>> >>特別インタビュー【1】米国の燃料電池メーカー「プラグ・パワー(PLUG)」独自の強み、新たなビジネスチャンスとは?
アマゾン(AMZN)、ウォルマート(WMT)など大口顧客の信頼が更なる成長に
岡元:プラグ・パワー社(PLUG)の顧客からの注文のパターンを教えてください。通常は、試験的に小さな注文をいくつか受注してから、大きな注文を受注するのでしょうか。
フリードランダー氏:マテリアルハンドリング(マテハン)で重要なのは、それぞれの流通センターやフルフィルメントセンターについて熟知していることです。場所によって100万~200万平方フィートの規模、フォークリフトは200~300台になることもあります。
私たちが進出している自動車センターはさらに大規模です。より自動化された大きな現場では、より多くのフォークリフトが使用されています。これらの配送フルフィルメントセンターのそれぞれの拠点で、80~100もの異なる場所に製品を供給する場合もあり、非常に扱いに注意を要します。ですので、まず12~18ヶ月間をリードタイムとして、機器を搬入するテストを行っています。その間にインフラを整備し、業務やフォークリフトを引き継いだり、新しいアプリケーションを導入したりします。
そのようなテスト段階を経て、1つか2つのパイロット版を実行すると、顧客のネットワークが可視化されます。私たちはウォルマート、アマゾン、ホーム・デポ(HD)、カルフールといった大口顧客と取引しており、彼らは非常に複雑なサプライチェーンを持っています。それらのネットワークに対応していくことで、私たち自身も大きく成長しています。
例えば2020年、私たちはウォルマートのEコマース部門への進出を発表しました。同社のEコマース部門だけでも、配送センターと同規模の拠点が25箇所以上ある大規模な顧客です。同社に対してもポートフォリオ・アプローチで、GenDriveと燃料供給インフラを提供し、さらに液体水素燃料の販売を契約しています。
現在、大口顧客は4社ですが、年内に5社となる可能性があります。2024年までに少なくとも6社になりますが、それだけではありません。欧州にも力を入れており、マテハン分野の有力な顧客を獲得できる可能性もあります。
岡元:アマゾンやウォルマートのような巨大企業も御社の製品に対して強い信頼を寄せていることが伺えます。そういった企業からの信頼感が、御社のビジネスに反映されているのでしょうか。
フリードランダー氏:はい、その通りです。 2014年にウォルマートが参加してくれたことに、私たちはとても感謝しています。また、アマゾンやホーム・デポも同様に、私たちに信頼を寄せてくれています。大きな証として、共に成長してきたアマゾンは素晴らしい速さで成長しています。ウォルマートもホーム・デポも同様です。コロナ禍では、99%の稼働率でサービスを保証し、燃料を供給し、更なる信頼を獲得しました。それによって、マテハン市場を狙う競合他社にとって、私たちは非常に高い参入障壁になっていると思います。
新たな地域に参入する際の戦略
岡元:御社のビジネスは米国と欧州が中心のようですね。他の地域でのビジネスチャンスについてお聞かせください。
フリードランダー氏:他地域でのビジネスでは、特にパートナーシップに重点を置いています。戦略的にどの地域に進出するかを数ヶ月間かけて検討し、進出するには誰がパートナーとして相応しいかを考えています。
まずは私たちのビジネスの目的、見通し、文化的な面で一致している企業が候補として挙がります。その中で、ジョイントベンチャーを形成する能力があるかどうか、短・中期的な収益機会があるかどうか、といったことを検討します。
例えば欧州に目を向けた際、道路輸送の市場に参入したいと考えました。そこでフランスにオフィスを構え、数ヶ月間かけて候補となる企業と対話しました。ルノーは欧州の小型商用車市場でシェア2位であり、同社との提携は非常に理にかなっていると思いました。パートナーとの協働を検討する際には他の市場、第三次市場についても考えます。もちろん、日本もその1つです。日産の44%はルノーが所有していますし、それは私たちにとって非常に有益なことです。
ルノーとの合弁会社であるHYVIAでは、自動車の製造と設計を弊社とともに行っています。そのため、単に燃料電池スタックを販売するだけではなく、その車両自体を合弁会社で生産しています。
アジアでも同様に非常に有利な分野を探しています。その中でも、韓国では水素を使ったビジネスで特に高く評価されています。SKグループとの提携では彼らの巨大なネットワークを活かし、韓国の製油所や化学工場の大型の電解槽も一緒に設置しています。また、ガス状の水素を回収して大規模な定置型発電を行うだけでなく、そこから水素を製造してオンロードモビリティの充填ステーションや燃料インフラを供給することも考えています。電解槽には近い将来大きなチャンスがあると考えています。
