先週はG20があり、週末は北朝鮮がミサイル発射と日本にも大きく影響を及ぼす国際ニュースが相次ぎました。
ドル円は先週末に5か月振りの100円台を回復し、(今朝がた一時99円台をつけましたが)クロス円も軒並み堅調な動きを見せています。
G20に先立ち、米ドルを基軸通貨とする国際通貨体制の見直し論が中国等から浮上、その後米国側から「基軸通貨は今も将来も米ドルだ」と繰り返し表明されるという事態があり、先週の「駆け込み寺」※でも基軸通貨のあり方等(中国が主張する新機軸通貨も含め)ご質問いただきました。またクロス円の通貨とドル円との関係についてもご質問があり、これらを一連のものとして、今日は取り上げたいと思います。

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まず、為替市場においての米ドルの立場、役割ですが、前述のとおり現状のマーケットでは「基軸通貨」となっています。
基軸通貨はどういう通貨なのか、といえば、流通量、取引量ともに最大で世界における通貨としての信任がもっとも厚い通貨となります。そのため、世界の貿易においても主要な取引通貨となり、世界各国の外貨準備資金においても主要通貨となります。

<基軸通貨の条件>
●国際間の貿易・資本取引に広く使用される決済通貨
●各国通貨の価値基準となる基準通貨
●通貨当局が対外準備資産として保有する準備通貨

上記の条件を満たすためにも、基軸通貨となるべき通貨は市場において価値が(比較的)安定し、基軸通貨国では高度に発達した為替市場と金融・資本市場を持ち、そして対外取引規制がない(自由取引)ことが必要条件となります。
今回、中国が提言したのは、米ドルに代わり、世界通貨基金(IMF)加盟国が利用できるSDR(special drawing rights)の使用範囲を拡大し、基軸通貨の役割を担わせようというものでした。
米国が世界金融不安の発生の国であり、景気対策による財政赤字拡大が見込まれるため、その通貨の基軸通貨としての安定性・安全性に対し懸念を表明したのです。
SDRはIMF加盟国のうち貿易量の多い上位国通貨のバスケットとなっており、現在は米ドル、日本円、英ボンド、ユーロが採用されています。当然のことながら実態としての「貨幣」が存在するわけではなく、過去においてもバスケット通貨の維持は採用国に負担を強いる結果(アジア危機等)となることも多いため、中国の提案はまだ現実味を帯びてきていないと思われます。

さて、市場における基軸通貨の話に戻します。為替市場においては基軸通貨である米ドルに対して、世界各国の通貨がどれだけの価値をもっているか、が為替レートの中心となります。
その表記方法は自国通貨建てと他国通貨(外貨)建ての2種類があり、日本円は1外国通貨に対して日本円がどれだけの価値をもっているかを表す自国通貨建てを採用しているため1米ドル=●円といった表記になります。
ユーロや豪ドルなどは1ユーロ=●米ドル、1豪ドル=●米ドルなどのように1自国通貨がいくらの外貨なのかという他国通貨建てです。
ユーロ円や豪ドル円などがかなりのボリュームで取引されているのは事実ですが、そもそもの考え方はドル円とユーロドル、ドル円と豪ドル・ドルといった2通貨の組み合わせの為替レートです。それらの対円の為替レートを「クロス円」と呼ぶのもそのためです。
つまりクロス円の値動きは当事者である日本と当事国の二国間の関係だけでなく、米ドル円の値動きの影響を大きく受けることとなるのです。

もちろん取引量の増加やその他の要因から、必ずしもクロス円を上記のような2為替レートに分けて考える必要はないですし、株式市場の値動きや他の市場の要因から別個の動きをすることが多くなってきていますが、「基軸通貨」についてはぜひ理解しておきたいですね。
廣澤 知子
マネックス証券 シニア・フィナンシャル・アドバイザー