7月31日開催予定の株主総会で、アクティビストから株主提案を受けている東芝(6502)。その提案とは、どのような内容なのでしょうか。前回に引き続き、提案までの経緯も含めて確認していきたいと思います。

東芝に取締役選任を提案

今回の株主総会では、アクティビストである3Dオポチュニティとエフィッシモキャピタルがいずれも取締役選任の株主提案を提出しています。3Dオポチュニティは東芝株を5%程度保有しており、エフィッシモは15.4%といずれも一定数の株式を保有しています。

アクティビストにとって、会社に取締役を送り込むことはアクティビストが目的を達成するための重要な一歩です。なぜなら取締役を送り込むことで、会社の経営に直接関われるからです。会社の意思決定に加わるとともに、様々な経営情報を直接得ることができるのです。これまでにこの連載でも米国のアクティビストが様々な会社に取締役を送り込み、協働して経営改革を進めてきたことについてお伝えしてきましたが、それと同様のことを試みる動きがみられます。

会社側は12人の取締役候補を株主総会に提案しており、上記2つのアクティビストは合わせて5人の取締役候補を提案しています。会社側は2つのアクティビストの株主提案には反対を示しています。

エフィッシモは提案理由として「東芝のコンプライアンスや企業風土の改善のため」としており、経験豊富な弁護士・公認会計士、そしてエフィッシモ自身の創業者兼役員を取締役候補として提案しています。

東芝は不正会計問題をきっかけに経営危機に陥りました。また、直近でもグループ会社である東芝ITサービスが他社と実在しない取引を帳簿上存在するかのようにする架空取引を行っていることが分かっています。この点において、コンプライアンスや企業風土に問題があるという批判には仕方がない面があるように思います。

アクティビストが着目する東芝の価値

一方、アクティビスト側はそういう風土改革で東芝の企業価値が向上することを望むことに加え、東芝自体がまだまだ価値を創出できると考えているようです。東芝は自身が株主還元について説明している通り、この2年ほどの間に事業の切り離しや株式・不動産などの資産売却、旧東芝メモリの売却などで7,000億円の自己株式を取得しています。これは東芝の現金創出力を示しています。

また、インフラやビル設備、エネルギーなどの分野で継続的な利益もあげています。そしてなにより、現在はキオクシアに社名を変えた旧東芝メモリ株を議決権ベースで40%強保有しています。東芝は6月22日にキオクシア株の現金化ならびにその資金の過半を株主還元に振り向けることを発表しました。これは株主総会へ向けて、株主還元の姿勢をより強くアピールするものだと考えられます。おそらくアクティビスト側もこのキオクシア株式をどのように株主還元に活かすかについて注目していることでしょう。

窮地の東芝に投資したアクティビスト

アクティビストがこれだけ東芝株を保有するようになったのは、東芝が2017年に実施した増資がきっかけです。原発事業などで巨額の赤字を計上し、債務超過となっていた東芝は旧東芝メモリの売却で債務超過を回避しようとしていましたが、その売却がまとまらない中、上場廃止の危機を迎えていました。

そこで、急遽6000億円規模の増資を行い、債務超過を解消して上場廃止を免れました。エフィッシモも3Dオポチュニティもこの時の増資に応じて株式を保有することになったのです。(エフィッシモは本件増資以前から10%程度東芝株を保有していました。)この割当先には海外ファンドがずらりと並び、国内勢はほとんどいなかったとされています。エリオットやサードポイント、オアシスなど有力アクティビストの名前も目立ちます。

これらのファンドが窮地の東芝に投資したのは、旧東芝メモリを含め東芝に価値があると認めたからでしょう。そしてなにより、その価値を実現できると判断したというところが重要です。このような価値の実現はまさにアクティビストが得意とするところです。アクティビストが引き受け手に並んだのはそういう理由があるようです。そう考えると、引き受け手の中に国内勢がいなかったのは残念なことのように思います。

今回の東芝の株主総会における経営側・株主側の対立にはいろいろな意見があるようです。ただ、実際に東芝が経営危機に追い込まれた際に合計6,000億円もの増資を引き受けたのがアクティビストを中心とした海外ファンドだったという事実は、重要なポイントだと思います。