>> >>特別インタビュー【2】ズーム・ビデオ・コミュニケーションズ(ZM)のM&A戦略、解約率に見られる傾向と見通し

次世代ネットワーク技術がもたらすビジネスチャンス

岡元:5Gや6Gといった技術は、ズーム・ビデオ・コミュニケーションズ(ZM)にとって新たなビジネスチャンスを生み出す可能性があるのでしょうか。

マッカラム氏:まさしくそうですね。短期的に考えると、お客様のお住まいの国の状況によりますが、それでも複数のネットワークで体験を最適化できる人材が必要になると思います。その点、Zoomは非常に優れています。私たちはお客様のデバイスだけでなく、お客様のCPUや所在地を調べて、お客様が利用しているネットワークの種類を把握しています。そして、ネットワークが変化しても、良い体験を得られるかどうかを解析しています。つまり、ソフトウェアが非常にダイナミックな機能を果たしているのです。

例えば携帯電話を使っている人とZoom会議をすることがありますが、彼らが移動していなくても、ソフトウェアが携帯電話のネットワーク内の動きを解析するので、使用感がどんどん改善されていきます。そこにチャンスがあると思っています。 ネットワークの帯域幅や遅延など、現在の制約が大幅に改善されれば、人々に提供できるサービスの数も増えてくるでしょう。

AR(拡張現実)をイメージしてください。ネットワークやハードウェアが改善されれば、非常に面白い世界になるでしょう。バーチャルリアリティの仮想・拡張現実をめぐる問題の1つは、ハードウェアの面でまだ十分でないということだと思います。 

Zoomのセキュリティ問題への対応策

岡元:昨年(2020年)の春に御社ではセキュリティの問題が発生しました。それに対して、どのような取り組みをされましたか。

マッカラム氏:弊社の規模が急速に拡大するとともに、残念な発表も繰り返されました。昨年(2020年)のパンデミックでZoomの利用が爆発的に増加した際、多くの人がZoomを使用した経験がなく、そのリスクに気づいていませんでした。例えばSNS上で「今、カクテルパーティーをやっているよ」と言って参加しているZoom会議のIDを公開する人たちもいました。そうすると悪意を持った人が現れて、そのカクテルパーティーが妨害される事態が発生しました。また、残念なことに、他の種類のイベントでも同様にZoomのイベントを妨害するための手段として受け取る人がいることがわかりました。 

Zoomの画面の下部にはセキュリティボタンがあり、オンとオフを切り替えることができるなど、すべての機能が一目でわかるようになっています。これらの機能は元からZoomに搭載されていたものですが、問題を受けて表示をよりわかりやすくしました。

私たちのビジネスは、単にシンプルであることを第一に考えるだけではなく、シンプルでありながらもセキュリティに配慮したものになっています。そして新しいセキュリティ機能を追加し続けています。

エンド・ツー・エンド暗号化の技術も導入しました。しかし、これで終わりということはありません。セキュリティは旅のようなもので、終着点はありません。
 
さらにセキュリティ強化のため、数百人のセキュリティ担当者をチームに加えました。マイクロソフトにも在籍していたセキュリティ部門の責任者も採用しました。このように私たちはセキュリティに多大な投資をしています。信頼性と透明性に関するレポートも弊社のウェブサイト上でご覧いただけます。
 
また、地域内でトラフィックを限定することも可能です。 例えば、お客様がヨーロッパ、例えばロンドンにいて、トラフィックをEU内のデータセンターのみに限定したいとしたら、それを実現することが可能です。 このように、より安全なサービスを実現するため多くの機能を追加し続けています。

ニューノーマルを見据えた新製品・機能の追加

岡元:他社製のハードウェアにZoomのビデオ会議ソフトをバンドルしているとのことですが、そのビジネスについて詳しく教えてください。

マッカラム氏:ごく一部の例外を除いて、弊社は直接ハードウェアの販売は行っていません。弊社のパートナー企業のハードウェアを購入したい場合は、別の会社から買うことになります。たとえば、デル(DELL)から購入して一緒にバンドルすることもできます。弊社はパートナー企業との連携に力を入れており、そのためいくつかのカテゴリー変更も行いました。例えば弊社のテクノロジーパートナーであるDTEN社は、カメラやマイクなどすべてが内蔵された驚異的なモニターを作っており、価格もタッチスクリーンで600ドル程度です。 また、弊社が一部出資しているNeatframe(Neat)社は、「Neat Bar」と呼ばれるZoomのビデオ会議システム専用のデバイスを作っています。

