なぜ電動キックボードのシェアリングサービスが注目されているのか

電動モーターを搭載することで、人力に頼らず、簡単な操作で快適な走行を可能にする電動マイクロモビリティは、ラストワンマイル問題解消のための移動手段として期待されています。

その中でも電動キックボードのシェアリングサービスは、2017年に米国でサービスが始まって以降、世界的に市場が拡大しています。その電動キックボードによるシェアリングサービスの全世界の市場規模は、2025年には400億ドルから500億ドルに達すると予測(※1)されています。

日本においても電動キックボードのシェアリングサービス化の実現に向けて、2020年から国内の複数都市で実証実験が開始されるなど、導入に向けた検証が進められています。しかし、実現に際して日本特有の課題があることから、実現にはまだ時間がかかる見込みです。

今回は国内における電動キックボードのシェアリングサービス化の実現に向けて求められることを、すでにサービス化に成功した国との違いを比較しながら確認していきます。

海外で普及の進む電動キックボードのシェアリングサービスモデルは、街中に設置された専用ポートに停められている利用可能な電動キックボードを、専用のスマートフォンアプリを介して解錠し、返却可能なポートに戻すまでの利用時間を分単位でキャッシュレス決済するというものが一般的です。

この電動キックボードのシェアリングと似たサービスモデルであるシェアサイクルサービスが、コロナ禍における密集状態の回避手段として注目されており、利用が増加しているようです。

実際、2020年7月にau損害保険が、週に1回以上は通勤に自転車を利用しており、勤務先から自転車通勤を認められている都内在住の会社員男女500人を対象に実施したアンケート調査(※2)によると、約4人に1人が新型コロナウイルスの感染拡大以降に自転車通勤を開始したとの結果が出ています。

さらに、自転車通勤を開始した理由の約96%は「公共交通機関の利用を避けるため」となっており、やはり感染拡大を受けて、自転車の利用者は増加しているようです。

また、2020年8月24日付けの日本経済新聞の記事では、新型コロナウイルスが感染拡大した2020年4月以降、都市部を中心に展開する「ドコモ・バイクシェア」の新規登録者数が増加しており、緊急事態宣言解除後の同年6月には、全国ベースでの利用回数が過去最高水準に達したと報じられています。(※3)

では、シェアサイクルサービスの利用が増加している中、シェアサイクルに類するサービスモデルを有する電動キックボードのシェアリングサービスが今後導入された場合、新たな移動手段として受け入れられるのでしょうか。

海外における電動キックボードのシェアリングサービスの普及状況

すでに海外では電動キックボードのシェアリングサービスが導入(※4)され、ドイツなどでは電動キックボード利用者が街中を移動する光景が、日常的になりつつあります。これらの国で普及が進む要因は大きく2つ考えられます。

第1の要因は電動キックボードが走行するためのインフラ整備が進んでいる(※5)ことです。多くの国は電動キックボードを自転車と同じように取り扱っています。よって、自転車専用レーンを元々多く設置している国では、電動キックボードを自転車専用レーンにおいても走行できるようにすることで、普及が進んだと考えられます。

第2の要因は電動キックボードが手軽に利用できるよう、各国政府が規制の整備を進めていることです(図表参照)。サービス開始後に生じた問題解決のために規制を部分的に強化した国があるものの、走行可能な道路区分やヘルメットの着用義務などを利用しやすいかたちで規制することにより、普及を推進してきました。

また、各国政府としては、都市部で深刻化する渋滞解消への期待や、CO2削減に向けた自動車の利用抑制政策を補完するためにも、電動キックボードのシェアリングサービスの普及を推進しているようです。

【図表】諸外国の電動キックボード関連規制一覧
出所:日本貿易振興機構「諸外国の電動キックボード関連規制」より丸紅経済研究所作成

電動キックボードの実用化に向けた日本の課題とは

海外で着々と電動キックボードのシェアリングサービスが拡大する一方、国内では日本特有の課題により先述の海外における2つの普及要因を達成することができないことから、サービス開始には至っていません。

第1の課題は日本の道路運送車両法上、電動キックボードは原動機付自転車(以下原付)に該当すると解されていることから、海外のように自転車専用レーンでの走行ができず、車道での走行が必要となることです。

