みなさん、こんにちは。懸念していた通り、足踏み状態だった日経平均株価は1月下旬から一気に勢いを失くし、大幅な調整を余儀なくされました。
これがバブル崩壊につながるのか、本格的な調整局面に入るのかどうかの判断は、これからの推移を見極める必要があるでしょう。いずれにせよ、急騰する中で「イケイケムード」に冷水を浴びせたことは確かでしょう。
当面は強気一辺倒というスタンスが取り難い状況になるものと予想します。ただし、ある程度の調整局面があった方が相場としては健全とも言えます。ここはしっかりと今後の投資戦略を見つめ直す好機と捉えたいところです。
さて、今回採り上げるテーマはカーボンニュートラル実現に向けた自動車産業の動きについてです。カーボンニュートラルについてまとめた以前のコラムの内容を踏まえて、今回はこのような流れが自動車産業にどのような変化をもたらすのか、というところをお伝えしたいと思います。
カーボンニュートラル実現へのカギを握る自動車産業
以前のコラムでは、カーボンニュートラルの実現には技術的に大きな課題があることをお伝えしました。
また、2050年までに実現するという政治的目標は世界的に共有されつつあるものの、国家や経済、地球温暖化に対する認識などの違いから共同歩調にも脆さが伴うこと、株式市場ではこのような社会的ニーズに裏打ちされた大きな流れは長く注目されるテーマになるだろうということも指摘しました。
そして最後は「カーボンニュートラル実現への道のりは決して平坦ではありません。しかし、実現した暁には、圧倒的に先行する技術力と世論の支持が企業価値を高めることになるでしょう」と締めくくりました。
そのような中で、自動車産業はまさにカーボンニュートラル実現へのカギを握る産業と言えるでしょう。
実際、世界の二酸化炭素(CO2)排出量のおよそ23%が交通輸送分野由来とされており(最大は発電由来で42%)、この交通輸送由来のうち7~8割が自動車関連と分析されています。自動車の排気ガスを抑制する重要性を分かっていただけるかと思います。
このような認識を背景に、既に欧州の幾つかの国では2030年前後にガソリン車の新車販売を禁止するという法案が可決されています。CO2を排出するガソリン車の新車供給をなくすことで、カーボンニュートラルを実現しようという動きが現実のものとなってきているのです。
異業種からの参入相次ぐEV
まさに自動車産業はカーボンニュートラルを推進する中で、大きくその業容の変化が求められていると言えるでしょう。
ガソリン車の新車供給停止とはすなわち、電気自動車(EV)がこれに取って代わるとも理解できます。自動車メーカー各社は現在、一斉にEVの開発・販売を加速させていますが、EVシフトを進める最大の理由はここにあるのです。製品ラインナップが従来型のガソリン車のみであれば、2030年以降、売上が急激に落ち込むシナリオが見えてきたのですから。
しかし、モーターを動力とするEVは、制御の難しい内燃機関をエンジンとする従来のガソリン車とは設計思想が大きく異なります。故に、誤解を恐れずに言えば、新規参入のハードルはガソリン車よりも低くなる可能性が高いのです。
「EVの雄」とも言われるテスラ社はその典型例でしょうし、GAFAのようなIT企業がEVに参入(検討)するといった流れも確実に増えてきています。迎え撃つ既存の自動車メーカーは、ガソリン車からEVへと自身の業態転換を図りつつ、新規参入社との競合にも対応しなければならないという厳しい状況に直面しています。
このような構造は既に数年前から指摘されていましたが、カーボンニュートラルへの流れが世界的なコンセンサスとなるにつれ、自動車産業は「前門の虎後門の狼」という状況になり、より深刻さが増してきたと言えます。
EV化だけではカーボンニュートラル実現は困難か
そのような中、2020年12月に出された日本自動車工業会の豊田章男会長(トヨタ自動車社長)のコメントに注目が集まりました。
豊田氏はカーボンニュートラルの推進に全面的に協力する姿勢を示す一方で、単なるEV化だけではカーボンニュートラルの実現は困難であると指摘したのです。
EVであれば、確かに走行中のCO2排出量は抑制できるかもしれません。しかし、充電に要する電力量を確保するためには、結局のところ、発電量を増加させる必要があります。それは火力発電などを通じてむしろCO2排出量を増加させてしまうのではないか、という指摘です。
豊田氏は具体的な数字を挙げ、少なくともEV化で全てが解決するような単純な見方は危険であり、EV化以外にもカーボンニュートラルを目指す方策があるのではないかと主張しました。その内容はとても説得力があるものであったように筆者は受け止めました。
現状、自動車メーカー各社がEVの開発を進めていることは確かです。しかし、豊田氏の分析に則れば、今後はハイブリッド車や超小型EVなど、ガソリンの活用や自動車の使い方改革を通じて、カーボンニュートラル実現への新たな道を模索する自動車メーカーも出てくるのではないかと考えられます。
目指すべきゴールは、EV化ではなく、カーボンニュートラルの実現なのですから。
EV化こそが最善の方法という考え方を覆す企業が出てくれば、新時代において圧倒的なビジネスチャンスを獲得することも可能かもしれません。自動車メーカー各社に残された時間は決して長くはありません。EV化が新世代の自動車を席巻するのでしょうか、それとも違う道が開かれるのでしょうか。
自動車メーカー各社がカーボンニュートラル実現に向けてどのようなアプローチを指向するのかを見極めることは、カーボンニュートラル下における銘柄選択の重要な要素にもなるだろうと考えられます。