今回のセミナーでは、プラグ・パワー社でIR責任者を務めるロベルト・フリードランダー氏にインタビューを行ないました。フリードランダー氏は20年以上にわたる金融業界での経験があり、Seaport Global Securities、Brean Capital、Lazard Capital Markets、Cowen & Co.などに在籍していました。プラグ・パワー社(PLUG)の戦略や潜在的なビジネスチャンス、今後の見通しについてお話しいただきました。

倉庫用フォークリフトで活用広がる水素燃料電池

岡元 兵八郎
マネックス証券 チーフ・外国株コンサルタント兼マネックス・ユニバーシティ シニアフェロー

岡元:お忙しい中、インタビューのお時間をいただきありがとうございます。

フリードランダー氏:こちらこそ、ありがとうございます。

岡元:プラグ・パワー社は、燃料電池のトップメーカーとして知られています。御社の製品について簡単にご説明いただけますか。競合他社の製品との違いも教えてください。

フリードランダー氏:まずは簡単に弊社の始まりからご説明しましょう。弊社は1990年代後半に設立され、燃料電池製品の製造を開始しました。 そして2008年頃、現在のCEOであるアンディ・マーシュが入社しました。

ロベルト・フリードランダー プラグ・パワー社 IR責任者。20年以上にわたる金融業界での経験を持つ。また、35年以上におよぶ格闘技経験があり、現在は松濤館空手六段で、黒帯を保有。

それまで、燃料電池は一部の企業で開発されていましたが、燃料電池の市場がなく、用途も明確ではありませんでした。そこで私たちは燃料電池の市場を確立することが必要だと考え、アンディの指導の下で「そもそも、燃料電池は何を提供してくれるのか」、「どのようなメリットがあるのか」ということを追求していきました。

まず、水素を燃料としているので、当然ゼロカーボンであり、非常に安定したベースロード電源で、高い生産性をもたらします。ダウンタイムも少ないです。それは私たちが検討していたマテリアルハンドリング(マテハン)事業にとって、非常に理想的なソリューションでした。

大規模な倉庫や流通センター、フルフィルメントセンター(通常100万から150万平方フィート)では2~3交代制で、それぞれ200~300台のフォークリフトを稼働させています。 そのため、これらの場所で高い生産性と低ダウンタイムを実現するには高品質のフォークリフトが必要とされます。その中で、ゼロカーボンであることは魅力的ではありますが、補足的な価値にすぎません。

コスト削減が可能になるワケ

フリードランダー氏:マテハンのスイートスポットには50台以上のフォークリフトがあり、それらを1.5回以上のシフトで稼働しています。私たちは倉庫や配送センターにおける、鉛蓄電池式またはリチウムイオン電池式フォークリフトの理想的な解決策として、水素燃料を供給するネットワークを設置しました。

このような施設は通常バッテリー充電室が設置されていますが、それが必要なくなるというメリットがあります。このような充電施設には通常、フォークリフト1台につき3個のバッテリーが搭載されています。 そして、1回のシフト交換時に20分程度のダウンタイムがあります。

最後にシフトを終えたフォークリフトは、バッテリー充電室に向かいます。その充電室は2人ぐらいで管理されていますが、重い鉛蓄電池を外して別の電池を入れて、その間に冷却しなければならないものもあります。この3つのバッテリーのための充電室を排除することで、大規模なサプライチェーンに欠かせない商品やサービスのためのスペースを確保できるのです。

さらに、その部屋に24時間体制で人員を配置する必要がなくなり、その人員を倉庫内の他の場所に配置できるようになります。そうすると、顧客は弊社の製品に切り替えてから1年ほどで生産性が15〜20%向上し、約100万ドルの節約になります。

顧客がその価値を理解し、最初から私たちの燃料電池ソリューションを使用してくださっているケースもあります。例えば、アマゾン・ドットコム(AMZN)は弊社の非常に大きなかつ重要な顧客ですが、弊社製品の使用を2020年末の36~37拠点から、2021年は30拠点以上を追加しています。アマゾンの最新センターは初めから水素燃料電池を使用しています。

もちろんフォークリフト用の水素燃料電池を提供するだけでなく、その倉庫の配送センター内に水素インフラ、充電ステーションを設置し、その液体水素の提供を保証しています。 そしてサービスを提供する契約期間中は5年でも6年でも保証しています。これが私たちのコアマーケットであるマテハン事業です。

複数のセグメントにも手を広げていますが、それらについては少しずつ触れていきたいと思います。年率40%の複合成長率で成長しており、2024年以降も大幅な成長が見込まれています。

新たな需要が見込めるビジネスチャンス

岡元:大規模倉庫でのフォークリフト用の燃料電池のTAM(獲得可能な最大の市場規模)の大きさと、今後のビジネスチャンスを教えてください。

フリードランダー氏:マテハン市場だけでも 全世界で300億ドルの市場規模があると言われています。米国では100億ドル、そのうち半分の50億ドルは、先ほど述べた「スイートスポット」と呼ばれる、50台以上のフォークリフトが1.5回以上のシフトで稼働する大規模な流通センターや倉庫が、私たちのターゲットとしているところです。

