アマゾン上場からの軌跡と奇跡

アマゾン創業者のジェフ・ベゾス氏が同社のCEOとして最後となる「株主への手紙」(※)を公開した。ベゾス氏は2021年第3四半期に退任し、エグゼクティブチェア(執行会長)に移行することを2月に表明している。今回の「株主への手紙」は1997年にアマゾンの株式を2株購入したメアリー&ラリー夫婦から届いた手紙の紹介で始まっている。

(※)「株主への手紙」全文は以下に掲載されています。

メアリー&ラリー夫婦は息子のライアンが12歳だった1997年、彼の誕生日にアマゾン株2株を購入した。その後、3度の分割を経て保有する株式は24株になった。彼らは息子のために保有し続けていたが、ライアンが今年、家を購入するため、その購入資金として株式の一部を売却する予定だと綴っている。

手紙に詳細な購入時期は明記されていないが、ビジネスインサイダーによると、もしこのカップルがIPO初日の終値でアマゾン株を購入していた場合、株式の価値は80,000ドル以上に拡大、これまでの上昇率は172,499%になるという。

手紙の中で「この2株は私たち家族に素晴らしい影響を与えました。私たちは皆、アマゾンが年々成長するのを楽しみに見ていました。そして、私たちは喜んでこの話を他の人たちにも伝えています」。そして最後に追伸として、「あの頃、10株買っておけばよかったわ!」と締めくくっている。

以下は、アマゾンの株価の推移を、分割を考慮せず示したものである。株価は大きく上昇し、メアリー&ラリー夫婦のようなアマゾン長者を他にも生み出しているであろう。もちろん、「メアリー&ラリー夫婦のように保有し続けていたら…」という話ではあるが。

【図表1】アマゾンの株価の推移(単位:ドル)(1997年~2020年)
出所:筆者作成
【図表2】アマゾンの業績の推移
出所:筆者作成
【図表3】アマゾン(日足)と売買シグナル
出所:カスタムチャート
【図表4】アマゾン(週足)と売買シグナル
出所:カスタムチャート

アマゾンがナスダックに上場したのは1997年5月14日のこと。インターネットの黎明期とともにスタートしたアマゾンを、ベゾス氏は比類なき巨大企業に育て上げてきた。

新CEOの就任で利益率の高いAWSの重要性はさらに高まる?

2021年2月9日付けコラムでも述べた通り、ベゾス氏の後任には、Amazon Web Services(AWS)のCEOでベゾス氏の参謀と言われているアンディ・ジャシー氏が務めることになっている。ジャシー氏はAWSを450億ドルのビジネスに成長させた立役者である。アマゾンは北米においてeコマースで支配的な地位を獲得しているが、実際に高い収益を生み出しているのはAWSである。

アマゾンは今や世界的な規模のサーバーとコンピュータネットワークを抱え、スケールメリットを存分に発揮し、クラウド市場において揺るぎない地位を築いている。AWSはアマゾンを小売業ではなく、ハイテク企業に変革させたと言えるであろう。

ジャシー氏のCEO就任によって、AWSはアマゾンにとってさらに重要になる可能性がある。ベゾス氏は以前、AWSの収益がeコマースビジネスの収益を超える可能性があると数年前に予測している。なお、2020年第4四半期末の時点で、アマゾン全体の売上が3,860億ドルに対してAWSの売上は453億ドルと11%であるのに対して、営業利益ベースで見た場合、6割近くを生み出しているのがAWS事業である。

【図表5】AWSがアマゾンの業績に占める割合
出所:筆者作成

アマゾンの独自の強みは2つあると考えている。1つは上記のように高い利益率を誇るAWSサービスである。そしてもう1つは潤沢なキャッシュフローだ。

アマゾンの特徴はコスト・ゼロの資金を運用して利益につなげるビジネスモデルである。企業の資金効率を示すキャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)という指標がある。CCCはモノを仕入れてから販売に伴う現金回収までの期間(日数)を示しており、この日数が小さければ小さいほど現金回収のサイクルが短いということになる。

成毛眞氏の「amazon 世界最先端の戦略がわかる」(ダイヤモンド社)によると、一般的な小売業界のCCCはプラス10〜20日程度、つまり商品を仕入れて販売し、代金を回収するまでに約10〜20日程度要するとのことだ。

一方、モーニングスター社のデータによると、2016年12月のアマゾンのCCCはマイナス21.56、2017年12月はマイナス21.06、2018年12月はマイナス18.33と、商品が売れる約20日前から手元に現金が入っており、資金余剰の状態にある。この潤沢なキャッシュフローを活用し、次の成長に向けた投資を積極的に行なっていることが強みにつながっている。

この2つの強みについて詳しくは、2019年6月5日付けコラムを参照されたい。

アマゾンの哲学、「Day 1」思考とは?

