CEO(最高経営責任者)の行動は株価の判断材料に

米民間調査会社のコンファレンスボードが7月2日に発表した2020年第2四半期のCEO信頼感指数は44と、第1四半期の34から10ポイント改善した。CEO信頼感指数は消費者信頼感指数で知られているコンファレンスボードが発表する指標のひとつで、企業トップにアンケートで景況感、雇用情勢、所得などを調査するものである。50が強弱の分かれ目であり、一般的には43を割り込むとリセッション入りを示唆するとされている。

これまで1990年や2000年10月には30近辺まで低下、また2008年10月には20台まで下がり、その後、リセッション入りとなった。直近ではすでに2019年7月の時点で40を割り込み、30近辺まで低下している。

【図表1】 S&P500(青)とCEO信頼感指数(水色)の推移
出所:ISABELNET

CEOによる今後の経済の見通し

今回の調査によると、CEOは全体の経済状況について非常に悲観的に見ており、回答者の全員が6ヶ月前と比較して悪いと述べた。また自社の業界については、半年前より良い状態にあると述べたのは10%にとどまり、前四半期(5%)からは倍増したものの、まだまだ厳しい。その一方で、自社の業界の状況は悪いと答えたCEOは82%だった(前四半期は92%のCEOが悪いと答えた)。

さらに、今後6ヶ月の経済の見通しについては楽観的で、前四半期の50%に対し、71%が経済状況は改善すると予測し、悪化すると見ているのは16%だった(前四半期時点では44%が悪化と見ていた)。自社の業界に対する今後6ヶ月の見通しは、全体観を反映し、現在、CEOの70%が状況の改善を見込んでいるという。なお、前四半期時点では49%にとどまっていた。

相場は「ファーストイン・ファーストアウト」

人生においても相場においてもタイミングがすべてであり、時には単に幸運に恵まれることもあろう。しかし、企業のトップにカテゴライズされる人の中で、あまりに多くの人が同時に「幸運」に恵まれるのは奇妙ではないだろうか。金融市場が高値に向かって順調に上昇していた2019年、過去最高となる1480人のCEOが辞任し、さらにウォールストリートジャーナルによると、企業のインサイダーと言われる人々は株式市場が崩壊する直前に、数十億ドル相当の自社株を売却していた。2019年には新型コロナウィルスの感染拡大については予想さえされていなかったはずである。

決して彼らを批判しているわけではない。ここで共有したいのは、相場は「ファーストイン・ファーストアウト」であると言うことだ。最後まで相場に付き合っていてはいけないのである。相場は常にバブルとその崩壊を繰り返している。それでも儲けたいという欲望から、投資家は最後まで相場と付き合ってしまうことになる。

バブルだとわかっていても、売った後に相場が上昇するとたまらず買ってしまい、高値づかみをして、結局は安値で投げさせられ、大きな損失を出してしまう。大きな損失を出せば、その後の投資効率は大きく下がってしまう。相場とはそういったことの繰り返しである。幸運を手にするには企業CEOのように最後まで相場に付き合わないことである。

米バロンズ誌が選ぶ「TOP CEO 2020」

現在のような危機的状況においてリーダーシップを発揮し、企業を力強く率いていくことができるのもトップであるCEOだ。米バロンズ誌は毎年、前年の業績と投資リターンに基づくスクリーニングと、記者と編集者の合議により、特に優れたCEOのリストを作成している。

今回は、CEOの主な職務が危機管理へ変化したことを受け、「CEOが未知の困難に備えて、いかに十分な準備をしていたか」、「従業員の安全、顧客の安心、投資家の信頼を守るために、いかに迅速かつ巧みにパンデミックに対応したか」、場合によっては「新型コロナウィルスとの戦いに貢献したか」を論点に選定したという。

バロンズ誌の記事「Meet Barron’s Top CEO of 2020(バロンズ誌が選ぶ2020年世界の優れたCEO)」から、どの企業のCEOが選ばれたのか見ていこう。選出されたそれぞれの理由についてはバロンズ記事を参照されたい。選出されたリストの中から、5社のCEOをピックアップして詳細をお伝えしよう。

【図表2】バロンズ誌が選ぶ2020年の優れたCEO
出所:筆者作成

ダグラス・M・ベイカー・ジュニア(エコラブ)

エコラボは水と衛生、感染予防に関するソシューションとサービスを提供におけるグローバル企業である。近年、ニューズウィーク誌の「年間グリーンランキング」で2位、コーポレート・レスポンシビリティ誌の「ベスト・コーポレート・シチズン」で8位、そしてバロンズ誌の「最も持続可能な企業」ランキングで26位にランクインしている。また、フォーチュン誌の「世界で最も称賛される企業」に何度も選出されているほか、米企業倫理推進シンクタンクのエシスフィアの「世界で最も倫理的な企業」には13年連続で選ばれている。

ダグラス・M・ベイカー・ジュニア氏はプロテクター・アンド・ギャンブルのブランド管理部門に7年勤務した後、1989年にエコラボに入社、エコラボでは米国および欧州地域のマーケティングや統括経営部門で数々の役職を歴任し、2004年7月から社長兼CEO、2006年5月に会長に就任した。今回の危機において自社の殺菌・清掃関連品を寄付したことなどが評価されている。

メアリー・バーラ(ゼネラルモーターズ)

