今回のセミナーでは、ズーム・ビデオ・コミュニケーションズ社(以下、Zoom)(ZM)で投資家向け広報の責任者であるトム・マッカラム氏にインタビューを行ないました。マッカラム氏はRed Hat社のIR担当副社長を務めたのち、2019年2月にZoomに入社しました。半導体、ソフトウェア、ハードウェア、インターネットなどのテクノロジー業界でグローバルな投資家向け広報チームを成功させ、20年にわたり決算発表や投資家向けのコミュニケーションやイベントを運営してきました。Zoomの更なる成長の原動力や競合他社との差別化の秘訣、日本でのビジネス展開などについてお話しいただきました。

Zoomの更なる成長の原動力は?

岡元 兵八郎
マネックス証券 チーフ・外国株コンサルタント兼マネックス・ユニバーシティ シニアフェロー

岡元:本日は、お忙しい中お時間をいただきありがとうございます。

まず、世界中のZoom利用者の1人として、御社の革新的なサービスに感謝しています。なぜなら、御社はパンデミックという困難な時期に、私たちがつながりを保つための新しい方法を提供してくれたからです。

マッカラム氏:ありがとうございます。コロナ禍において、弊社が皆さんの一助となれたことに心から嬉しく思っています。毎日の会議利用者が延べ1,000万人だったものが、わずか数週間で3億人になったのですから、企業としては驚くべき規模の拡大です。 

岡元:まず、基本的な質問から始めたいと思います。TAM(獲得できる可能性のある最大の市場規模)と、現在のマーケットシェアの推定値について教えてください。また、どのように競合他社との差別化を図ろうとしていますか。

トム・マッカラム
ズーム・ビデオ・コミュニケーションズ社 投資家向け広報の責任者。デューク大学フュークワビジネススクールで経営学修士号を、コルビー大学で経済学学士号を取得。

マッカラム氏:業界アナリストによると、今後数年間で弊社のTAMは約500億ドルになると予測されています。これには、ビデオ会議システム、音声システム、コラボレーション・ソフトウェアが含まれており、かなり大きなTAMとなっています。今のところ、弊社では年間で40億ドルを少し下回る程度の業績を見込んでいますので、まだまだ成長の余地はあります。今後、人々がZoomのより多くの活用方法を見つけて、TAMはさらに拡大すると信じています。

岡元:Zoomは、コロナ禍で世界的に非常に有名になった数少ないブランドの1つです。コロナ後には、何が御社の成長の原動力となるのでしょうか。 長期的なビジネスの見通しをお聞かせください。

マッカラム氏:弊社はビデオ会議ファーストの企業ですが、実はこれが最も困難な部分でもあります。コミュニケーション・ソフトウェア業界全体を見渡してみると、現在、私たちはビデオ会議システムで広く知られています。今では世界のほぼすべての国に進出できる顧客基盤を持っています。数年前は考えられなかったような地域や国でさえ進出できています。グローバルな成長は弊社にとって非常に重要です。 

しかし大企業の間ではまだまだ浸透していません。Global 2000(世界のトップ公開企業2000社)を見ても、10万ドル以上利用いただいた企業は14%程度しかありません。 1,000ドル以上利用いただいたグループが50%以上になります。このように弊社は足場を固めながら、基盤を実際に成長させていく必要があります。

弊社には、より強力な「ランド・アンド・エクスパンド(※)」モデルがあります。また、「Zoom Phone」はこれから数年にわたって成長の原動力となるでしょう。 また今後2~3年かけて注力していくのが、コンタクトセンター、Zoomの機能を用いてアプリを開発できる「Zoom SDK」やイベントなどです。(※ランド・アンド・エクスパンド戦略とは、企業にサービス導入を販売する際に、無料や小規模の導入から始めて顧客と関係性を作ってから、徐々にアップセルやクロスセルの機会を作って売上を拡大していく戦略のこと)

コロナ禍で、オンラインイベントの存在感が非常に大きくなりました。以前は主に全員参加型のイベントにZoomが使われていました。しかし、最近では企業がお客様向けのイベントを行う際や、エンターテイメントやスポーツを提供する際にも使用され、重要な役割を果たすようになりました。「ビデオ会議」を使うことによって、1年前には考えられなかったようなユニークなことができるようになりました。 

競争の激しい市場で優位性を構築した秘訣

岡元:今後もできることが沢山ありそうですね。 

マッカラム氏:はい。大きな競争相手としては、シスコ社(CSCO)やLogMeIn社が挙げられます。マイクロソフト(MSFT)も競争相手の1つですが、同社とは競争関係にありながらも協力し合っています。同社も企業やコミュニケーションのための幅広いソリューションを持っています。これらの企業に対してどのように差別化を図るかというと、私たちはビデオ会議ファーストの企業である強みを活かして最善の選択をしていけば、革新的に彼らの先を行くことができると考えています。

