JR九州(9142)は2016年10月にJR本州三社(東日本・西日本・東海)に続く形で上場しました。続く形とは言いますが、上場時期は、東日本が1993年、西日本は1996年、東海は1997年なので実にJRグループとして、20年近くぶりに上場したというわけです。国鉄が分割民営化されて生まれたJR7社のうち、本州三社以外はもともと経営基盤が厳しいと言われていました。
事実、九州以外の残りの二社(北海道・四国)は経営の厳しさを伝えられることが多く、株式上場は当面難しそうです。なので、20年ぶりとは言ってもJR九州が上場にこぎつけたことは分割民営化後の同社の努力に他ならないと思います。もちろん、他のJR各社の努力が足りないと言いたいわけではありません。JR北海道の「地域交通を持続的に維持するために」は人口減少期における公益企業がどうあるべきかなど考えさせられることが多いです。
アクティビストへのJR九州への提案を見る前にJR九州がどういう会社かを確認しておきましょう。JR九州の最大の特徴は鉄道業への依存が低いことです。JR九州の売上高に占める運輸サービス事業の比率は32.1%です。JR東日本(9020)は運輸業が63.1%、JR西日本(9021)は51.3%、JR東海(9022)は69.9%です。百貨店・スーパーや不動産など私鉄各社は多角化を進めていることが多いのですが、旧国鉄の会社としては低いことが分かります。
JR九州の売上高をセグメント別に見ると、流通・外食が19.4%、建設が18.4%、不動産・ホテルが16.8%と様々なビジネスを大きなサイズで行っていることが分かります。特に不動産・ホテルは191億円と、運輸サービスの198億円に匹敵する利益をあげています。JR九州は運輸・不動産を主軸にした九州のコングロマリット企業であるとご理解いただければいいように思います。(数字はいずれも2020年3月期)
そのJR九州の発行済み株式の5%超を取得し、2019年と2020年の株主総会に株主提案を行っているのがアクティビスト、ファーツリー・パートナーズです。ファーツリーはJR九州への提言を取りまとめたウェブサイトでJR九州の株主へのメッセージを掲載しています。そのメッセージによれば、ファーツリーは上場当初からJR九州に投資しており、同社の不動産業が「まちづくり」のコンセプトのもと売上をあげており、同社の未来が非常に明るいと考えられていたとしています。
一方、上場時の経営陣の目標が達成されず、売上高は増加しているものの、純利益は2017年以来減少傾向が続いており、ROE(自己資本利益率)が半減していることを問題視しています。ROEの悪化の要因として「監視されず、かつリターンの目途がほとんど無いにもかかわらず行われた、タイから東京に至るあらゆる場所に対する長年の成長投資」をあげています。つまり、ファーツリーはJR九州の資産構成を問題視しています。資産を適切に売却し、成長投資や株主還元に充てることを求めていると言っていいでしょう。
確かに、JR九州は上場直後の2017年度決算の純利益504億円が2018年度は492億円、2019年度は315億円と低迷しています。2017年度のROEは14%でしたが、2019年度は7.6%とほぼ半減しています。ただ、2018年度の減益は営業利益ベースだと0.1%で、2019年度の純利益が大きく落ちたのは新型感染症の影響で第4四半期(2020年1月~3月)が赤字に転落したためで、それをもってROEが半減というのもやや牽強付会(けんきょうふかい)なように思います。
もちろん、直近10四半期の営業利益は7期が前年同期比マイナスで、同社株は上場した2016年10月の終値が3,090円、2019年12月の終値が3,650円と18%上昇ではあるものの同期の日経平均が36%上昇していることを考えると、株主が不満を思うのも理解できるように思います。次回はファーツリーの株主提案の具体的な内容を見てみましょう。