今回は、ファイナンシャルプランナーの岩城みずほさんに、40代の資産形成、教育費、住宅ローンの支払いをどうすすめていくのがよいかをうかがいます。具体例をみていきましょう。 「5年前に住宅購入をした46歳の会社員Bさんは、13歳のお嬢さんがいらっしゃいます。この春から私立の中学に通い始めました。妻(45歳)は、10年間会社員でしたが、出産後に退職しました。ずっと専業主婦でしたが、最近、夫の扶養内でパートを始め、年収は約100万円です。今後、大学の教育費のことを考えると、家計を見直す必要を感じているそうです。」

教育資金は「現在資産額」から差し引き計画する

まずは、Bさんの家計の必要貯蓄率を見てみましょう。

Bさんの「今後の平均手取り年収」は700万円です。奥さんのパート収入は、生活費とせず、貯蓄しています。「年金額」は225万円、「老後生活比率」0.7、「現役年数」19年、「老後年数」30年、「現在資産額」は、6年前の住宅購入時に800万円を頭金としたので、現在は200万円です。退職一時金の見込額1000万円を加算して1200万円として計算すると、「必要貯蓄率」は「24.11%」です。年間約168万8000円、毎月約14万円貯蓄していけば、老後は、今の生活の7割、月額約31万円で暮らすことができます。

しかし、 今後、お嬢さんの教育費が必要です。お嬢さんは、私立大の理系を希望しているそうで、平均で約800万円必要だと考えられます。高校までの費用は、月々の生活費から賄えるのが理想ですが、住宅ローンを返済しながら、塾の費用もかかるということになると、少々難しいかもしれません。そこで、教育費は、受験費用を含め、多めに1000万円として差し引き、「現在資産額」は200万円とします。すると、「必要貯蓄率」は「27.68%」となります。毎月の必要貯蓄額は、16万1000円です。

(必要貯蓄率はこちらで計算することができます。)

さて、Bさんには、「40代前半のあなたが今すべきこと」でお伝えした「住宅購入の年金効果」を考えるのが難しい状況です。なぜなら、住宅ローンを35年間という長期で借りているため、返済が終わるのが75歳です。「住宅購入の年金効果」は、リタイアメントまでに完済の目処がついている場合に想定できるメリットなのです。

Bさんは、まさに「住宅ローンの負担」「教育費の負担」「老後の準備」の3つが重なる厳しい状況だと言えるでしょう。

子供の教育費を出しながら、老後も困らないように貯蓄をすることが重要

まずは、「老後の生活費率」が減らせないかを考えてみます。Bさんの老後の生活費の想定は、月額約29万5000円です。生命保険文化センターの「平成28年度生活保障に関する調査」によりますと、老後を夫婦2人で暮らしていく上で、必要と考えられている最低日常生活費は月額22万円ということですから、平均的に考えると、余裕がある方ですが、ここから住宅ローンを支払う必要があるので、切り詰めるのは難しいでしょう。もし、比較的余裕がある人ならならば、「老後の生活費率」を1割、2割引き下げることも可能です。

そこで、パートをしている妻の働き方について考えてみます。現在は、夫の扶養に収まるように年収を103万円以下に抑えながら働いていますが、2018年からは配偶者控除の年収要件の上限が引き上げられるので、もう少し年収を上げることを考えてみましょう。世帯主の合計所得が900万円以下の場合、配偶者の年収が150万円以下なら38万円の「配偶者控除」が受けられます(世帯主の合計所得が950万円以下なら配偶者控除は26万円、合計所得が1000万円以下なら配偶者控除は13万円)。

また、「配偶者特別控除」も変更されました。いわゆる年収の壁は、これまでの「103万円と141万円の壁」から「150万円と201万円の壁」になります。

さて、妻の年収が130万円以上(一部の人は106万円以上)になるとどうでしょう。妻には、所得税、住民税に加え、社会保険料がかかるようになります。配偶者特別控除の150万円の壁の前には、所得税の103万円の壁と、社会保険の130万円(106万円)の壁があります。つまり、手取りが減ってしまうことになります。しかし、これだけで損だと思うのは間違いです。

1つには、妻が自分で社会保険に入ることで、将来もらえる年金が増えます。厚生年金に加入することになるので、将来、国民年金に上乗せして年金を受け取ることができるのです。例えば、妻の年収200万円とした場合、月額約24,379円(会社と折半のため)の保険料を20年間払えば、年金は、年間約22万円上乗せされます。年金の受給額は亡くなるまで変わりませんから、特に寿命の長い女性にとっては心強い限りです。また、控除額が減るため、夫の手取りが少し減りますが、世帯で見ると手取り額も増えています。

「人生設計の基本公式」の「年金額」に約22万円を加算し、更に、手取り年収約200万円を20年間、4000万円を「現在貯蓄額」加算してみましょう。「必要貯蓄率」は「11.04%」なりました。老後は、今の生活の7割、月額約36万3000円で暮らすことができます。

住宅ローンの繰上げ返済は、教育費負担が終わってから

Bさんの家計は、妻の収入分を全額貯蓄し、さらに毎月約6万4000円貯蓄(現役時代の生活費は約51万9000円)をすることで、先の3つの大きな資金を作ることができます。しかし、さらに合理的に安心に老後を迎えるために、今後の家計経済のポイントは3つあります。

まず、1つ目は、住宅ローンの繰上げ返済は、教育費負担が終わってからにすることです。現在、住宅ローン控除もありますし、教育費は必要な時期と金額が大凡決まっているので、とにかく今は、貯蓄を増やすことです。

2つ目は、妻の収入を増やすことです。200万円の壁を越えれば、収入の増加とともに世帯の手取り収入は大幅に増えることになります。支出を現状維持すれば、貯蓄のスピードは早くなります。

3つ目は、お嬢さんの教育費負担が終われば、住宅ローンを繰り上げ返済し、65歳のリタイアメントまでに完済を目指すことです。お嬢さんが社会人になるのは、Bさんが55歳の時です。役職定年で収入が減る人も多いですが、65歳完済の目処が立てば、先の「住宅購入の年金効果」も効きますし、老後生活費率を下げることも可能です。

「必要貯蓄率」の計算を、毎年、または「現在資産額」の変化に合わせて行い、実行することで、不安のない老後を送ることができます。