短期投資家としての一面を持つバフェット氏、2020年第4四半期にはどんな投資を行なったのか?
2020年11月24日付コラムで取り上げたウォーレン・バフェット氏率いる投資会社バークシャー・ハサウェイによるコンフィデンシャルな投資の中身が明らかになった。あえて“コンフィデンシャル(機密)”にしていたこと、推計された投資金額などから、バフェット氏がテスラ株(TSLA)を買っているのではないかとの憶測もあった。
しかし、今回開示された株式保有状況を示すフォーム13Fによると、バークシャーが約2700億ドルの株式を保有していること、また新たにベライゾン・コミュニケーションズ(VZ)、シェブロン(CVX)、保険ブローカーのマーシュ・アンド・マクレナン(MMC)、E.W.スクリップス(SSP)の4社を取得していたことが分かった。(※E.W.スクリップス(SSP)のみ1月に追加取得)
ベライゾンへの投資額は約86億ドル、シェブロンは約41億ドル、そしてマーシュ・アンド・マクレナンについては5億ドルほどの投資を行なった。ベライゾンやシェブロンの配当利回りの高さが投資の背景にあるのでは…との指摘もある。
しかし、ベライゾンについては成長が期待できる5G関連銘柄の1つであること、また、シェブロンに関しては世界的な景気回復が期待される中、エネルギー株が復調の兆しを見せているところに、テキサスなどを襲った大寒波の影響もあり、原油価格が上昇している恩恵を受けることなど、滑り出しは好調である。
一方、今回の開示において、その他注目すべき点が2点ある。1つはアップル株(AAPL)の保有株数を9億4750万株から8億8710万株に6.4%削減したことだ。そしてもう1つは2020年8月に購入したバリック・ゴールド株(GOLD)を全て売却したことであろう。
ご承じの通り、バフェット氏はかねてより収益を生まない資産であるゴールドへの投資に否定的だったため、当時、バークシャーがバリック・ゴールド株に投資したことは投資家の間では驚きを持って受け止められた。
モトリーフール社の記事「Here Are All 10 Stocks Warren Buffett Has Been Buying(バフェットが買い続けている全ての10銘柄)」を参考に、新たにポートフォリオに追加された銘柄、保有を増やしたもの、保有を減らしたもの、完全に売却したものを以下の通りまとめた。
新たにバークシャーのポートフォリオに追加された4銘柄
COMPANY (SYMBOL) |
SHARES BOUGHT |
MARKET VALUE |
ベライゾン・コミュニケーションズ(VZ) |
146,716,496 |
$8.62 billion |
シェブロン(CVX) |
48,498,965 |
$4.10 billion |
マーシュ・アンド・マクレナン(MMC) |
4,267,825 |
$499 million |
E.W.スクリップス(SSP) |
23,076,923 |
$364 million |
出所:モトリーフールの記事「Here Are All 10 Stocks Warren Buffett Has Been Buying」を参考に筆者作成
バークシャーが追加購入した6銘柄
COMPANY (SYMBOL) |
SHARES BOUGHT |
MARKET VALUE OF NEW SHARES |
アッヴィ(ABBV) |
4,268,766 |
$455 million |
メルク(MRK) |
6,294,333 |
$477 million |
ブリストル・マイヤーズ・スクイブ(BMY) |
3,364,822 |
$204 million |
クローガー(KR) |
8,555,578 |
$291 million |
リストレーション・ハードウェア・ホールディングス(RH) |
24,200 |
$11 million |
TモバイルUS(TMUS) |
2,824,844 |
$343 million |
出所:モトリーフールの記事「Here Are All 10 Stocks Warren Buffett Has Been Buying」を参考に筆者作成
バークシャーがポジションを減らした6銘柄
COMPANY (SYMBOL) |
SHARES SOLD |
MARKET VALUE OF SHARES SOLD |
アップル(AAPL) |
57,160,000 |
$7.44 billion |
U.S.バンコープ(USB) |
823,834 |
$40 million |
ゼネラル・モーターズ(GM) |
7,500,000 |
$397 million |
ウェルズ・ファーゴ(WFC) |
74,956,573 |
$2.76 billion |
サンコー・エナジー(SU) |
5,352,318 |
$100 million |
リバティ・ラテンアメリカ(LILAK) |
146,177 |
$1.7 million |
出所:モトリーフールの記事「Here Are All 10 Stocks Warren Buffett Has Been Buying」を参考に筆者作成