弊社の製品「GenDrive」の最新モデルは第4世代ですが、進化はさらに続くでしょう。より小さな倉庫や配送センターへの導入を、実現可能で経済的なものにしようと努力しています。そうなると米国内の100億ドルの市場が、ターゲット範囲に入ってきます。

倉庫の配送センター内には、他のビジネスチャンスもあります。路上での輸送能力についてですが、インフラサイトごとにおよそ2~4台の充填ステーションが設置されています。また、顧客からは「水素燃料電池を輸送トラックに使用したい」との声をいただいています。倉庫では、既にフォークリフト用の燃料電池が導入されていますが、トラックや小型商用バン、あるいは PCSを搭載したトラックなどにサービスを提供するにはどうしたら良いでしょうか。

必要なのは、外部に別の充填スポットを設置することです。高圧の充填スポットを設置し、さらにタンクを追加することも考えられます。しかし、彼らには既に燃料供給ネットワークがありますので、道路輸送用にも水素燃料電池を使用できます。

これは弊社にとってのビジネスチャンスです。これらの倉庫、配送センターではディーゼル発電機によるバックアップを使用していますが、そのディーゼル発電機を交換するのも私たちにとってのチャンスです。水素燃料電池や、より大規模な燃料電池スタック、電気分解装置などを使って、ディーゼル発電機を置き換えるのは、私たちにとって非常に大きなビジネスチャンスです。

岡元:御社はフォークリフト全体ではなく、燃料電池部分のみを販売されているのですね。

フリードランダー氏:その通りです。フォークリフトのアプリケーションは、「GenDriveユニット」と呼ばれています。これは、主要なフォークリフト業者がプラグ・アンド・プレイ(差し込んで使う)だけで接続できるように設計された燃料電池です。例えば顧客が6~7台のフォークリフトを使用している場合、倉庫の配送センターでGenDriveユニットは、彼らが承認したそれぞれの製品にフィットし、シームレスに組み込まれます。そしてもちろん、そのフォークリフトには水素タンクが搭載されています。

また、私たちは非常にダイナミックでリアルタイムに作動するコンピュータシステムを追加し、卓越したデータを提供しています。このソフトウェアは、リアルタイムで効率性を示すレポートを作成できます。

岡元:米国で最も人気のあるフォークリフトは、どのメーカーが作っているのでしょうか。

フリードランダー氏:ハイスター社もその1つですが、他にもいくつかのフォークリフトのOEMメーカーがあります。もちろん中には幸運というか、副産物もあります。私たちの10年間の設備投資額は16億ドルです。膨大な経験と、マテハン倉庫の配送センター内にある顧客ベースを持っています。これまでに4万台を出荷し、6億時間を超える稼働実績があります。

繰り返しになりますが、これらは私たちが水素インフラを供給しているからこそできることです。これらのセンターに液体水素を供給しており、これまでに3,500万~3,600万回以上の水素充填を行ってきました。この10年間、私たちは豊富な経験を積んだおかけで、このセグメントにおいて非常に高いマーケットシェアを獲得しています。

ルノーやSKグループと提携を進めて更なる成長を狙う

岡元:水素燃料電池の技術を活用できる新しい分野についてお話しいただけますか。トラック輸送、鉄道、造船や貨物輸送、運送、航空業界での可能性はどうでしょうか。

フリードランダー氏:非常に大きな市場です。水素経済は2050年に10兆ドルから12兆ドルなるという数字も出ています。様々なセグメントの中に、対応可能な巨大市場があります。

特にオンロード・モビリティ(道路での輸送能力)に注目しています。私たちは、ルノーとパートナーシップ契約を結んでいます。先日、ルノーと「HYVIA」という合弁会社を設立したことを発表しました。ルノーは欧州の小型商用車市場でシェア2位であり、そこをターゲットにしています。年末までにはテスト車両を出したいと考えています。また、北米や米国ではリンデ社と共同でテスト車両を出す予定です。

年内にはBAEシステムズ社をはじめとする他の企業にも導入される可能性があります。2021年の年末から2022年にかけて、米国と欧州でテスト車両を用意する予定です。そして、2023年には両エリアで輸送用車両生産を目指しています。これは非常に大きなことです。

ルノーとの合弁会社は、欧州の小型商用バッテリー電気自動車市場の30%を狙っています。 2025年には2万台、最大で15万台の車両を生産する予定です。欧州では2030年に小型商用車の分野での販売が予定されています。大規模な定置型発電所でのエレクトロライザー(電解槽)の使用を考えると、これは弊社にとって大きなチャンスです。

韓国のSKグループとの提携を後押ししたのも、それが第一の理由です。同社は韓国の大手財閥として、副産物であるガス状水素を製造する製油所、化学工場、アルカリ工場を数多く保有しています。同社と連携して、製油所や化学工場の近くに数百メガワットのエレクトロライザーを設置し、ガス状の水素を回収できるようになります。

それを弊社のエレクトロライザーに通すことで、大規模な定置型発電を行えます。早ければ2022年、2023年にはかなりの収益が得られるでしょう。2024年の収益には5億ドルもの貢献が見込めると考えています。

>> >>特別インタビュー【2】プラグ・パワー(PLUG)の差別化戦略、高まるESG意識は追い風に

本インタビューは2021年6月24日に実施しました。