>> >>特別インタビュー【1】ズーム・ビデオ・コミュニケーションズ(ZM)の成長の原動力、日本でのビジネスの現状と新たな可能性
企業規模に合わせたビジネス戦略
岡元:大企業と従業員数の少ない中小企業向けの戦略の違いは何ですか。
マッカラム氏:ズーム・ビデオ・コミュニケーションズ社(以下、Zoom)(ZM)の強みは、技術の幅広さです。弊社の「ホリゾンタル」と呼ばれる技術は、Zoomで誕生日パーティーをしたいという個人ユーザーから、何十万人もの従業員を抱える大企業まで、幅広く対応することができます。
Zoomの良いところは、これらのカテゴリーすべてにおいて同じ製品を提供しているということです。無料版から有料版まで同じ製品なのです。無料版と有料版の大きな違いは、無料版は1回40分の時間制限があることです。まずは数多くのお客様に無料版で試して使用を継続いただくことで、他の人にも広がっていきます。そうすることで、サービスを導入してもらうことが可能になるのです。
ある程度のレベルに達すると「ランド・アンド・エクスパンド」戦略(※)に目を向け始めます。まずは対象を2カテゴリーに分けます。従業員数10人以下の企業や一般消費者のお客様については、主に「セルフサービス」となります。 これらのお客様はデジタルマーケティングの影響や、Zoomミーティングに招待してくれる「人」に影響を受けます。Zoomというものがあると聞き、試しにアプリをダウンロードしています。
(※)ランド・アンド・エクスパンド戦略とは、企業にサービス導入を販売する際に、無料や小規模の導入から始めて顧客と関係性を作ってから、徐々にアップセルやクロスセルの機会を作って売上を拡大していく戦略のこと。
次に従業員が10人以上、11人から1000人の場合は、営業チームがお客様に連絡を取り、Zoomミーティング、Zoom Phone、ウェビナー、チャットなどのサービスを販売します。 従業員1,000人以上の企業に対しては、上級管理職の営業担当者を配置します。彼らは提案依頼ができる経験豊かな人材で、ユーザーテストなど、顧客企業の重要な窓口として必要なことをすべて行います。このように私たちは顧客企業の規模や特性に合わせて、販売人員を配置する方法をとっています。
一方でコンプライアンス的な視点で、縦方向(バーティカル)にフォーカスしたサービスを提供しているケースもあります。例えば、弊社は米国政府向けにもサービス提供しており、米国政府の採用するクラウドのセキュリティ基準であるFedRAMP認証を受けています。これは、政府が弊社の技術を使いやすさとセキュリティの両面で評価したことを意味します。
また、金融サービスの分野にも進出しています。金融サービスには多くのコンプライアンスや規制が存在するため、同様の縦方向の対応が必要です。その点において私たちは非常にうまく機能しており、米国の大手銀行のうち8行がZoomのサービスの一部を使っていると思います。
また、教育分野では、従来のZoomは大学向けでしたが、現在は幼稚園から12歳までの学校向けにも提供しています。コロナ禍において弊社は世界中の125,000の学校に無料でZoomを提供し、支援に努めています。つまり、子どもたちは終日、無料でZoomを使えるのです。実際に私の子どもたちも使っています。
早く対面式の授業に戻れると良いのですが、子どもたちの学校でもまだZoomを使ってオンライン授業を行っています。オンラインでの参加が普及すると、幼稚園から12歳までの学校では、保護者会などで、時間外に学校に行く必要や、幼稚園児用の小さな椅子に座る必要がなくなるかもしれません。Zoomで授業や行事を行えるようになると、先生たちや保護者の時間的な余裕や利便性が生まれるのです。
縦方向の視点から見たもう1つの分野は、ヘルスケアです。米国では、医療に多くのプライバシー要件がありますが、弊社はHIP認可も取得していますので、ヘルスケアの分野にも対応できるようになっています。
個人ユーザーはFedRAMP認証など気にしないかもしれませんが、弊社が承認を得るために取り組んだ努力は、すべて製品に反映されており、誰もが使えるように横展開しています。
解約率に見られる傾向と見通し
岡元:解約率について教えてください。 解約率が高い業界や年齢層はありますか。あるとすれば、それを改善するためのソリューションはありますか。
マッカラム氏:規模による傾向が見られます。従業員が10人以下のお客様は、経験的に解約率が非常に高いですね。サービスに価値を見いだせないというわけではないと思いますが、彼らは月間契約で好きなときに購入するという傾向があります。
もし私がユーザーで、今月Zoomでの誕生日会を3回開催するとしたら、今月はサービスを購入しますが、その後さらに誕生日があったり、カクテルパーティーを開きたいと思ったりするまで、数ヶ月間サービスを購入しないでしょう。小規模なコンサルタントであれば、お客様と一緒に取り組むプロジェクトがあれば、3ヶ月間Zoomを購入し、翌月は使用しないで、また翌月に購入するということを考えるでしょう。弊社は、そのようなユーザーのためにも使いやすいサービスを提供しています。
パンデミックが始まってから、少しずつ解約率が高くなっていったのがわかります。全体に占める月間契約ビジネスが約20%から約37%に上昇するなか、解約率も高くなりました。約1年前の第2四半期が最も高かったのですが、現在は下がってきており、安定しています。経済再開の過程でそうなるだろうと予想していました。
かつて企業の事業継続計画(BCP)と言えば、「東京で一生に一度の吹雪が発生したので、社員を数日間帰宅させる必要がある」というものでした。今では、企業はよりグローバルで、長期的な視点で物事を考えています。社員がどこにいても、安全に生産性を維持できる方法を求めているのです。経済が再開しても、この傾向は続くと思います。
