「香港国家安全法」に対する抗議デモ発生

5月中旬~下旬の中国本土株は、途中までは横ばい基調で推移しました。しかしながら、5月22日(金)に中国政府が香港の統制強化のため「香港国家安全法」を制定する方針を表明したことから、再び緊張が高まることへの懸念が広がり、株価は大きく下落しました。

「香港国家安全法」は中国政府に対する反逆や扇動、政権転覆などを禁止するものです。しかし、国家安全法の効力がどこまで及ぶのかなどの詳細が未定であるため、国際的なビジネス・金融拠点としての香港の将来的な地位が後退しかないとの懸念が広がっています。

5月24日(日)には統制強化の動きに抗議するデモが行われ、180人以上が逮捕されました。警察側も少なくとも4人が負傷する事態となっております。また、5月22日(金)の香港ハンセン指数は前日比5.56%の大幅な下落となって50日移動平均線を大きく割り込み、上海総合指数も50日移動平均線を割り込んでいます。

今後については、5月22日(金)に中国で開幕した全国人民代表大会(国会に相当)で同法案が承認される見通しで、その後に具体的な文言が制定されていくことになりますが、これがどういった内容になるかが焦点となります。

米国はすぐさま反発

香港の林鄭月娥(りんてい げつが)行政長官は、同法案が政権転覆など、「香港内政への干渉行為」といった犯罪のみを標的としていると述べています。しかし、欧米企業にも影響が及びかねない内容となれば、香港からの資本流出や企業の移動などへ繋がる可能性もあります。

米国は同法案の制定示唆と同時に、すぐさま中国の33団体・企業に事実上の禁輸措置で反発しています。その直前にも華為技術(ファーウェイ)に対する禁輸措置強化を発表しております。

また、中国企業の米国株式市場からの締め出しにつながりかねない「外国企業説明責任法」を全会一致で可決するなど(アメリカの取引所に上場する外国企業は、当地の会計基準、財務諸表規則を遵守しなければならない)中国株に対する投資を制限する動きも見せており、1週間で米中の対立は一層深まっています。

さらに超党派による対中制裁法案の提出も検討されており、今後は米中対立への懸念が相場の大きな焦点となりそうです。

全人代では新鮮味のある政策が出ず

一方、5月22日(金)に開幕された全人代では、同日の午前中に李克強首相の政府活動報告が行われました。しかしながら、今年の経済成長率の目標設定が見送られるなど、新鮮味のある政策が出なかったことなどから株価への影響はむしろマイナスに働いています(ちなみに「香港国家安全法」を制定する方針もこの報告の中でなされました)。

新型コロナウイルスの影響によって中国経済はスローダウンしており、それを理由に経済成長率の目標を立てないということであれば、政府は株式市場で期待されていた積極的な金融緩和や財政投資などを実施し、景気の急回復を目指す意向がないということにもつながります。もちろん、合計で2兆元ほどの財政投資拡大は行われるのですが、これはある意味予想の範囲内の数字であり、インパクトのあるものではありません。

ここまでに書いてきたように、香港が米中対立の一番大きな悪影響を受ける形になっています。今後は米国の対中強攻策や香港のデモの影響を受け、しばらく香港株は軟調に推移しそうです。

ただ、対中強攻策は米国経済への影響も大きいこともありますので、株価に大打撃を与えるような政策は採られないとの見方もあります。今後、考えたいのは香港デモによる業績への影響を受けにくい中国の優良株が大きく下がったところでの購入でしょう。

現在はショックのような状況で業績に関係なく全体的に売られている状態です。これがしばらく続けば優良株の良い買いのチャンスになると思いますし、銘柄を入れ替えるチャンスにもなると思います。