ベゾス氏の最後となる「株主への手紙」では、アマゾンがこれまで生み出してきた価値や従業員の働き方、また気候変動などについて幅広く触れられている。ベゾス氏は1997年に最初に株主に向けて発信した「株主への手紙」を毎回添付している。常に原点である1997年に立ち返り、アマゾンにとっての重要な哲学である「Day 1」を忘れないためである。

企業には創業期、成長期、成熟期といくつかの段階がある。企業がある程度成功し、規模が大きくなると成熟企業となる。すると一般的には成長が止まり、安定した企業として振る舞うようになる。ベゾス氏はそのように企業が成熟した状態に入ることは「停滞」であるとし、それを「Day 2」としている。

今回の「株主への手紙」では次のように記されている。

1997年にアマゾンが株主に宛てた最初の手紙の中で、私は、インターネットの力を解き放つことで顧客サービスの意味を再構築する「永続的なフランチャイズ」を作りたいと述べた。社員数が158人だったアマゾンが614人になり、顧客のアカウント数が150万を突破したことを紹介した。1株あたり1.5ドルの分割調整後の株価で上場したばかりだった。私はそれを「Day 1」と書いた。

それ以来、私たちは長い道のりを歩んできた。そして、お客様にサービスを提供し、喜んでもらうために、今まで以上に努力している。昨年、当社は50万人の従業員を採用し、現在では世界中で130万人を直接雇用している。全世界のプライム会員数は2億人を超えている。(中略)アマゾン・ウェブ・サービスは何百万人ものお客様にサービスを提供している。1997年に我々はプライム、マーケットプレイス、アレクサ、AWSを生み出していなかった。それらはアイデアですらなく、事前に決まっていたものでもなかった。それぞれに大きなリスクを負い、汗と工夫を重ねてきた。

そして、ビジネスで成功するには、新たな創造を続けていくことが大切だとしている。

ビジネスでも人生でも、成功したいなら、消費するよりも創造することが大切だ。あなたの目標は、あなたに関わるすべての人に価値を創造することだ。たとえ表面的には成功しているように見えても、関わる人たちに価値を生み出さないビジネスは、この世の中では望まれない。衰退の道を歩むことになる。

イギリスの進化生物学者のリチャード・ドーキンス氏の著書からの一節を引用しつつ、自分の個性を維持し、特別な存在にしているものを守るためには継続的にエネルギーを注ぐことが必要だと述べている。

私たちは皆、独自性、つまりオリジナリティに価値があることを知っている。私たちは皆、「自分らしくあれ」と教えられている。私が本当にお願いしたいのは、その個性を維持するためにどれだけのエネルギーが必要か、それを受け入れ、現実的に考えることだ。世界はあなたが典型的なものになってしまうことを望んでいる-そのために様々な方法であなたを引っ張る。だが、そうさせてはいけない。

個性を発揮するためには、その分、犠牲を払わないといけないが、それだけの価値がある。「自分らしくあれ」のおとぎ話バージョンは、自分の個性を輝かせればすぐにすべての痛みが止まるというものだ。このバージョンは誤解を招く恐れがある。自分らしくあることには価値があるが、決して簡単で自由なものではない。絶えずエネルギーを注ぐ必要があるのだ。

世界は常にアマゾンをそこら辺にある典型的なものにしようとしている。そして周りにあるものと同化させてしまう。そうならないようにするには継続的な努力が必要だ。私たちはそれ以上のものになれるし、ならなければならない。

そして最後は次のように締めくくっている。

親切であれ、自分らしくあれ、消費する以上に何かを生み出せ、そして決して、決して、決して、世間があなたを周囲と同化させようとする力に負けてはならない。いつも「Day 1」(今日が始まりの日)という気持ちでいてほしい。

ベゾス氏がこのタイミングでCEOを退任し、新たなスタートを切るのも「Day 1」を忘れていないからであろう。

石原順の注目5銘柄

GAFAMの株価を確認しておこう。

アマゾン(AMZN)
出所:トレードステーション
アップル(AAPL)
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グーグル(GOOGL)
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マイクロソフト(MSFT)
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フェイスブック(FB)
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