そもそも、前照灯やナンバープレート、方向指示器などが、道路運送車両の保安基準に適合していなければ、公道における電動キックボードの使用が認められていません。また、原付運転免許の所持、ヘルメットの着用、自賠責保険への加入なども求められることから、手軽に利用することができない状況です。

第2の課題は、日本でも自転車活用が推進(※6)されており、自転車通行空間の整備が進められているものの、海外に比べて自転車専用レーンが少ないことです。

例えば、増設を推進するパリの自転車専用レーン(約700㎞)は人口10万人当たり約32.6㎞であるのに対し、東京の自動車専用レーン(約112㎞)は人口10万人当たり約0.8㎞と整備が進んでいない状況です。

今後、仮に海外のように、あるいは後述する国内実証実験で認められているような自転車専用レーンを走行できるように規制を見直したとしても、自転車専用レーン自体がそもそも少なければ普及は進みにくいと考えられます。そのため、コロナ禍の影響で自転車通行空間の増設に注力している欧州(※7)のように、日本においても自転車専用レーンの増設促進が必要となるでしょう。

日本では規制を一部緩和して実証実験を開始

日本でも電動キックボード普及に向けた動きがあります。

2020年10月、国内の電動キックボード事業者などにより構成された「マイクロモビリティ推進協議会」が中心となり、新事業特殊制度として電動キックボードの利用に関する新たな実証実験を2020年10月から2021年3月まで行うことが決定されました。

この実証実験では、あくまで原付として取り扱うことになるものの、自転車専用レーンの走行許可や保安基準の見直しなど、一部の規制が緩和されています。

2020年12月に実施された、マイクロモビリティ推進協議会による実証実験結果の中間報告(※8)によると、実験参加者からは自転車専用レーンを走行する場合、ヘルメット着用義務や原付としての厳格な保安基準の必要性などが問題点として挙げられています。

また、車道を走行する場合においても、自動車との速度差による恐怖心や、駐車車両の回避方法といった問題点が指摘されており、電動キックボードの走行に適した規制見直しの要望が提言されています。

日本でシェアリングサービスの実現に向けて求められること

このように、日本で電動キックボードのシェアリングサービスを普及させるには、自転車専用レーンの少なさや車道走行時の危険性といった問題を考慮すると、速度を制限するなどの特定条件を順守すれば歩道も走行できるような規制の見直しが必要になるかもしれません。

しかし、規制導入時は歩道の走行も認めていたシンガポールや米国のカリフォルニア州では、歩行者との接触事故などが増加したことから、歩道の走行を禁止するように後から規制が見直されています。この点、日本においても歩道走行の可否を慎重に検討する必要があるでしょう。

現在、ようやく新事業特例制度における特別な規制緩和により、自転車専用レーンでの走行実証実験を開始した段階であることから、歩道における走行実証実験の実現、およびシェアリングサービス化の実現には、まだ時間がかかることが見込まれます。

今後、実証実験の結果を踏まえた改善要望を基に、どのような規制の一部緩和が認められていくのでしょうか。また、それによってラストワンマイル問題を解決する新たな移動手段として浸透していくのでしょうか。電動キックボードの実用化を巡る今後の動向が注目されます。

 

(※1)Boston Consulting Group「The Promise and Pitfalls of E-Scooter Sharing」
(※2)au損害保険「東京都の「自転車通勤」に新型コロナが与えた影響を調査」 
(※3)日本経済新聞電子版 2020年8月24日付け 有料会員限定記事「ドコモの自転車シェア、東京で利用増 用途多様化」
(※4)日本貿易振興機構「諸外国の電動キックボード関連規制」
(※5)EL PAIS「Bike lanes: How cities across the world are responding to the
pandemic」
(※6)国土交通省「自転車活用推進計画」
(※7)European Cyclists' Federation「COVID-19 Cycling Measures Tracker」
(※8)株式会社Luup(マイクロモビリティ推進協議会参加企業)
「自民党MaaS議連PTにて、マイクロモビリティ推進協議会が電動キックボードに関する実証実験の進捗状況及び課題と要望を発表」

コラム執筆:溝口 雄貴/丸紅株式会社 丸紅経済研究所