前回に引き続き、注目を集めた大戸屋ホールディングスの株主総会を例に、アクティビズムの動きについてお伝えしたいと思います。

コロワイド提案は否決

「甘太郎」「北海道」など居酒屋チェーンを経営し、「かっぱ寿司」のカッパ・クリエイト(7421)や同じく回転寿司チェーンを運営するアトム(7412)などを買収してきたコロワイド(7616)。そのコロワイドがターゲットとしたのは定食屋チェーンで有名な大戸屋ホールディングス(2705)でした。

コロワイドは大戸屋株の20%弱を取得し、株主総会で経営陣の交代を訴えたのです。しかしながら、6月25日に開催された株主総会ではコロワイドの提案、つまり株主提案は否決され、大戸屋の現在の経営陣の勝利となりました。

大戸屋の勝利の背景

大戸屋側の勝利について各メディアでは、大戸屋経営陣の「手作り(店内)調理」「創業精神」の訴えが同社の株式の60%程度を握る個人投資家に響いたと報じられています。今回のコロワイドによる株主提案に対し、大戸屋は5月25日のリリースで反対の決議を案内しています。そのリリースではコロワイドの主張を「セントラルキッチンの利用など単純なコスト削減に偏った施策」とし、それはコロワイドの経済的利益が追求される一方で大戸屋の「企業価値・ブランド価値の源泉である美味しくかつ健康に資する料理を提供するという創業以来の経営理念や基本方針」を蔑ろにするものだとしています。

確かに、大戸屋のような日常使いの定食屋の美味しさと健康を訴えられると否定しにくいでしょう。まして大戸屋の実質創業者は「健康的で美味しい料理を提供してお客様に喜んでいただきたい」という揺るぎない信念のもとで「セントラルキッチンを使うことなく、品質の根幹となる味と栄養を重視し店舗網を拡大し、業績を伸ばしてきた」と言われると、大戸屋のファンはうなずいてしまうのではないでしょうか。

そして、大戸屋株を保有している方の多くはその大戸屋ファンに他ならないでしょう。しかし、前回の記事にも書いたとおり、大戸屋はこの3年ほどは営業減益で2020年3月期には赤字に転落していることも事実です。

業績を争点にしたかったコロワイド

では、コロワイドはどういう主張をしていたのでしょうか。コロワイドが4月14日に出している株主提案のリリースを確認してみましょう。コロワイドが大戸屋株を取得したのは2019年10月でした。その後、コロワイドは大戸屋の業績改善提案をしてきたものの、大戸屋経営陣に拒絶されてきたとしています。コロワイドが「業績改善」というのは、この3年間、大戸屋の既存店売上高はほぼ一貫して前年割れが続いており、それが上記の業績低迷につながっているからです。2018年頃から大戸屋の既存店売上高は前年割れが多く、2019年9月には8.6%減、消費増税後の10月に11.8%減と非常に厳しい数字です。

競合のプレナス(9945)が運営する「やよい軒」は2018年頃に概ね前年並で2019年も大戸屋よりは好調そうです。大戸屋は2019年4月に新グランドメニューを導入し、10月にはその改定を行っているとしていますが、数字を見る限りそれらの施策が利用者の支持を得ているとは言い難いようです。

また、興味深いのはコロワイドも大戸屋創業者の「大戸屋を日本一の定食屋にする」という理念を訴えている点です。コロワイドは大戸屋に「セントラルキッチンの活用」を訴えているものの、その中では「大戸屋の強みである品質や店内調理の良さを維持」としています。コロワイドは大戸屋の株主提案反対のプレスリリースに対し、再度同様の意図を訴えると同時に、「別の施設で料理をまとめてつくる、味や鮮度といった品質の低下を招くといった報道は誤っている」としています。

結果的に株主提案が否決されたため、これらの主張は大戸屋株主を納得させることはできなかったわけですが、大戸屋の業績を考えると一定の合理性はあったのではないかと思います。コロワイドとしては、「手作り料理」「創業精神」ではなく、本来は大戸屋の業績を争点としたかったのでしょう。

大戸屋にもたらされた変化

大戸屋も2月28日に経営改善計画、5月25日に中期経営計画を発表するなど、矢継ぎ早に経営改善の動きを進めています。2月28日の計画に数値目標がないことをコロワイド側が批判したことを受けてか、中期経営計画には2023年3月期の具体的な経営数値目標を記載しています。

今回の株主総会では株主提案が退けられたものの、コロワイドが依然20%近い株式を保有していることに変わりはなく、経営陣はかなりの緊張感で業績改善、数値目標の達成に努めねばならないでしょう。それは大戸屋株主に福音となり、利用者にとってもいい話になると思います。なぜなら、大戸屋の利用者の支持なくして業績改善などは不可能ですから。

そういう変化は内からも生まれうるものの、一定の外圧がそれを促進することは間違いないように思います。こういう動きを起こしうるのがアクティビストであり、ただの会社資産の奪取ではなく、創造的な変化を促すことこそが「アクティビズム2.0」と言える動きなのでしょう。