また、多くの企業のCIO(最高情報責任者)から、どこにいても仕事ができることが重要であるという声を聞いています。そういったことが、Zoomを非常に定着性のあるものにしているのだと思います。ですから、ビジネスの面ではあまり大きな変化はありません。また、大企業になればなるほど、Zoomのような契約に対して複数年のコミットメントを行うのが一般的です。
米国外でのビジネス展開の現況
岡元:現在、御社のビジネスの66%は米国内で展開されています。米国外でのビジネスチャンスについて教えてください。
マッカラム氏:私たちの大きな成長分野は海外市場です。コロナ禍で、弊社のサービスは世界中で使われています。ラテンアメリカやベトナム、東欧の一部などでは、予想より数年早く利用が始まりました。
現在、私たちは短期的に最大のチャンスがある経済圏に焦点を当て、それらの地域を開拓しています。しかし、ユーザーがいても、実際に彼らに対して営業する体制が整っていない場合もあります。そこで私たちはアムステルダムにオフィスを開設し、営業の人員を揃えました。マニラにもオフィスを開設しましたし、日本などでも採用活動を行っています。
一度に揃って進出できるわけではありませので、常にどこに進出すべきかを考えながら行動しています。 弊社が世界的なブランドになったのは、素晴らしいことです。海外市場は今後数年間にわたって弊社の成長分野となるでしょう。
M&Aにおいて注視するポイント
岡元:M&A戦略について教えてください。御社はM&Aに対して積極的でしょうか。もしそうであれば、どの分野に関心をお持ちですか。
マッカラム氏: 私たちは、様々な企業を積極的に見ています。特に企業カルチャーを重要視しています。弊社の企業カルチャーは、お客様の幸せと従業員の幸せを追求するものです。世界中の誰もがそう考えていると思いますよね。しかし、そうでない企業もあるのです。お客様との関係や従業員よりも、取引を最優先している企業もあります。ですので、私たちは企業カルチャーを大切にしています。
もう1つの大きなポイントはモダンアーキテクチャです。これは必須条件です。サッカーに例えるならば、ボールが次にどこに行くかを知ることが大事です。ボールがどこにあったかは関係ないのです。ですから、導入するテクノロジーの種類については、慎重に判断します。最新のソフトウェアコードでなければなりませんので。
これまでの私たちの実績を見てみると、技術力の高い2つの素晴らしい企業をボルトオン型(既存事業の補完的)M&Aで導入していることがわかります。1社はセキュリティ面で、エンド・ツー・エンドのセキュリティを強化しました。もう1社は翻訳会社で、ライブ翻訳を行うことができます。どちらも大きなビジネスモデルを持っているわけではありませんが、強力なエンジニアと優れた能力を持ち、弊社の製品を強化してくれました。
私たちは社内のイノベーションを促進するために、更に多くのエンジニアを投入することを検討しています。現在、弊社の売上の4%が研究開発です。それは人件費の約25%にしか相当しません。それと米国のチームとともにエンジニアリングチームの幅を広げています。
生産性向上ツールには、とても興味深いものがあります。マーケットプレースには、約1,000のアプリケーションがあり、生産性向上ツールがたくさんあります。また、皆さんがこれらのツールを特定の分野で使用して、実に面白いことをしているのを垣間見ることができます。弊社が本当に面白いものを探すための、一種の実験的な場にもなっています。弊社は主にこのようなことに注目しています。
弊社にはビジネス開発担当者のグループ、ビジネスバリュー担当者の小さなグループがあり、常にそのようなことを検討しています。また、先日私たちはベンチャーファンド「Zoom Apps Fund」を立ち上げました。これはZoomアプリを制作する企業に対してZoomがベンチャーキャピタルのように出資するものです。他にも、近々いくつかの発表を予定しています。
また1ヶ月ほど前にサービスを開始したばかりですが、投資案件の契約をいくつか締結し始めています。このように私たちは手持ちの現金の一部を使ったベンチャーキャピタルのような側面もあるのです。
Zoomtopiaとは、どんなイベント?
岡元:9月に開催される「Zoomtopia」について教えてください。
マッカラム氏:Zoomtopiaは、弊社にとって大きなユーザーカンファレンスで、新機能など主要なマイルストーンについてアップデートしたり、新製品の発表を行ったりする機会となっています。また新しいサービスを提供するために、ビジネスモデルの変更も予定しています。Zoomtopiaにお越しいただければ、そのような話をたくさんお聞きいただけます。
また、同様にお客様の声も聞いています。私たちは既存のお客様や潜在的なお客様から、どのようにZoomを使用しているのか、何にZoomを使用しているのかを知りたいと思っています。
先ほど申し上げたように、まだ理解し始めたばかりの使用例がたくさんあります。ほんの数年前にビデオ会議の信頼性が低かったように、人々は今これらの新しい使用例について様々な意見を持っていますので、そのような意見を聞けるでしょう。
そして、この夏にスタートするZoomイベントプラットフォームについてもZoomtopiaでご紹介する予定です。ご参加いただければ、Zoomの臨場感あふれるバーチャル体験をしていただけます。
大規模なイベントにおいて移動やその他の理由で直接イベントに参加できない多くのお客様を逃しているということを、私たちはコロナ禍で学びました。単純なストリーミング配信だけでは十分ではありません。臨場感のある体験を提供したいのです。その点、Zoomtopiaはとてもいい場所だと思います。Zoomtopiaは参加者約3万人からスタートし、昨年(2020年)は15万人以上のお客様にご参加いただきました。今年(2021年)は9月13日と14日に開催する予定で、非常に楽しみにしています。
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本インタビューは2021年7月26日に実施しました。