バークシャーが完全に売却した5銘柄
COMPANY (SYMBOL) |
SHARES SOLD |
MARKET VALUE OF SHARES SOLD |
PNCファイナンシャル・サービシズ・グループ(PNC) |
1,919,827 |
$321 million |
JPモルガン・チェース・アンド・カンパニー(JPM) |
967,267 |
$140 million |
M&Tバンク(MTB) |
2,919,613 |
$431 million |
バリック・ゴールド(GOLD) |
12,000,000 |
$250 million |
ファイザー(PFE) |
3,912,216 |
$137 million |
出所:モトリーフールの記事「Here Are All 10 Stocks Warren Buffett Has Been Buying」を参考に筆者作成
バークシャーはこのところ銀行株の多くを手放しており、第4四半期も同様の入れ替えを行なった。実際、バークシャーが完全に売却した5銘柄のうち3つはJPモルガン・チェースを含む銀行株であった。バフェットは気に入った銘柄は永遠に保有すると言われているが、今回も銘柄の組み入れや入れ替えを適宜行うなどしており、短期投資家としてのバフェットの一面が垣間見られる結果となった。
バークシャーのポートフォリオが盤石な理由
以前から出遅れが指摘されてきた日本株も、日経平均株価が約30年半ぶりとなる3万円台を回復するなど復調の兆しが著しい。これを背景にバークシャーが2020年行なった日本の商社株への投資も好調で、投資から約半年で株価は23%上昇し、14億ドルの利益を上げたと報じられている。
「オマハの賢人」とも呼ばれるバフェット氏率いるバークシャーが所有するのは伊藤忠商事、丸紅、三菱商事、三井物産、住友商事の株式で、以降、この5銘柄は平均23%の上昇を記録し、バークシャーの持つ株式の価値は6ヶ月足らずで約64億ドル(約6780億円)から約77億ドル(約8170億円)近くまで上昇した。
2020年末時点で2700億ドル、日本円にして30兆円近いバークシャーのポートフォリオからすれば一部に過ぎないが、世界的な株高を背景にバークシャーの巨大な投資ポジションはさらに膨らみ続けている。一方で、前述のように適宜組み入れ銘柄の組み替えを行なってきたバークシャーにも失敗がないわけではない。いくつかの投資において大きな損失も出しつつ、カットしていることもある。
例えば、航空会社の株式を全て売却したのはその1つの例であろう。2020年5月、デルタ航空(DAL)、アメリカン航空グループ(AAL)、サウスウエスト航空(LUV)、ユナイテッド航空ホールディングス(UAL)を売却した。業績の悪化によって、それまで航空各社が積極的に行なっていた自社株買いを中断せざるを得なくなるとの判断だったのだろう。当時、航空会社の株式は新型コロナウィルス感染拡大の影響を受けて、年初から5割から7割下落していた。
バフェットは日頃「中途半端なポジションは取らない。我々が企業に接するときは中途半端な態度はとらない」としており、航空会社のポジションも一気にカットした。現在、株価は依然として低迷しているものの、サウスウエスト航空に関してはほぼ一年前の株価を取り戻しつつあるなど、復調の兆しが見えている。
また、バークシャーは、今回、JPモルガンチェース(JPM)の株式を完全に手放したが、これ以前にもゴールドマン・サックス(GS)を売却するなど、銀行株からも足を洗っている。銀行株の株価も航空株同様に復調しつつあり、ゴールドマン・サックス(GS)については高値を更新する動きとなっている。
しかしいくつかの損失を出しながらも、バークシャーのポートフォリオはびくともしていない。結局のところ、こうした損失はある1つの銘柄への投資によって埋め合されているだけでなく、大きなお釣りをもたらしている。その銘柄とは、アップル株(AAPL)である。
2020年初め、バークシャーはアップル株を10億株ほど保有していた。当時の株価から算出される時価は約720億ドルだった。以来、バークシャーは保有するアップル株を一部落としつつ、2020年9月末時点では9億4750万株を保有、時価にして1093億ドル、さらに2020年12月末時点で削減し、8億8710万株の保有となった。しかし株価の上昇に伴い、時価は1177億ドルと9月末に比べて増えている。さらに言うと年初からの増加額は457億ドルと、航空会社株に投資した価値全体を大きく上回る。
バークシャー全体の保有額に対するアップルの割合はほぼ半分を占めており、アップルの一本足打法になっているのは懸念されるが、株高を背景におそらく、2月22日(日本時間)に発表される第4四半期の決算も好調であろう。決算発表ではバークシャーが保有するキャッシュの推移も注目される。またアップデートして今後、お伝えしていきたい。
※マネックス証券では、バークシャー・ハサウェイ(NYSE: BRK.A)の取扱いはしておりません。
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