今回はファイナンシャル・プランナーの岩城みずほさんに、50代に考えておきたいお金のことについて解説いただきます。50代になると、定年までの時間を意識し始めます。 一般的に、生涯賃金は、55歳をピークとして、その後段階的に下がります。大企業ですと、約4割の会社が役職定年を導入していて、年収は2割ほどカットされるようです。その後、60歳定年で、再雇用で働くと大きく年収がへるケースが多いようです。厚生労働省の調査によりますと(2015年)、時間あたり基本給が定年退職時の50%未満が3割、50~80未満が5割ということです。そして、65歳にリタイアメントし、年金生活に入ります。

会社員の夫と専業主婦の妻というモデル世帯の年金額は、月額約22万1500円(2017年度)です。自営業者の場合、月額約6万5000円ずつ夫婦で約13万円ということになります。収入が減るのに、住宅ローンの支払いが現役時代のままであったり、子供の学費がまだかかっていたりすると、生活は苦しくなります。50歳代のなるべく早いうちに考えておくべきことを考えてみましょう。

まずは、今後必要な資金を差し引いて「必要貯蓄率」を求めて現実を知る

会社員のA介さんは(50)と妻で会社員のB美さん(47歳)ご夫婦は、B美さんが39歳の時に高齢出産をしたので、長女はまだ8歳です。高齢出産は特に珍しいことではないのですが、子供が大学を卒業する前に定年を迎えてしまうということを考え、資金計画を立てる必要があります。

早速、「人生設計の基本公式」で「必要貯貯蓄率」を求めてみましょう。

A介さんの家計の「今後の手取り年収」は800万円です。現在、貯蓄額は2000万円ですが、長女の教育費を1000万として差し引き、「現在貯蓄額」は1000万円とします。「年金額」300万円、「老後生活比率」0.6倍、「現役年数」15年、「老後年数」30年、「必要貯蓄率」は、「16.67%」です。年間約133万3円、毎月約11万1000円貯蓄していけば、老後は、今の生活の6割の月額約33万3000円で安心して暮らすことができます。

A介さんは、毎月の貯蓄額は、概ね達成できているので、60歳までに、「現在貯蓄額」は、約1300万円増えることになります。一時退職金見込み額を夫婦で1800万円も加算します(「現在資産額」は4100万円)。60歳定年退職後再雇用で働くこととし、今後の「手取り年収」を300万円、「老後生活比率」1.2倍、「現役年数」5年、「老後年数」35年で、60歳時点の「必要貯蓄率」を計算し直すと、「必要貯蓄率」はマイナスです。老後は、月額約35万6000円で安心して暮らすことができます。

住宅ローンを完済したら老後の生活費がどうなるか考える

このように、きちんと必要貯蓄率を計算して守っていけば、老後の生活は心配ありません。計算をしないで、現実を見ないことこそが、必要以上の不安を引き起こし、例えば、勧められるまま、よくわからないままに、買うべきではない金融商品を買うなどして、お金の問題に関する大きな失敗の原因を作ってしまうのです。

さて、必要貯蓄率がマイナスだったA介さんは、60歳時点で、住宅ローンの残金1500万円を繰り上げ返済することにします。「現在資産額」は2600万円となりますが、「必要貯蓄率」はマイナスのままで、老後生活費は、月額約32万円です。「40代前半のあなたが今すべきこと」でお伝えしたように、持ち家の年金効果を加味することもできます。

しかし、仮に、A介さんに貯蓄がなく、退職一時金の1800万円だけでここから1500万円を繰り上げ返済にあててしまうと、貯蓄は300万円という心細い状況になります。必要貯蓄率も「12.2%」となりますので、減った年収から月々3万円ほどの貯蓄をしなければなりません(現役時代の生活費は22万円ほどになってしまう)。それでようやく老後生活費を、26万3000円ほど確保できる計算です。

50歳代の早いうちに、住宅ローンをどのタイミング返すのか、完済したら老後の生活費がどうなるかはシミュレーションして考える必要があります。

50代は4つ目のステージの準備期間に

リタイアメント後の生活をイメージし、資金的に難しいと感じたら、あるいは、もう少し余裕が欲しいと思えば、なるべく長く働き続けることを考えるべきです。50代から準備をすれば、大きく稼げなくても、趣味と実益を兼ねて、収入が増えれば、その分、貯蓄を取り崩さなくてもすみます。すなわち貯蓄を長く持たせることができるのです。

そういう意味で、50代は、4つ目のステージに向けた準備期間とも言えるのです。

『LIFE SHIFT』(東洋経済新報社)が随分読まれたようですが、この本では、これまで「若年者・学生」「成人・勤労者」「退職した高齢者」という3つのステージを前提に考えられていた生活設計から、今後はマルチステーズの人生になる。生涯にわたる学びが必要だということを提唱しています。

リタイアメント後30年も続く人生をどう生きるべきか、ぜひ、考えてみたいものです。