日本ビルファンドは下落、増資が嫌気された模様

前回の記事で取り上げた日本ビルファンド(NBF)(8951)は増資・物件取得の発表前の592,000円から1週間ほどで550,000円まで値を下げました。この間、東証REIT指数も1,729ポイントから1,697ポイントへと値を下げています。J-REITを代表する銘柄の大掛かりな増資・物件取得への懸念の表れと言えるのかも知れません。NBFの下落が7.1%と東証REIT指数の下落1.9%を大きく上回ることから、NBFへの懸念はより大きいものと見られます。

NBFはついに3月の急落局面の安値を割り込んでいます。現在の環境下で拡大路線をとることへの疑問は強いように思えます。ただ、そのような利益相反のみならず、今回の増資についても嫌気されていると見るのが妥当でしょう。

増資の際、投資主にとって重要になる株価(投資口価格)

不動産市況の停滞時におけるJ-REITの増資には既視感があります。J-REITは基本的に利益のほぼ全てを分配金として投資主に還元します。そのため、利益をもとに新たな物件を取得して成長することは困難です。既存の物件を売却して、新規の物件を購入することは可能ですが、+1と-1ですから物件を相当うまく入れ替えてもその成長は限定的です。そこで、J-REITは増資によって資金を募り、その資金で成長する方法をとることが一般的です。増資を行う際、既存の投資主にとって重要なのは「どれぐらいの株価(J-REITの場合、投資口価格)で増資を行えるか」です。

REITの運用がうまくいっている場合、保有不動産の評価額よりも株価は高くなります。この場合、理想的な増資ができます。たとえば、保有不動産の評価額が100億円で、運用が好調なことから150億円の評価を受けているREITがあるとします。その状態で50億円の増資を行ったとします。すると、もともとの投資主の持ち分は3/4(150億円/200億円)になります。一方、保有不動産の評価額は3/2(150億円/100億円)になります。3/2*3/4=9/8なので、もともとの投資主は増資によって、自分の持分が評価額ベースで増えるわけです。

一方、保有不動産の評価額が100億円で、運用が不調で50億円の評価を受けているREITが50億円の増資をすると、持ち分が1/2になります。一方、不動産評価額は3/2にしかならないので、1/2*3/2=3/4と自分の持分が評価額ベースで減ってしまいます。

つまり、株価が保有している不動産の評価以上の時の増資は望まれ、評価以下の時の増資は嫌われるのです。NBFの株価/評価額(これをNAV倍率と言います。NAVはネット・アセット・バリュー=保有資産の純評価額で、株式でいうPBRと考えていただければいいです)は0.97倍なので、「評価以下の時の増資」ということになります。この点でも、なぜ今増資を行ってまで物件取得を行うのかという疑問に至ります。

リーマンショックの頃、J-REIT価格は暴落し、NAV倍率は軒並み1を割り込みました。つまり、保有不動産の評価より株価が安くなったわけです。しかし、そのような状況でもスポンサーからの物件取得のため、増資をするJ-REITがありました。リーマンショックの時期は今よりはるかに不動産会社の資金繰りは苦しく、破綻する不動産会社も多数ありました。J-REITのスポンサーである不動産会社が破綻した例も少なくありません。

「みなし賛成制度」廃止の動きも

そのような状況だったこともあり、J-REITとスポンサーの利益が相反する場合、その利益相反がより目立ったように思います。特にJ-REITの場合、多くの投資法人が規約として「みなし賛成」を設定しています。これは、株式会社でいう株主総会にあたる投資主総会において、総会に出席せず、事前に議決権行使を行わなかった投資主の議決権は議案賛成と見なされるというものです。2019年にはREITで初の敵対的買収が行われ、その際もこのみなし賛成制度に疑問の声が上がっていました。直近では、このみなし賛成制度を規約から廃止し、投資主利益重視の姿勢を見せるJ-REITも出てきています。

このような中、特に2020年の不動産市況で大きなダメージを受けたのがホテルセクターでした。J-REITにはホテル中心の銘柄もあります。それら銘柄の2020年の動きにも注目すべきものがありました。次回はそちらについてご紹介したいと思います。