先週米国では新型コロナウイルス感染者増加に加え、米中関係の激化が金融市場のニュースのヘッドラインに浮上しました。米国政府によるヒューストンの中国総領事館の閉鎖の対抗処置として、中国政府は成都の米国総領事館の閉鎖を命じました。
また、アメリカのFー15戦闘機が、シリア上空でテヘラン発ベイルート行きのイランの民間航空機とニアミスが起き、機内で民間人の怪我人が出ており、改めて中東の地政学的リスクも再浮上し株式市場に不安を与えました。

最近の米国株市場ではS&P500の時価総額上位5銘柄が全体の22%を超えたこと、また、ナスダックの急騰を持って「バブル」という表現が散見されるようになってきています。確かに、GAFA+M(グーグル(親会社のアルファベット(GOOGL、GOOG)が上場)、アマゾン ドットコム(AMZN)、 フェイスブック(FB)、アップル(AAPL)+マイクロソフト(MSFT))の急激な株価の上昇を懸念する考えは分かります。こういった銘柄の株価は決して割安ではなく、割高感はあるかもしれませんが、今のマーケットで起きていることは決して「バブル」ではないと思います。

1999年のドットコムバブル時に起こっていたこと

私は、1999年当時は米国の証券会社で外国株の機関投資家営業として、後に「バブル」だったと呼ばれた米国市場にセルサイドとして携わっていました。
当時の米国企業は、社名にdot.comやinternetを付けると株価が上がるといったことが起きており、正にバブルにふさわしいことが起きていました。
当時ブームだったインターネットに絡んだ通信関係企業は、株式市場でIPOを行ったすぐ後に、公募増資を行い設備投資に回すのですが、投資に見合う利益を上げることができない会社がほとんどで、そういった会社は倒産し株式市場からはいなくなってしまいました。そのような気配は米株市場では散見できません。現在の米国のPE市場は規模が大きく懐も深く、ITバブルの時のように新興企業の資金調達は株式市場で行わなくともPE市場で完結できるようになっています。ITバブルの時と比べると、株式市場に出てくる企業は、PE市場である程度大きく育った企業が上場していると言えると思います。

約1年前の事ですが、20年前のITバブルの時に株価が暴騰し、その後暴落したものの、未だに事業を継続している日本のIT上場企業の経営者の方から直接お話を聞く機会を得ました。彼の話によると、当時はそれほど事業に株価が上がるような実態がないのに、株価だけが上がって行き、証券会社からは増資を行いませんかとの営業攻勢も激しく、ファイナンスも簡単にでき、今思うと本当に恐ろしいバブルだったと当時を振り返っていらっしゃいました。現在そのような気配はないと思います。

むしろ、GAFA+Mの株価の上昇は現在のファンダメンタルズ、そして将来の期待感で買われる、つまり、株式市場で本来行われる当たり前の理由で株価は上がっていると思います。

GAFA+Mの株価は今後どうなる?

現在米国株式市場を牽引しているGAFA+Mの5銘柄ですが、先週金曜日(7月24日)の株価で計算すると、この5銘柄だけでS&P500の時価総額の22%に相当しています。ベア派のロジックは、たった5銘柄が市場全体の時価総額の22%を占めたのはITバブル来のことであり、これらの銘柄は買われ過ぎであるというものです。

果たして、そうなのでしょうか。この5銘柄の時価総額が市場に占める割合は22%ですが、この上位5社がS&P500 に占める純利益の総額に占める割合は17%となっています。

そのブレークダウンがこちらですが、この5銘柄の時価総額全体に占める割合と、収益全体に占める割合との乖離を見てみても、アマゾンを除いた4銘柄はそれほど大きなものではありません。つまりこれらの銘柄は、市場全体比で収益が占める程度に時価総額も占めているという事です。収益が増える訳ですから、それなりに時価総額が増えることは問題がないかと思います。

また、アマゾンについては、AWSクラウド事業で得た莫大なキャッシュを、オンライン小売事業の成長の為に投資をしており、利益が減るというのは周知の事実です。

【図表1】GAFA+Mの時価総額と収益(S&P全体の割合)
出所:ブルームバーグよりマネックス証券作成

アップルは、これまでに世界中で22億台のiphoneを売ったといいます。グーグルは、世界中で1年間に少なくとも2兆件の検索が行われていると言われています。GAFA+Mが提供するサービスや商品は世界中で愛され、日々使われています。アマゾンは、米国のオンラインセールスの45%を占めています。彼らの行っているビジネスは、リアルビジネスだという事です。

この5銘柄は、今後3-5年間で平均18%の収益の伸びも期待されています。20年前のITバブル時代のIT企業とは大きく違うという事実を認識する必要があると思います。

私は前から機会あるごとに言っているのですが、株は上がり過ぎたら調整はする。これは当たり前のことであり、どんな素晴らしい銘柄であっても上がり過ぎた銘柄はテクニカルな理由で調整をすると。GAFA+M銘柄の下げはあくまでもテクニカルの下げであり、ファンダメンタルズに問題があるからではありませんし、ここから大きな下落はないと考えています。それはバブルが崩壊するからではないからです。