができるのではないでしょうか。自分はそんなつもりはなかったけれど相手を傷つけてしまった、ということになるかもしれません。

(2)これからどんな人生を歩もうか?と楽しいことを考える

この観点で人間関係を考えた場合、例えば「昔の趣味を復活させたい」のであれば、その仲間に久々に連絡を取ってみたり、また将来は沖縄に住みたいなど移住を検討するのであれば現地の方との人間関係が大事になったりするでしょう。終活においては人間関係を「断つ」のではなく、「増やす」、「復活させる」に意識を向ける方が大切です。考え方1つで心も豊かになります。

最後に2009年に致知出版社より出版された本を紹介します。著者は緩和ケアに従事されている医師の大津秀一氏で、「死ぬ時に後悔する25」という項目を紹介しています。

1.健康を大切にしなかったこと
2.たばこを止めなかったこと
3.生前の意志を示さなかったこと
4.治療の意味を見失ってしまったこと
5.自分のやりたいことをやらなかったこと
6.夢をかなえられなかったこと
7.悪事に手を染めたこと
8.感情に振り回された一生を過ごしたこと
9.他人に優しくしなかったこと
10.自分を一番と信じて疑わなかったこと
11.遺産をどうするかを決めなかったこと
12.自分の葬儀を考えなかったこと
13.故郷に帰らなかったこと
14.美味しいものを食べておかなかったこと
15.仕事ばかりで趣味に時間を割かなかったこと
16.行きたい場所に旅行しなかったこと
17.会いたい人に会っておかなかったこと
18.記憶に残る恋愛をしなかったこと
19.結婚をしなかったこと
20.子どもを育てなかったこと
21.子どもを結婚させなかったこと
22.自分の生きた証を残さなかったこと
23.生と死の問題を乗り越えられなかったこと
24.神仏の教えを知らなかったこと
25.愛する人にありがとうと伝えなかったこと

余命を宣告された方はこのようなことを後悔するそうです。
ぜひ、終活の要である「大切な人にありがとうを伝える」ことから実践し、この人生100年時代をより良く楽しくお過ごしください。