9月29日、トランプ米大統領とバイデン氏の第1回テレビ討論会が行われた。討論会の様子の詳細は他稿に譲りたいが、グリーン・ニューディール政策の不支持をバイデン氏が表明するなど討論会でも話題になった環境・エネルギー政策について、改めて両者の違いを整理し、バイデン氏当選の場合に生じうる変化について考察したい。

両者真逆の環境・エネルギー政策

トランプ米政権のおよそ4年間を振り返ると、気候変動に関する主流の科学的見解を疑問視する発言がみられ、「(石油・ガスや石炭などの従来型)エネルギー支援」に重点が置かれてきた。従来型エネルギー産業の支援につながる環境・エネルギー関連規制の緩和は、審議中のものを含めると100件近いと言われている。

一方のバイデン氏は、「2050年の温室効果ガス(以下、GHG)排出量ネットゼロ」という野心的な削減目標を掲げ、その達成に向けて、トランプ米大統領が緩和した規制の再強化をはじめとする各種施策を打ち出している。

米国の国際交渉の場での立ち位置はどうなるか

両者の政策を図表に整理した。最も象徴的な違いは、トランプ米大統領がパリ協定を脱退したのに対し、バイデン氏は「パリ協定への復帰」を掲げる点だ。

トランプ米大統領の就任以降、気候変動分野の国際交渉における欧州や中国の存在感は以前より高まったが、バイデン氏が当選した場合、パリ協定に復帰することで国際交渉の場における米国の存在感は再び高まるだろう。また、関連機関への資金拠出が行われるという意味で、少なくとも資金面では、国際的な気候変動対策は前進することになると思われる。

【図表】トランプ米大統領とバイデン氏の主要環境・エネルギー政策
出所:丸紅経済研究所作成

バイデン氏当選の場合に注目されるのは、交渉における米国の立ち位置だろう。同氏が掲げるGHG削減目標は気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の「1.5℃特別報告書」で言及されているものと同水準であり、欧州と同一路線である。

しかし、現在の国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)で議論の対象となっているような市場メカニズムの運用ルールに関する各論においてどのような立場をとるのかは、現時点では明確ではない。

欧州と協調路線をとるのか、中国をはじめとする新興国への歩み寄りを見せるのか、あるいは第三極となるのか、国際交渉の行く末に大きな影響を与えよう。

インフラ再構築を通じたサステナブルな成長と雇用創出

国内向けの施策についてはどうか。トランプ米大統領再選の場合は、前述の通り「(従来型)エネルギー支援」という路線を踏襲し、さらに規制緩和を進めると目される。一方のバイデン氏は、野心的なGHG排出削減目標達成のために、石油・ガス採掘時のメタン排出規制や自動車燃費規制などの環境規制強化を1つの方針としている。これは、従来型エネルギー産業や自動車産業(※1)などに大きな影響を与えるとみられる。

また、トランプ米大統領は前述のような従来型エネルギー支援を通じて雇用を守ることを強調しているが、バイデン氏の雇用創出の考え方はまったく異なる。

同氏は、サステナブルなインフラの構築やクリーンな産業を支援するとして、再生可能エネルギーの更なる拡大やEV充電インフラ整備のようなイメージしやすいものにとどまらず、老朽化の進む米国の各種インフラ(電力、水道、道路、通信など)や建物、交通機関をGHG排出が少なく気候変動の影響に耐えうるものへとアップグレードするという取組みを重視している。

この政策を通じて、サステナブルな成長とそれに伴う雇用創出を実現するというのが同氏の目指すところだ。

この実現はハードルの高いものと思われるが、実現した暁には、再生可能エネルギーやEVだけでなく、米国の各種インフラを支える産業にとって、成長の機会となろう。

 

(※1)従来型エネルギー産業に対しては他産業へのスムーズな雇用の移行に向けた支援をする旨の記述がみられるものの、すそ野の広い自動車産業に対してはサプライチェーンの国内回帰を打ち出しており、規制強化ばかりではないとの姿勢が見られる。

 

コラム執筆:宮森 映理子/丸紅株式会社 丸紅経済研究所