新型コロナウイルスや中国政府の規制強化が足かせに

8月後半の中国株はまちまちの動きとなっています。8月13日終値から8月30日終値まで騰落率は上海総合指数が+0.3%、香港ハンセン指数が-3.2%となっています。

8月上旬からの反発基調が続いていた上海総合指数も8月17日には大きく売り込まれました。これは7月の中国の経済指標が振るわなかったためです。

7月の小売売上高は前年比8.5%増となり市場予想の11.5%増や、前月実績の12.1%増を下回りました。また、鉱工業生産も前年比6.4%増と市場予想の7.9%増や前月実績の8.3%増を下回り、固定資産投資も10.3%増と市場予想の11.3%増や前月実績の12.6%増を下回りました。

経済指標が思わしくない数字が続いていることに加え、新型コロナウイルスのデルタ株の感染拡大が中国でも広がってきたことも旅行関連や消費関連の株価を押し下げ、株価の重しとなりました。

そしてその一方で、中国政府の規制強化への懸念も強まりました。例えば、8月17日には中国の国家市場監督管理総局がネット企業の競合企業のプラットフォームを不当に遮断する行為を禁止する新たな指針を示したり、当局が個人情報保護法の成立を目指す方針を示したりしています。

これを受けて、テンセント(00700)やアリババグループ(09988)、美団(03690)などのネット関連株は大きく下落しました。また、8月17日に党中央財経委員会は「共同富裕」の理念を目指す方針を再確認しています。

これは、貧富の差を縮小するという意味で、中国当局が今後、成長重視から社会主義の考え方に近い富の平等化に注力することを意味します。中国当局は今後、ネット企業の独占的な運営を許さず、政府系の国営企業を通じた株式の取得や経営層への監理ポストの派遣などを通じて管理を強めてくる見通しです。

ネット株は反発するもIT企業は厳しい局面

ただ、その後に大きな転換点がありました。1つは新型コロナの新規感染者数が縮小していき、8月24日には市中感染者が1人となるまで減少してきたことです。世界的に見て、デルタ株の感染拡大は経済のブレーキになっていますので、感染が抑えられたことは株価に大きなプラスとなりました。

そしてもう1つはテンセントが8月19日に18万株、8月23日に23万株の自社株買いを発表したことです。過去を見ると、テンセントが自社株買いをしたタイミングは、株価の底値圏となっていることが多く、市場心理には大きなプラスとなりました。

さらに言えば、中国政府の締め付けを背景に中国株を数ヶ月間にわたって売却していたアーク・オートノマス・テクノロジー&ロボティクス米国上場ETF(ARKQ)が8月24日にJDドットコム(JD)の米国預託証券(ADR)を買い戻したことも、IT関連株の買い戻しに繋がりました。

このようにして、上海総合指数と香港ハンセン指数は反発したのですが、その後、明暗が分かれました。

まず、香港ハンセン指数は再びネット企業への規制強化が株価の重しとなっています。また、汚職摘発機関がアリババグループの地元の共産党幹部を調査したとの報道からアリババグループ株は下げが続きました。

さらに当局は8月30日に未成年のゲーム中毒を防ぐために、未成年のゲーム利用制限を強化する方針を打ち出し、利用時間や実名管理の強化などの利用制限を強化する方針を打ち出しています。

他にもテンセントやアリババグループが展開するクラウドの利用を国営企業のクラウドに移す指導を天津市政府が出したとの報道がありました。このようなIT企業への規制強化はまだまだ続きそうで、時価総額の大きなネット株の株価が軟調で香港ハンセン指数も軟調な動きとなっています。

一方、上海総合指数についてはデルタ株の感染が引き続き抑えられていることや政府系メディアが中国人民銀行の預金準備率引き下げの可能性について触れたり、資源価格が上昇して資源株が上昇したりするなどプラス要因がいくつかあって、戻り高値を維持しているような状況です。

中国本土の上海市場と深セン市場には中国本土の人が携わる巨大な株式市場があり、これらを保有している中国国民への当局の配慮がないはずはないと考えられます。そのことを踏まえると、中国本土市場が堅調気味に推移して、香港市場が軟調気味に推移するという基調はもうしばらく続きそうです。