もちろん、中国やベトナムにも参入していきたいですし、これらの市場でも、SKグループとの提携が活かせるでしょう。インドやオーストラリアなど、その他の地域にも注力しています。そして、米国でも複数の分野で拡大の余地があります。マテハン、道路輸送車両、大規模データセンターのバックアップなどにおいて、私たちには真の競争力があると思います。
なぜなら、各地域で最強のパートナーがいるからです。私たちは、これからも有意義なパートナーシップを築き、形成することができると考えています。私たちはグローバル企業であり、かつ完全に垂直統合された水素ソリューション企業です。それができる企業は他に存在しないでしょう。
水素ソリューションのリーディングカンパニーとして地位確立を目指す
フリードランダー氏:電解槽の分野には優れたプレイヤーがいます。燃料電池を提供する企業、燃料電池スタックを提供する企業、グレー水素を製造しているエネルギー企業があります。またはグレーとブルー水素を生成する工業用ガス会社もあります。しかし、それらのアイテムやアプリケーションの中には、様々な用途のものがあります。私たちはその真っ只中で、液体グリーン水素を生産し、最大のグローバルネットワークを構築しています。米国最大かつ最も環境に優しい液体水素ネットワークを持つことを2023年末までに実現する予定です。
液体水素での経験や、PEM(プロトン交換膜) 電解槽の燃料電池スタックを現場で使用した経験から、このようなことを言える企業は他にないでしょう。そして、グリーン水素のための工場を米国内、さらには世界各地に建設することで、真の意味での水素ソリューションのリーディングカンパニーとしての地位を確立することができると信じています。
ESG意識の高まりはビジネス拡大の追い風に
岡元:最近の米国企業全体のESG意識は、御社のビジネスの見通しにどのように影響を与えていますか。
フリードランダー氏:これは重要な差別化要因です。マテハンと同様に、私たちはすべてのアプリケーションにおいても価値提案を模索しています。米国で補助金や投資税控除が廃止された期間もありましたが、私たちのビジネスは全く減速しませんでした。なぜなら、価値ある提案があったからです。
現在、水素燃料電池の道路輸送車には、価格プレミアムがついています。大規模発電の場合は、コストを下げるために劇的な努力をしています。現場で使用しているフォークリフト用のGenDriveはスケールメリットがあり、台数を倍にするたびに約25%のコスト削減を実現できます。
電解槽では、このような大規模な事業を行うことで得られた経験、知識、知能を活用しています。水素プラントでの自社消費用だけでなく、SKグループなどのパートナーや顧客のためにもエレクトロライザーを建設する予定です。2023年、2024年には、他のどの企業よりも多くのエレクトロライザーを生産できるでしょう。その経験を生かして、ギガファクトリーを完全に稼働できるのです。
フランスではルノーとの提携、韓国ではSKとの提携に続いて2つ目の提携の可能性もあります。米国および北米でも同様です。これにより、電解槽のコストカーブを、今後3~4年で70%も下げられます。私たちは旧来のアプリケーション全てにおいて、価値ある提案をしていきたいと考えています。道路輸送用の燃料電池を導入し、電解槽を備え、水素燃料をディーゼル車と同等の価格にすることが最終目標です。
ESGへの関心や持続可能性の追求は、まさに私たちにとって更なる追い風となります。世界的に見ても、非常に優れた国々の後押しや補助金制度があります。欧州連合(EU)の多くの国々では、水素に関して非常に野心的な目標を掲げています。それが私たちのサポートになっていることは確かです。しかし、私たちそれを計画に盛り込んだり、依存したりすることはありません。
特に米国では、既に化石燃料から脱却する動きがあります。ロイヤル・ダッチ・シェル(RDS.B)、エクソンモービル(XOM)、シェブロン(CVX)の直近のIR資料等を見ると、大手企業が石油・ガスから撤退し、その収益をエネルギー転換のための資金に充てようとしていること、そして、その中で水素について言及されていることがわかります。このような持続可能性に向けた流れは弊社のビジネスにとって追い風になるでしょう。
次回は、プラグ・パワー社の財務状況や収益黒字化への道筋についてお届けします。
本インタビューは2021年6月24日に実施しました。