岡元:マイクロソフトとの協力関係について、もう少し詳しく教えてください。 

マッカラム氏: マイクロソフトには「Teams」という技術があり、「Teams」ではチャットを開始して、そのチャットからビデオ会議を始められますが、Zoomの会議をそのまま「Teams」の会議に追加することができます。また、「Teams」からZoomの会議室への移動も可能です。このように、現在多くの統合が行われていますが、これはお客様に選択肢を提供するためのものです。
 
岡元:マイクロソフトの他にも、グーグル(GOOGL)やシスコなど大手グローバル企業がビデオ通信サービスを提供しています。この競争の激しい市場において、どのようにして優位に立つことができたのでしょうか。

マッカラム氏:その秘訣は、創業者のエリック・ユアンにあると思っています。彼はWebExのオリジナル・プログラマーの1人です。もともとWebExはファイル共有技術で、シスコに買収されました。彼はシスコに何年間か在籍し、ビデオ会議システムを追加しました。
 
残念ながら大元のコードはビデオ会議ではなく、ファイル共有を目的としたものだったため、うまく機能せず、多くのお客様にとって満足できるものではありませんでした。そして、彼はシスコを新しいアーキテクチャ(設計思想)に移行させるために何年も費やしましたが、それは叶いませんでした。そこで、彼は40人のエンジニアと共にシスコを退職してZoomをゼロから立ち上げ、ビデオ会議ファーストのアーキテクチャを構築し、他社と大きな差別化を図りました。

現在マイクロソフト傘下となったスカイプのことを考えてみてください。 スカイプは、もともと民間のオーディオ機器として開発されました。そのソフトウェアとコードが結び付けられているのです。その点、ゼロから世界最高レベルのエンジニアたちとスタートしたエリックは、驚異的な製品を作り上げることができたのです。

彼はまたプラットフォームという観点だけでなく、シンプルさも重視して製品を開発しました。皆さんの多くは、Zoomミーティングに参加したことがあると思います。カレンダーのボタンをクリックすると、次の瞬間にはZoomミーティングに参加できて、必要なものはすべてそこに揃っています。これまで他社のオンラインミーティングに参加するには、複雑なステップが必要でした。また、その一貫性やスケーリングもあまり優れていませんでした。 

Zoomでは、ウェビナーで最大5万人のユーザーが参加できる製品を用意しています。 弊社は、世界中どこにいても、どんなデバイスでも利用できるグローバルなサービスを提供しており、それが他社との大きな差別化につながっています。同じ国や都市で1対1のディスカッションをしていると、その違いに気づかないかもしれませんが、世界中の何人もの人とモバイルデバイスやパソコンを使って、自宅やホテルでディスカッションをすると、他の製品との違いにお気づきいただけると思います。

日本でのビジネスの現状と新たな可能性

岡元:第1四半期の決算説明会で、デンソー(6902)を日本の新規顧客として獲得したサクセスストーリーを紹介されていました。そのことについて教えていただけますか。また、日本でのビジネスの状況と今後の新たな可能性についてもお聞かせください。

マッカラム氏:日本全般についてお話しします。まずここ数年、日本でのビジネスは実に堅調でした。米国外では弊社にとって日本は4番目に大きな市場でしたが、現在では第2位に浮上しています。日本では最近、携帯電話向けサービスとして「Zoom Phone」を新たに展開しています。今後も日本での販売体制を強化していく予定です。

日本のお客様では、デンソーや楽天(4755)が、旧来のミーティング製品からZoomに移行し、デンソーでは47,000ライセンス、楽天では42,000ライセンスを購入いただきました。競合他社のサービスと比較した上で、弊社の製品が素晴らしいものであるとご理解いただけたからです。デンソーでは、オフィスだけでなく、工場や社員の自宅でも使用されています。 日本の大企業に評価されていることを、とても誇りに思っています。

無料版サービスの収益化について

岡元:無料版サービスを利用しているユーザーの収益化をどのように考えていますか。例えば、広告モデルなどが考えられますか。

マッカラム氏:弊社は無料版のユーザーをとても大切にしています。Zoomのようなソフトウェアモデルを、40分まで無料で使えるのはユニークだと思います。ユーザーは会議を続けていると40分以上の時間が必要だということがわかってきます。これが多くのユーザーが有料版へ移行する理由です。

現在は無料版については何も施策を行っていません。これまでにも広告や、特に特定の国で無料版を収益化するための他の方法を検討してきましたが、現時点ではまだ何も発表していません。しかし、何らかの広告モデルを試みる可能性はあります。 

>> >>特別インタビュー【2】ズーム・ビデオ・コミュニケーションズ(ZM)のM&A戦略、解約率に見られる傾向と見通し

本インタビューは2021年7月26日に実施しました。