メアリー・バーラ氏はゼネラルモーターズの工場作業員からの生え抜きで、2014年より同社としては初となる女性CEOを務めている。就任以来、効率性の向上に取り組んでおり、「過去数年にわたって、GMを変革し、ビジネスを強化し、不況に負けないための戦略的決定と構造改革に取り組んできた」と語っている。

バーラ氏は「全体的には力強い回復を期待している」が、複数のシナリオを計画しており、「ビジネスの観点から会社が強いことを確認し、どのような結果になっても乗り切ることができるようにしている」と言う。

3月には流動性を確保するために、金融機関の融資枠から160億ドル(約1兆7860億円)の調達を実施し、いち早く財務基盤の強化に動いた。また、4月初めには、米保健福祉省(HHS)と3万台の人工呼吸器を納入する4億8900万ドルの契約を結んだ。

ジェフ・ベゾス(アマゾン・ドットコム)

倉庫での作業員を保護するために150以上の感染対策を展開している。その対応には40億ドルを費やされている。また、他の多くの企業が労働者を解雇しているなか、17万5,000人以上を雇用し、倉庫で働く人々の時給を引き上げた。

3月には従業員に以下のメッセージを出している。

世界中の人々がこの危機の経済的影響を感じています。私は悲しいかな、良くなる前に事態が悪化すると予測しています。私たちは10万人の新しい役割を採用し、ストレスと混乱が続くこの時期に注文をこなし、顧客に配達する時給労働者の賃金を引き上げています。同時に、レストランやバーなどの他のビジネスも閉店を余儀なくされています。解雇された人たちには、元の仕事に戻れるまで一緒に働いてもらいたいと思っています。
私たちに必要な仕事の多くは、在宅ではできないものです。私たちは、世界中の拠点で従業員と請負業者のために一連の予防的健康対策を実施しています。清掃の頻度と強度を高めたり、フルフィルメントセンターでの業務を調整したりして、推奨されている社会的距離のガイドラインを確保しています。私たちは毎日会議を開き、これらの対策を改善するための追加の方法を特定するために取り組んでいます。
(「A message from our CEO and founder」より一部抜粋)

マービン・エリソン(ロウズ・カンパニーズ)

ホームセンター大手ロウズ・カンパニーズのマービン・エリソン氏によるサプライチェーンと電子商取引の全面的な改良は、絶好のタイミングで実を結び始めた。2018年にCEOに就任したエリソン氏の指揮のもと、ロウズはビジネス・トランスフォーメーションを展開している。同社はウェブサイトを全面的に見直し、eコマースサービスを拡大し、プロの住宅建設業者や請負業者への販売にも力を入れていると言う。5月に発表した第1四半期の決算では一株利益や売上高が市場予想を上回った。また既存店売上高は約11%上昇した。

フォーチュン500企業のうち、黒人CEOはわずか4人であるが、そのうちの1人がエリソン氏である。CNBCのインタビュー「’Talk less and do more’ : Lowe’s CEO Marvin Ellison says corporate leaders must set up diversity efforts(「口数を減らし、もっと行動を」ロウズ・カンパニーズのCEOマービン・エリソンは企業のリーダーは多様性への努力を行うべきと話す)」によると、エリソン氏は、CEOをはじめとする企業のリーダーたちは、トップ層に多様性を加え、体系的な人種差別と闘うために、「口数を減らし、行動を増やさなければならない」と述べた。さらに「私はジョージ・フロイドの恐ろしい殺人事件を見なくても、アメリカに人種的不公平があることを理解していました。私は毎日それを生きています。」と語った。

5月下旬には、黒人やマイノリティが所有するスモールビジネスに対して2500万ドルの補助金を支給し、新型コロナウイルス大流行からの復旧と再開を支援すると発表した。同社には約11万件の助成金申請があったそうだ。また、新型コロナウイルスの感染拡大に伴うロックダウン期間中にもロウズ・カンパニーズは店を営業し続け、従業員に特別手当てを支払い、雇用も増やし、全従業員に無料の遠隔医療サービスを提供している。

クレイグ・ジェリネック(コストコ・ホールセール)

コストコの1号店がオープンしたのは1983年。クレイグ・ジェネリック氏はその翌年の1984年からコストコに入り、2012年にCEOに就任した。6月に発表した2020年2-4月期は増収増益、オンラインショッピング需要の高まりでEC売上高が約64%と大幅に伸びた。

3月には旧シアーズの子会社で宅配業社のイノベル・ソリューションズを10億ドル(約1,070億円)で買収し、従業員約1,500人の雇用も引き継いだ。イノベル社は米国で11の物流センターと約100ヵ所の小口配送センターを運営している。また、新型コロナウイルス対応では、医療従事者らの入店を優先させる方針を明らかにしていた。

石原順の注目5銘柄

エコラブ(ティッカー:ECL)
出所:トレードステーション
ゼネラルモーターズ(ティッカー:GM)
出所:トレードステーション
アマゾン・ドットコム(ティッカー:AMZN)
出所:トレードステーション
ロウズ・カンパニーズ(ティッカー:LOW)
出所:トレードステーション
コストコ・ホールセール(ティッカー:COST)
出所:トレードステーション

日々の相場動向については、ブログ「石原順の日々の泡」を参照されたい。