このバーにはすべての機器が内蔵されているので、非常に安価かつ短時間で役員室のようなオフィスを構築することができます。実際、弊社は「Zoom Smart Gallery」という製品を発売する予定です。これは、会議室とリモートの参加者が平等な参加ができるように開発された機能を備えています。(出社・テレワークにかかわらず)参加者全員が同じスクリーン内に同じサイズで表示されるので、私たちがオフィスに戻った際に抱える課題を克服してくれるでしょう。
 
私のように自宅でテレワークをしていると、オフィスに出社している人たちと話すのは難しいと感じることがあります。出社している人たちは役員室で集まっているかもしれません。その中で発言するのは少し気が引けますよね。一方、参加者全員が同じスクリーン内に同じサイズでビデオに映っていたら、一体感が感じられるのではないでしょうか。全員の顔の表情が見えますし、誰が話そうとしているのもわかります。これにより、発言しやすくなるでしょう。「Neat Bar」を会議室に設置すると、会議室にいる全員がそれぞれのタイルに分けて表示されますので、一人ひとりの顔を見ることができます。ですので、テレワーク中も出社している人と一緒にいるように感じられるのです。
 
他にも、ちょうど前四半期に発売したZoom Phone専用ハードウェアがあります。これは携帯電話に加えて、タッチスクリーンとホワイトボードを備えたまったく新しいカテゴリーのデバイスです。つまり、オフィスの電話でZoom会議ができるのです。 

パソコン上ではなく、電話でZoom会議を開催するのも簡単です。私たちが提供しているハードウェアサブスクリプションサービス「Zoom Haas (Hardware as a Service)」は、中堅企業を対象とした一種のリースプランのようなものです。大企業のお客様は、デルとの提携により、自社へのドロップシッピングが可能です。しかし、その中には、地元の店で購入するには規模が大きすぎ、大手ベンダーのサポートを受けるには小さすぎるグループがあるのです。 そこで私たちはハードウェアとソフトウェアをセットにしてサービスを提供することにしました。しかし、これはビジネスのごく一部に過ぎません。私たちはお客様に幅広い選択肢を提供しているのです。 

低価格で高い収益性を実現

岡元:ビデオ会議の価格動向について教えてください。
 
マッカラム氏:弊社は「お客様の幸せ」を追求しており、高い価値を低価格で提供することもその一部です。本当はZoomの価格をもっと高く設定できたのかもしれませんが、そうはしません。Zoomミーティングライセンスの定価は約15ドルです。長期契約やライセンス数が多い場合は割引をしています。10ライセンスと1,000ライセンス、何十万ライセンスとでは、明らかに価格が異なります。そのため、市場でのZoomの価格設定は競合他社の価格を下回り、非常に競争力があると思います。これは、今後販売する他の多くの技術にも当てはまります。とはいえ、Zoomの収益性を見ると、SaaS分野では最高レベルの利益率を誇っています。 

弊社は規模を拡大しており、テクノロジーの規模も拡大しています。 弊社は幼稚園から12歳までの125,000校をサポートしています。これだけの規模で無料版を提供しているにもかかわらず、前四半期の利益率は73%から74%程度でした。つまり、非常に収益性の高いモデルなのです。IPO前の数年間は、フリーキャッシュフローで黒字を出していました。 

岡元:最後に、日本の個人投資家に向けてメッセージをいただけますか。 

マッカラム氏:Zoomを応援してくださっている皆さんに感謝します。多くの方々にZoomを使っていただき、とても光栄に思っています。私たちはビデオ会議ファーストの企業であり、今後もそれを維持していきます。また、新しいテクノロジーの機能も追加しています。
 
コロナ後、通常の世界に戻っても、長期的にZoomは成長していけると思います。 私も、もっと旅に出て、人々に会って、顔を合わせることを楽しみにしています。一方で前よりもハイブリッドな世界になるとも思います。コロナ後もすべての会議を対面で行う必要はないでしょう。実際にビデオ会議を活用することは、多くの二酸化炭素排出量や通勤時間の節約につながります。Zoomのようなビデオ会議で物事を補強することは効率的なのです。

皆さん、本日はお時間をいただきありがとうございました。

岡元:こちらこそ、ありがとうございました。 

本インタビューは2021年7月26日に実施しました。