直近の価格動向

J-REIT価格は、株式市場とは異なり4月も順調に推移している。

東証REIT指数は4月2日以降、2,000ポイントを超えて推移し4月16日には年初来高値となる2,063ポイントまで上昇した。株式市場は、新型コロナウイルス変異株による感染拡大を悪材料として下落しているようだが、J-REIT価格には今のところ影響は出ていない。

その理由として、各国の金融緩和資金の振り向け先としてJ-REITが選ばれている可能性が高いことが挙げられる。

東京証券取引所の公表資料に拠ると、3月は外国人投資家が810億円を超える買越しを行った。買越し額は2020年9月の731億円以来、6ヶ月ぶりに500億円を超えた。株式市場は3月以降、上値が重くなっているため、短期的にはコロナ禍による業績への影響が少ないJ-REIT市場に資金が流入している状態になっている。

J-REIT価格が堅調な理由

J-REITは半年決算の銘柄が大半を占める。さらに業績予想に関しては、当期及び次期を開示する銘柄が大半となっている。

従って、4月に業績予想を開示している2月/8月決算期の銘柄(15銘柄)は2022年2月期までの業績予想を開示していることになる。3月に業績予想を開示した1月/7月期の銘柄(15銘柄)を含めると、半数近くの銘柄が2022年までの業績予想を開示していることになる。

銘柄によってポートフォリオの構成などは異なっているが、用途としては同様の傾向を示すため、2021年内の業績に関しては投資家が想定できる状態だ。

株式市場に上場する企業の業績予想開示が5月から始まる点と比較すると、J-REITはネガティブサプライズが少ないというメリットがある状態と言えるだろう。つまり一時的な投資資金の逃避先として、J-REITが選ばれる状況になっている。

さらに不動産賃貸市況が悪化し、賃貸収益の減少傾向が続いても不動産売却益で分配金を維持できる可能性が高くなっている点も投資家がJ-REITに資金を振り向けている要因と考えられる。例えば、3月に日本ビルファンド投資法人(証券コード8951、以下NBF)は東京都港区に所在する南青山のオフィスビル(以下、本物件)を316億円で売却することを公表している。

本物件の鑑定価格は203億円であり、買い手は鑑定価格に対し50%を超える高い価格で取得したことになる。NBFが売却に併せ開示している物件の収益利回りは1.7%であり、収益の向上余地があったとしても買い手は低い利回り(高い価格)で物件を取得したことになる。

高まる下落リスク

一方で、コロナ禍が長期化している影響は徐々にJ-REITの賃貸収益に悪影響を及ぼしている。さらに3度目の緊急事態宣言の内容によっては、2020年と同様に開示済の業績予想を下方修正する必要に迫られる銘柄が出る可能性もある。2020年3月のコロナショックの時は、株式市場が先行して下落していたという点は改めて認識しておく必要がありそうだ。

また、賃貸収益が3度目の緊急事態宣言によって大幅に落ち込む可能性もあり、分配金水準の維持を図るためには、不動産売却益の重要度が増している。前述の通り、不動産売買市況は好調であるが、賃貸契約とは異なり「潮目」が急激に変化する可能性がある。

筆者は、前回のコラムで記載したJ-REIT初の私募化TOBの動きも含め、リーマンショック前と似た様相とも言える状態になっていることを危惧している。東証REIT指数が2,000ポイントを回復していることも併せて考慮すると、当面新規のJ-REIT投資には慎重な姿勢で臨むべきと考えている。

なお今回記載予定であったインベスコ・オフィス・ジェイリート投資法人(証券コード3298、以下IOJ)のTOBに関しては、IOJ側が買収側に対しTOB期間の延長提案やTOB後の運用などの質問を送付している。この結果を踏まえて次回以降のコラムで記載する予定に変更したい。